IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

SNS野球ゲームの著作権侵害 東京地判平25.11.29(平23ワ29184号)

プロ野球ドリームナイン」をGREE上で提供していたXが,Mobage上で「大熱狂!!プロ野球カード」を配信するYに対し,著作権侵害等を理由に損害賠償請求,差止請求した事件。

事案の概要

Xは,平成23年3月以降,GREEにおいて,「プロ野球ドリームナイン」というゲーム(Xゲーム)の配信を行っていた。同じく,Yは平成23年8月頃から,Mobage上で,同じくプロ野球ゲーム(Yゲーム)を配信していた。


Xゲームは,プロ野球カードゲーム形式のSNSゲームで,選手カードをガチャ等の方法で入手し,独自のプロ野球チームを作成,編成していくものであった。NPBから承認を受けて,選手カードには実名が使われていた。


Yゲームも同様に,プロ野球カードゲーム形式のSNSゲームで,選手カードをガチャ等の方法で入手することや,理想のプロ野球チームを編成していくことを内容とする点などが共通していた。選手カードは実名が使われていた。


具体的なゲームの構成や中身なども類似していたことから,XはYに対し,著作権侵害不正競争防止法違反(2条1項1号,2号,3号),不法行為(予備的請求)を理由として,約5000万円の損害賠償のほか,Yゲームの配信差止等を求めた。

ここで取り上げる争点

著作権侵害の有無


Xは,Xゲームについて,「選手ガチャ」「強化」「試合」「選手カード」にかかる個別の表現について著作物性が認められるとしていた。


例えば,「選手ガチャ」については,ガチャを実行すると

  • 画面上にパッケージが現れ
  • 当該パッケージ上部が横に破られると
  • パッケージからカード上部のみが現われ
  • パッケージ中のカードが取り出されると
  • 画面全体が一瞬白く光り
  • 金色の後光がさすようにカードが出現する

という演出が,XゲームとYゲームとで共通するとしていた。


また,「選手カード」のうち,「ダルビッシュ選手」については,

  • 背景に炎が燃えるようなファイアーモチーフが用いられること
  • カード右方向を向いて左足を大きく前に出し,右手に持ったボールを投げようと後ろに振りかぶった瞬間を右側から撮影していること
  • その背景にかかる写真と二重となった写真が,残影のようなデザインとなっていること
  • 左上には所属チームの日ハムのロゴが掲載され,下部には背番号11と氏名(英表記)と,希少性を示す金星が表示されていること

棟が共通するとしていた。

裁判所の判断

まず,複製又は翻案の成否について,江差追分事件最高裁判決等を引用しつつ,次のように述べた。

複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との共通性を有する部分が,著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である。
そして,「創作的」に表現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,作者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが,他方,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作者の個性が表現されたものとはいえないから,創作的な表現であるということはできない。


以下では,Xが主張した個々の個別表現について裁判所が著作権侵害の成否について論じているが,大部にわたるため,一部の表現のみを抜粋して紹介する。

選手ガチャ

裁判所はXゲームとYゲームについて,選手ガチャに関して以下の点を共通すると認めた。

XゲームとYゲームとは,
[1]画面上にパッケージが現れ,クリックすると当該パッケージはその上部が横方向に破られて開封され,すると,在中する選手カードがせり上がり,当該パッケージの開封部から当該選手カードの上部が露出し,続けて,当該パッケージが下方向に移動して画面下部に消えるとともに,当該選手カードは当該パッケージから上方向に移動し,次いで,
[2]画面全体が一瞬白く光り,さらに,
[3]当該選手カードが上部に「NEW」という表記を伴って画面上に現れ,その背景には金色の後光が差している,
という点において共通していると認めることができる

