IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

SNS野球ゲームの著作権侵害・控訴審 知財高判平27.6.24(平26ネ10004)

プロ野球ドリームナイン」を提供していたXが,「大熱狂!!プロ野球カード」を配信するYに対し,著作権侵害等を理由に損害賠償請求,差止請求した事件の控訴審。すべての請求を棄却した原審と異なり,一部の選手カードについて著作権侵害を認めた点が注目される。

事案の概要

事案の概要は,一審判決(東京地判平25.11.29)に記載のとおり。

http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20140406/1396713162


実名を使ったプロ野球選手のカードゲームに関するゲームの構成や,カードそのものが類似するとして,Xが著作権侵害等を主張していたが,原審ではXの請求がすべて棄却された。なお,Xの請求のうち,著作権侵害に基づく差止請求と,不競法に基づく請求については控訴審の対象となっていない。

ここで取り上げる争点

Yによるゲーム配信行為が著作権侵害を構成するか。

裁判所の判断

著作権の対象としてXが主張していたのは,「選手ガチャ」の部分と,個別の選手のカードについてである。結論からいえば,裁判所は,「選手ガチャ」については著作権侵害を否定し,個別の選手のカードのうち,中島選手,ダルビッシュ選手については著作権侵害を認め,その他の選手については否定した。複製及び翻案の規範については,従来の江差追分最高裁事件を踏襲しているので,ここでは引用しない。


注目すべきは2選手について選手カードの著作権侵害を認めたという点にあるので(他の2選手については否定),読む時間があまりないという方は,後半部分に注目していただきたい。

選手ガチャ

選手ガチャの共通点について,

XゲームとYゲームとは,
[1]黒色の画面上に白を基調としたパッケージが現れ,クリックすると当該パッケージの上部に左から右へと高速で白色の光線が走り,当該部分が左から右へ水平方向に切り取られて開封され,すると,パッケージ内に在中して既にカード上端が露出している選手カードがせり上がり,当該パッケージの開封部から当該選手カードの上部背景が露出し,続けて,当該パッケージが下方向に移動して画面下部に消えるとともに,当該選手カードは当該パッケージから上方向に移動するという一連の流れの点,
[2]最終的に選手カードが出現する直前に画面全体が一瞬白く光る点,
[3]その後,当該選手カードが上部に「NEW」という表記を伴って画面上に現れ,その背景には金色の後光が差している,という点
において,共通している。

と述べたが,相違点として,

[1]パッケージのデザインは大きく異なる。
また,上記共通点[1]に当たる一連の流れの中でも,個々の具体的な動きについては,次の点で相違する。すなわち,両ゲームは,
[2]パッケージの登場の仕方
(Xゲームにおいては,パッケージがふわふわと浮遊し,クリックされると前方にせり出して大きくなり,固定されるのに対し,Yゲームにおいては,パッケージは終始固定され,クリックされてもサイズや位置の変更はされない。),
[3]パッケージの切り取られた部分の破り捨てられ方
(Xゲームにおいては,切り取られた部分が右向きに90度回転してから右上方向に移動するようにして破り捨てられるのに対し,Yゲームにおいては,切り取られた部分はそのまま水平方向に移動するようにして破り捨てられる。),
[4]カードのせり上がりの程度
(Xゲームにおいては,選手カードがその背景上部が若干見える程度にせり上がるのに対し,Yゲームにおいては,球団のロゴマークや稀少度を示す背景が判別できる程度に上部を露出させるまでせり上がる。),
[5]選手カードの消え方及び現れ方
(Xゲームにおいては,選手カードはパッケージ内から白色となって現れ,そのまま光りつつ回転しながら上昇し,画面全体が白く光った後に突然画面中央に表れ,ふわふわと浮遊するのに対し,Yゲームにおいては,パッケージが下方向に移動して画面下部に消えるとともに選手カード全体が徐々に白くなり,白色になると急激に選手カードが上昇して画面上部へと消え,その後に当該選手カードが画面上部から下りてくる。)
の点で相違する。

