クーポン販売サービス事業者が虚偽の説明を行ったとして,クーポンを販売した美容室が不法行為に基づく損害賠償請求を行った事例。
事案の概要
平成22年10月30日,美容室を経営するXは,大手のクーポン販売サイトを運営するYとの間で,Xの発行するクーポンの販売委託契約(内容は下記)を締結した。
- 定価 13,200円
- クーポン価格 2,900円
- パートナー対価 1,450円(加盟店が受け取れる対価)
- 最高発行枚数 500枚
すなわち,顧客は,Yのサイトで,普段は13,200円するXのサービスを2,900円で利用できるクーポンを買うことができ,Xは,そのうち,1,450円を受け取れるというものである。
そして,Yの規約には,次のような定めがあった。
7条1項 当社は,パートナーサービスの提供の対価として,パートナーに対し,パートナー対価(略)を支払うものとする。なお,パートナーは,クーポン利用者に対してクーポンの有効期間内にパートナーサービスを現に提供した場合に限り,当社に対して対価を請求できるものとする。
その後,Xは,Yから最高発行枚数を500枚から1500枚に変更する等の提案を受けて,Xはこれに同意し,販売委託契約がその旨に変更された。
同年11月21日から23日にかけて,Yのサイトに同クーポンが掲載され,Yは合計1500枚のクーポンを販売した。
Xは,Yから,次のような説明を受けたとして,詐欺行為ないし説明義務違反があったとして,13,200円のサービスを1,450円で提供したとして,合計約1700万円の損害賠償請求をした。
- クーポンが販売された月の翌月末日に,パートナー対価に販売枚数を乗じた額を一括して受け取ることができる
- クーポン購入者の20%くらいはクーポンを利用しないので,その分は利益になる
- クーポンを販売しても,来店者数はせいぜい通常の2倍程度にしか増えない
ここで取り上げる争点
詐欺行為の有無
すなわち,Xは,クーポン販売枚数×パートナー対価を受領できると思っていたところ,利用枚数に応じた金額であったことや,通常は1日5人程度の来店だったところ,開店当初は24人から27人も来店していたこと等,Xの認識と異なる実態が生じたことについて,詐欺行為の有無が争点となった。
裁判所の判断
契約締結に至る経緯を次のように認定した。
(1)ア eは,平成22年10月26日,X本店において,fから,顧客がX新店においてカットやヘアカラー等のサービスを受けることができるクーポンを,Yで販売する場合の契約内容等について説明を受けた。
イ fは,同月28日,eに対し,「クーポン内容の承認依頼をお送りさせていただきますので,添付のYパートナー規約及び申込書の内容をご確認戴き,問題等なければ全返信で承認またはOKにてご返信の程お願いいたします。もし,申込内容に相違がある場合は,お手数ではございますが,ご返信時にメール本文に記載頂きますよう宜しくお願い申し上げます。」と記載したメールを送信した。
ウ eは,X代表者の同意を得た上,同月30日,fに対し,上記イのメールに返信する方法で,「確認させていただきました。内容大丈夫でしたので進行お願いします。」と記載したメールを送信し,本件パートナー契約が成立した。
(2)上記のイのメールには,前記(略)グルーポン掲載申込書のPDFファイルとともに,前記(略)本件パートナー規約のPDFファイルが添付されていた。
さらに,裁判所は次のように述べて,虚偽の説明を受けたというX従業員eの信用性を否定して,詐欺行為を否定した。
fは,上記面談日の翌々日には,Y掲載申込書のPDFファイルとともに,eが説明を受けたと証言する内容とは明らかに異なる内容,すなわち,「パートナーは,クーポン利用者に対してクーポンの有効期間内にパートナーサービスを現に提供した場合に限り,当社に対して対価を請求できる」とか,「当社は,当社が本件クーポンを発行した日からクーポンの有効期間が経過するまでの間,各計算期間毎に,各計算期間におけるパートナー対価を各支払期日に支払う」旨の記載がある,本件パートナー規約のPDFファイルを添付した上,その確認を求めるメールを送信していたが,eが本件パートナー規約の内容を確認すれば,上記〔1〕の説明が虚偽であることは即座に露見するのであって,fが上記メールを送信したことは,その前に上記〔1〕の説明をしていたこととは相容れない。
多数の来店者が来たという点についても,クーポン枚数の決定にあたっては,Xと相談の上で決めていたなどと認定して,この点についても虚偽の説明があったことは否定された。
若干のコメント
クーポン販売サイトを巡るトラブルは2011年年初に発生した「おせち事件」が有名です。これは,供給能力を超える注文を受けてしまった加盟店の問題だけではなく,クーポンの商品設計にはクーポン販売事業者が関与しているため,場合によってクーポン販売事業者の責任が問われる場合もあり得るところです。
Xは,クーポンが売れれば入金されるため,資金繰り的に得するという誤解をしていたようですが,規約を見れば明らかなように,利用されない限り支払われない仕組みになっています。利用されなかったクーポンの代金は,そのままクーポン販売事業者の売上になります。当たり前のことですが,加盟店になろうとする事業者は,当該サービスの規約について,内容をよく確認しておく必要があります。
共同購入クーポンサービスに関しては,経済産業省「電子商取引及び情報財取引に関する準則」の平成24年改定時に記載が追加されました(平成25年9月版ではi95頁)。そこでは,クーポン販売サービスの法的構成について論じられています。
そこでは,各社の規約内容の分析に基づいて,法的構成について解説がなされていますが,規約の起草者の意図が不明確な例や,実態とかけ離れたものであったりする例もあり,裁判所が規約記載どおりの法律関係を認定するかどうか怪しい場面もありそうです。
本件では,クーポン販売事業者の営業担当者による虚偽説明が争点となっていたにすぎないため,この種のサービスの法律構成についての判断には至りませんでした。顧客と加盟店,あるいは加盟店とクーポン販売事業者間で紛争が生じた場合には,上記準則の記載と,規約に当てはめて検討しておく必要があるでしょう。