もっとも,相違点があること等を理由に複製権侵害についてはあっさりと否定し,翻案の成否について検討している(少々長いが引用する。)。

上記[1]の点は,(略)トレーディングカードとは,個々に異なる様々な絵柄の交換や収集を意図して販売若しくは頒布されることを前提に作られた鑑賞用又はゲーム用のカードであること,通常,ビニールコートされた紙などに印刷されており,大きさはテレホンカードなどの一般的なカード類に近いものが多いこと,通常,スポーツ,アニメ,アイドル等のある特定の分野に関して何十ないし何百種類のカードが作られ,それらを1シリーズとして1袋に1枚若しくは複数枚封入してパックと呼ばれる形態で発売されているものが多いこと,同好の収集家と取引されることを前提としているためか,ほとんどの商品はランダムにカードが封入され,どのカードが入っているのかは開封するまでわからず,簡単に全種類が集められないような工夫がされている点にその特徴があること,市販されているトレーディングカードの中には,Xカードと同様に銀色のパッケージに封入され,パッケージ上部に切り取り線が付され,実際の開封に際しては,その上記の切り取り線に沿ってパッケージの上部を水平方向に切り取ってカードを取り出すものが存在すること,Xゲームが配信される以前である平成22年3月に配信されたプロ野球カードのブラウザゲームである「プロ野球カードスタジアム キミ★スタ」においても,カードを入手する際の演出として,画面上にパッケージが現れ,クリックすると当該パッケージはその上部が横方向に破られて開封され,在中する選手カードがせり上がり,当該パッケージの開封部から当該選手カードの上部が露出する表現が採用されていること,以上の事実が認められる。
そうすると,Xゲームにおける上記[1]の点は,実際に販売若しくは頒布されているトレーディングカードにおいてパッケージに封入されたカードを取り出す方法をそのまま表現しているにすぎないものと認められるから,単なる事実の表現若しくはありふれた表現にすぎないというべきである。

ほかの[2],[3]の点についても,上記「キミ★スタ」等のゲームに用いられた「ありふれた表現」あるいはアイデアに過ぎないとした。さらには,仮に創作性が認められるとしても,

その具体的表現をみれば,パッケージの表示内容のみならず,パッケージの登場の仕方や開封の具体的態様,在中する選手カードの登場の仕方に至るまでことごとく相違しており,前記認定の共通点の創作性の程度を加えてこれを全体的に観察すれば,Yゲームの「選手ガチャ」はXゲームとの対比において,表現全体から受ける印象を異にし,Xゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。

とした。

強化と試合

「強化」「試合」に関しても共通部分はアイデアないしありふれた表現に過ぎないとし,かりに創作性があるとしてもXゲームの表現上の本質的特徴を直接感得することはできないとされた。

選手カード

裁判所は,XゲームとYゲームとの間の選手カードに関する共通点について次のように述べた。

XゲームとYゲームとは,
[1]選手カードの左上角に当該選手が所属する球団のロゴマークが施されており,
[2]選手カードの下部に,当該選手カードの氏名がローマ字で表記されるとともに,その背番号が表示されており,
[3]選手カードの稀少度を星印の数で表示し,稀少度が高いほど多くの星印が,選手カードの下部に施されており,
[4]XゲームとYゲームのいずれにも設定されている「スターカード」及び「スーパースターカード」には,選手の背景に,炎が燃え上がり,後光が差すようなファイアーモチーフが施されており,
[5]選手画像が二重写しにされている選手カードについては,選手画像の背景に当該選手画像を大きく拡大し,多少色を薄くして残影のようにした表示が施されている,
という点において共通していると認めることができる。
(さらにダルビッシュ選手について)
同選手に係るXゲームの「スーパースターカード」とYゲームの「スーパースターカード」は,いずれも上記[1]ないし[5]の共通点を有する上,同選手のポーズや構図は,いずれも,同選手が投球動作に入り,左足を大きく前に出し,握った野球ボールを投げようと右手を後ろから振り上げようとする姿が同選手の右側から写されたものである。

その上で,[1]や[2]の点については,遅くとも平成18年ころから「カルビープロ野球チップスカード」やブラウザゲームプロ野球オーナーズリーグ」にて採用されていたこと,[3]の点についてSNSゲーム「Dynamic 巨人軍」等で採用されていることからありふれた表現に過ぎないとした。


[4]については,トレーディングカード「SLAM ATTACK」にて同様の演出がなされていたことから,「表現上の特別な工夫があるとはいえない」とされた。


[5]についても,「カルビープロ野球チップスカード」にてすでに採用されたありふれた表現に過ぎないとされた。


ダルビッシュ選手固有の共通点について,

投手が投球動作に入り,ボールを握った手を後ろから引き上げる姿,ボールを投げてフォロースルーする姿といったものに分類されるが,それらの各分類においては選手の姿勢はおおむね一様であること(略)が認められる。(略)以上を総合すると,選手のポーズや構図といったものの選択肢はごく限られており,したがって,ある選手の特定のポーズや構図の写真をそのまま表現することに創作性を認めるのは相当ではない