と,共通点,相違点を認定した。下記の画像は,その途中のスクリーンショットである(左側がXゲーム,右側がYゲーム。以下同じ。)。


これらの評価については,引用は控えるが,

  • 共通点[1]の特徴の一部については,既存のゲームにも採用されているありふれたものであること,
  • 共通点[1]のうち,既存のゲームに採用されていない部分はありふれたものとまではいえないが,一連の動画のうち0.1秒ないし0.2秒と,ごく一部に過ぎず,選手カードの個々の動きについては相違していること,
  • 共通点[2]は,「当たった選手カードの内容がすぐに分からないようにするためのものであるが,選手カードに対する利用者の期待感を高めるものとして表現上特別の工夫があるとはいえない」上に,既存のゲームでも採用されているものであること,
  • 共通点[3]は,新たな選手カードの登場に迫力を持たせ,利用者に抱かせた期待感に応えるためのものとして表現上の特別の工夫があるとはいえないこと

であるとしたうえで,

両ゲームの選手ガチャは,上記イ(イ)のとおり,一連の流れの中の個々の具体的な表現内容において大きく相違し,その相違点は創作性がある共通点の部分から受ける印象を大きく上回るものというべきであるから,両ゲームの選手ガチャに接する者が,その一連の動画全体から受ける印象は異なり,Yゲームの選手ガチャからXゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない

として,著作権侵害を否定した。


下記の図は,判決文に別紙として添付されていた選手ガチャにおけるカード開封時の動画の一部のスクリーンショットである。左側がXゲーム,右側がYゲーム。

選手カード

本件では,中島,ダルビッシュ,今江,坂本の4選手のカードの著作権侵害が争われた。両社とも,これらの選手のカードでの使用は,社団法人日本野球機構の許諾を受けており,写真は,同社団法人から提供されたものを使用している。


以下,判決文に添付されていた4選手のカード画像を対比したもの。




例えば,ダルビッシュ選手については,

[1]本体写真について,その具体的なポーズ,大きさ及びそのカード上の配置の点で,その具体的な表現が一致する。すなわち,いずれの本体写真も,投球動作に入った右投手であるダルビッシュ選手が,左脚を前に,右脚を後ろにして,脚を前後に大きく開いて重心を下げ,左腕を前に振り出し,右手はボールを握って右腕を後方に引き,打者方向を鋭くにらんでいる投球直前のポーズの全身写真であり,この本体写真が,カードの中央よりやや左に配置され,頭はカードの上部から略3分の1の位置にあり,足はカードの辺に沿って描かれた枠よりも外側にあり,両足の足首近くの部分から下はカード外となって見えない。

[2]本体写真の上半身を大きく拡大し,本体写真よりも多少色を薄くした背景写真が,多色刷りで残像のように二重表示されていること及びそのカードにおける配置,

[3]本体写真の下部に,本体写真と背景写真の間に入るように炎が描かれるとともに,全体の背景としても炎が描かれ,中央から外方向へ放射線状の閃光を表すような黄色又は白の直線的な線が四方へ向けて描かれているという点,

[4]カード左上には所属するチームのロゴマークが記載されている点

で具体的な表現が一致する。

他方で,相違点としては,次のような点を挙げた*1

[1]背番号の数字及び選手の氏名の記載部分の表現や金星の数,

[2]下の背景部分の選手カードの所属球団を表す色がXゲームの選手カードには存在するのに,Yゲームの選手カードには存在しない,

[3]二重表示の写真の具体的な大きさ(Xゲームの選手カードでは縦横各約1.9倍程度に対し,Yゲームの選手カードでは縦横約1.6倍である。)や具体的な色味(Xゲームの選手カードでは本体写真と同様の色調で多少薄くなっているのに対し,Yゲームの選手カードでは,全体的に背景の黄色味を帯びた色調となっている。),

[4]炎の具体的な色味(Xゲームの選手カードでは赤色を基調とするのに対し,Yゲームでは金色を基調とし,炎が達していない上部部分は黒色の背景となっている。)及び閃光を強調する楕円形状の光の玉がYゲームの選手カードには存在するのに,Xゲームの選手カードには存在しない

という点が相違する。


これらの共通点,相違点を前提として,複製及び翻案の成否を検討するにあたって,裁判所は「選手カード」の本質的特徴がどこにあるかということを丁寧に検討している。少々長いが引用する。

