使用許諾が撤回された後の利用行為についても,当事者間の関係等に鑑みて使用許諾の範囲内であり著作権侵害にはあたらないとした事例。
事案の概要
X社は,JOB管理表システム,勤怠管理システムをはじめとする9つのシステムから構成されるXシステムを開発した。
Xと密接な関係を有していたY社は,Xシステムを使用していたが,Xは,Yが無断でXシステムを複製,使用しているとして,著作権法112条に基づくプログラム等の複製,公衆送信の差し止めと,プログラム等の廃棄を求めるとともに,約1億1000万円の損害賠償を求めた。
当初は,YはXの許諾のもとにインストールされ,使用されてきたところ(書面による使用許諾契約等はなかった。),XY間の関係が問題視された後も一定期間Yが使用していたことが主に問題となっている。
ここで取り上げる争点
著作権侵害の有無(Xによる許諾の有無)
裁判所の判断
裁判所は,XはYに対してXシステムのインストール,使用を許諾していたとして,著作権侵害を認めなかった。
本件インストールは,Yが,Xの一部門のような地位にある状況下において,XとYにおいて共通のシステムを使うことにより発注業務等を効率化する目的でされたことからすると,Xの上記許諾はバージョンアップされた本件プログラム等の使用についての許諾も包含するものと認められる。
また,Yは,Xが本件インストールに係るプログラムの使用を問題とする態度を示した平成25年1月以降も,遅くとも平成25年11月まではその使用を継続したものであるが,企業で使用される業務管理システムを他のソフトウェアに移行するには相応の準備期間を要すること,本件インストールの許諾が,XY間のそれまでの友好的関係を前提としたものであって,一定の継続的使用についての期待が生じていたことなどからすると,無償の許諾といえども,許諾者の撤回により直ちにその使用の継続が著作権侵害等を構成する違法なものとなるとみるべきではなく,上記のようなシステムの移行等のための相当期間内の本件プログラム等の使用は,なお使用許諾の範囲内のものというべきである。
以上より,その他の争点については判断せず,すべてXの請求は棄却された。
若干のコメント
プログラムの著作物の事案だと思って興味深く読み始めたものの,実際には,プログラム著作物の名を借りた感情的な問題であるという印象を受けました。
裁判所は,業務システムの場合には,使用許諾が撤回されたとしても,移行のための相当期間は,なお使用許諾の範囲内であると判断しましたが,これは,XY間の長年の特殊な関係に鑑みて,特別に判断したものと考えられますから,これを一般化して,業務システムは許諾期間満了後も別システムへ移行するまでの間は使用できる,と解することはできないでしょう。