として,共通部分は創作性のない表現だとした。また,仮に共通点に創作性が認められるとしても,相違点が多数存在し,Yゲームの「選手カード」に接する者が,その全体から受ける印象を異にし,Xゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない,とした。

画面遷移

Xは,個別表現のみならず,画面遷移について著作権侵害が成立するという主張をしていた。裁判所は,携帯電話機を利用したゲームの画面遷移について次のように述べた。

携帯電話機は,画面が小さく,通信速度がパソコンのインターネット環境と比較して遅いため,利用者の操作性を考慮して,携帯電話機では,画面遷移を少なくすること,画面の移動が縦スクロールを中心とすることから,重要なリンクを上から配置することといったものは,携帯電話機向けのウェブサイトを構築するに当たって多くの場合に行われていることが認められる。
また,XゲームやYゲームが配信された時点においては,画面表示が小さく,限られた範囲の中で情報を表示することから,画面上における表現の選択の幅は,その分だけ狭くなる

その上で,両者の画面遷移図を検討し(例えば以下の図),共通点を認めつつも同種のゲームと共通する遷移であることや,機能から必然的に導かれる流れである等として,創作性に乏しい表現あるいはありふれた表現であるとして,複製又は翻案にあたらないとした。


ゲーム全体

さらにゲーム全体についてXは,「選手ガチャ」や「スカウト」を実行して選手カードを増やし,「スカウト」によってレベルを上げるために必要な経験値やポイントを獲得するといった共通点があるとして,著作権侵害が認められるべきだと主張した。この点について,裁判所は次のように述べた。

そもそもゲームソフトは通常の映画とは異なり,利用者が参加して楽しむというインタラクティブ性を有しているため,利用者が必要とする情報を表示し,又は利用者の選択肢を表示するための画面や操作手順を表示する必要があるところ,このような利用者の便宜のための画面や操作手順は,利用者の操作の容易性や一覧性等の機能的な面を重視せざるを得ないため,作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲はおのずと限定的なものとならざるを得ないばかりか,特に,本件におけるXゲーム及びYゲームは,野球という定型的で厳格なルールの定められたスポーツを題材とし,しかもプロ野球界の実在の球団及び選手を要素として使用し,かつトレーディングカードという定型的な遊び方のあるゲームを前提として構成されたSNSゲームであるから,そこには野球というスポーツのルールに由来する一定の制約,トレーディングカードゲームの形態やルールに由来する一定の制約があるから,特に特徴的な点あるいは独自性があると認められない限り,創作性は認められないというべきである。

としたうえで,Xの主張する共通点は,あくまでプロ野球選手カードゲームを題材とするSNSゲームとしての遊び方,進行方法もしくはゲームのルールであって,それ自体アイデアに過ぎない,などとして著作権侵害を否定した。

その他の請求の点

不競法2条1項1号,2号の点については,Xゲームの影像が,周知または著名な商品等表示であるとは認められないとし,同項3号の点については,画面表示の展開の組み合わせが「形態」に当たるとは認められないとして否定した。


一般不法行為の主張については,Xが保護を求める利益は,結局,Xが著作権法および不競法によって保護されるべきとする法的利益と異ならないとし,最判平23年12月8日に照らして,一般不法行為も成立しないとした。

若干のコメント

訴訟の当事者はグリーとDeNAではなかったですが,原告のゲームがGREEで配信され,被告のゲームがMobageで配信されていたことから,例の釣りゲーム事件*1のリターンマッチかと一瞬思ってしまいました。


請求の構成も,上記釣りゲーム事件と瓜二つでしたが,具体的な表現については,釣りゲーム事件が,ほぼ魚の引き上げ画面一本に絞られていたのに対し,本件では,相当多岐にわたる主張がなされていました(判決は本文だけで126頁という大部のものでした)。


携帯電話機のSNSで提供されるプロ野球を題材としたトレーディングカードゲーム,となると,どうしても表現の幅が狭くなり,類似することは避けられません。問題となる2つのゲームだけを比較すれば共通点は多いようでも(例えば選手カードの背景から後光がさすような演出がある等),そういった演出自体は従来から存在していたという場合には著作権侵害が認められにくいということになります。


結局,現在の著作権法の枠組みでは,「あからさまなパクリ」と見えるものであっても,アイデア,構成,演出レベルであれば違法にならない,と判断せざるを得ないのですが,こうした判例が積み重なることで,「パクリも適法」という理解が浸透してしまうのは業界全体の発展や,ユーザの楽しみという観点からは疑問が残るところです。