選手カードは,選手ガチャ,スカウト(Yゲームではミッション),オーダー,強化及び試合の各要素において使用されるものであり,いずれの要素においても,基本的には対象となる選手を特定する機能を有するものである。そして,Xゲーム及びYゲームの目的のうち,選手力の強化によるチームの強化によって対戦相手との戦いに勝利するという点からすれば,選手カードの表現は,写真により選手が特定されれば十分であるということになる。
しかし,他方で,Xゲーム及びYゲームは,選手カードを収集すること自体をも楽しむものでもあり,また,育成的,戦闘的ゲームであることを考慮すると,選手の特色(希少性)及び戦闘性が,どのような態様でカードに表現されているかも,利用者にとって重要な要素となるものといえる。このことは,一般にトレーディングカードにおいては,対象となる人物以外の背景として,多種多様な背景が描かれていることからも明らかである。
そのようなXゲーム及びYゲームにおける選手カードの位置付けに照らすと,選手の力強いプレーの様子を表す選手のポーズと構図は重要な要素であり,また,戦闘性,希少性を表す背景の描き方,配色も,選手カードに接する者の印象を判断する上で重要な要素を占めるものということができる。具体的には,選手のポーズ及び構図においては,選手がプレーの中でとっているどのポーズを採用するか及びカードにおける配置が重要であり,背景としては,選手の動きを表現し,選手の表情を強調するための選手の二重表示の有無及び配置,さらに,選手の強さや戦闘性を強調する構成,配色が重要な要素であり,これらの点を組み合わせた具体的な表現が,選手カードの表現上の本質的特徴を構成するものとみるのが相当である。
他方,利用者はプロ野球について一定以上の知識を有しているのであるから,写真により選手を特定できればその所属チーム,氏名や背番号などは知っているのが一般的であって,これらの情報がどのようにカードに表示されているかは選手カードの表現上,これに接する者の目を惹く要素とはいえず,表現上の本質的な特徴とはいえないというべきである。

このように,選手カードの本質的特徴がどこにあるのかということを認定したうえで,ダルビッシュ選手については,

両ゲームのダルビッシュ選手の選手カードについても,前記イbのとおり,本体写真のポーズ及び配置,多色刷りで本体写真を拡大した二重表示部分の存在,部位や位置関係,背景の炎及び放射線状の閃光の描き方という具体的な表現が共通であり,これによってダルビッシュ選手の力強い投球動作による躍動感や迫力が伝わってくるものであって,両選手カードは,表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ,また,その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的表現があるものと認められる。
これに対し,ダルビッシュ選手についての各相違点が上記共通点から受ける印象を凌駕するものとはいえないことは,中島選手と同様である*2

と述べて,Yゲームのダルビッシュカードは,Xゲームのダルビッシュカードを翻案したものであるとした。


他方で,坂本選手,今江選手については,複製または翻案を認めなかった。今江選手については,以下のように,ポーズが違っているとし,坂本選手については選手の二重表示がないため,本質的特徴を異にするとした。

両ゲームの今江選手の選手カードについては,前記イdのとおり,いずれも打席でスイング前の状態を右横から撮ったポーズである点で共通し,多色刷りで大きい二重表示部分の存在や位置関係,背景の炎及び放射線状の閃光の描き方という点で具体的な表現が同一であるものの,Xゲームの同選手のカードでは,同選手がバットを立てて構えており,相手の投手と対峙している一瞬の静的状態をとらえたものであるのに対し,Yゲームの同選手のカードでは,同選手が既にバットを後ろに引き,相手の投手の投げるボールに合わせてスイングを開始する直前の動的瞬間をとらえたものであるため,両者は,その表現上の本質的特徴を異にすると認めるのが相当である。


その他,Yの主張について,裁判所は,要約すると,次のように退けた。


Y「選手の写真は球団から提供されたものであって,その選択には創作性は認められない」
裁判所「どのポーズの写真を選択し,カードのどの部分に配置するかは選択の余地がある」


Y「選手の二重表示は遅くとも平成15年以降から存在する」
裁判所「二重表示はあるが,白黒であったり,配色が違う。ファイアーモチーフは使用されていない。」


Y「背後のファイアーモチーフや閃光は,平成20年ころの米国プロレストレーディングカード等でも使用されていた」
裁判所「ファイアーモチーフといっても,爆発するような表現のもの,メラメラと火炎を上げるものなど,具体的な表現や人物画像との組み合わせ方は様々であり,Xカードのような表現方法は存在しなかった」


などとひとつずつ丁寧に退けつつ,次のように締めた。

以上によれば,確かに個々の表現自体を分離してみれば,同様の表現を採用したカードが存在し,特に個性的な表現とまではいうことはできないものの,Xゲームの選手カードにおいては,中島選手及びダルビッシュ選手の特定のポーズの本体写真を,カードの中央よりやや左に配置し,頭がカードの上部から略3分の1の位置にあり,足はカードの辺に沿って描かれた枠よりも外側にあり,両足の足首近くの部分から下はカード外となって見えないという位置に配置し,二重表示の背景写真(本体写真以外の部分)として,本体写真の上半身部分を大きく拡大した多色刷りの写真を,カードのほぼ中央部分に,本体写真の背景として,選手カードの縁まではみ出すように配置し,これらの写真の間に横切るように及び全体の背景として,黄色ないし赤色の炎と,放射線状の閃光と組み合わせることにより,選手の躍動感や迫力を表現しており,そこに,Xゲームの選手カードの本質的特徴が認められるのであって,それらを総合した組合せがありふれた表現としてその創作性が否定されるものとはいえない。


また,依拠性,過失等のその他の要件についてもXの主張が認められている。


問題は,上記2選手についての損害額である。Xは,著作権法114条2項による損害額の推定(利益の額を損害の額と推定する規定)を主張していた。


裁判所は,次のようなロジックで損害の額を算定した。

  • Yが2選手のカード表現を変更するまでの9日間において,レアパックの販売で得た利益は約1540万円
  • レアパックによって入手できる選手カードは合計996枚だが,その中のスター,スーパースターカードは合計で204枚存在していたが,配信時に公開されていたのは各球団1名の合計12名のみ(中島,ダルビッシュ両選手はここに含まれる。)
  • 両選手とも人気が高いことから,少なくとも8%(約123万円)は,2選手によってYが得た利益と推定される
  • (推定覆滅事由として)
    • Yゲームのレアパックは,Yゲームにおいてのみ利用できるものであるから,Yの著作権侵害がなかったとしても,Xゲームのレアパックを販売することができたとはいえない
    • とはいえ,両プラットフォーム(MobageGREE)の重複利用者は平均47%であり,ゲームのルールが同じ場合には,選手カードの種類,デザインが影響を与える
    • 選手カードがどのように表現されているかという点が,利用者のゲームの選択に与える影響は低い
    • Yの著作権侵害がなかったとしても,XがXゲーム上でのレアパックを販売することができたとは認められない割合は90%はある(つまり,推定額の90%は覆滅される)
  • よって,2選手の著作権侵害によってXが被った損害は約12万円(弁護士費用としてこのほかに20万円)

若干のコメント

原審では著作権侵害を認めなかったのですが,控訴審では2選手のカードについてのみ侵害を認めました(ゲーム全体の著作権侵害や,選手ガチャの様子,あるいは一般不法行為についてはすべて否定。)。


知財高裁の判断手法は,分析的で,選手カードにおいてユーザがどのような点に注目するかということを丁寧に検討したうえで本質的特徴を捉え,本質的特徴部分が共通するか,相違するかということを判断しました。


こうして言葉にしてみるとわかりにくいものの,実際にカードを比較してみると,特に中島,ダルビッシュ両選手についてはソックリですね。


もっとも,配信期間が9日間だけだったことや,全体の一部のカードだけだったことや,販売されていたのがカードそのものではなく,レアパックというゲーム内でのみ使用できるデジタル商品であったことからして,損害の額は非常にさびしいものとなりました。

*1:引用箇所は中島選手について述べたものであるが,ダルビッシュ選手についても同様だとされた。

*2:相違点については,本質的特徴以外の部分であるとか,全体の印象を左右するような大きな違いではないなどとされた。