IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

アマゾンこっそり規約変更事件 東京地判平27.8.17

変更後の規約中の禁止事項に該当するとして,アカウントを停止された利用者が処分や規約の有効性を争った事案。
※表題は,当事者がつけた事件名(通常は「損害賠償請求事件」などとつくものだが・・)。

事案の概要

Amazonアソシエイト・プログラムにおけるアソシエイトであったXが,Yが運営規約(本件規約)をこっそり変更したことは許せないと主張し,以下の請求を行った(以下は請求の趣旨からの引用。)。

  1. 被告は,Amazonアソシエイト・プログラム運営規約の変更に契約者が気付いていなかった場合には,平成22年3月1日以降に発行された規約が適用されない旨を認め,その旨及び被告が契約者に告知せずに規約を変更するという詐欺行為を働いてきたという旨を,すべての契約者(契約解除済みの者を含む。)に通知せよ。
  2. 被告は,過去に発行されたAmazonアソシエイト・プログラム運営規約の全文をウェブサイト上に公開せよ。
  3. 被告は,Amazonアソシエイト・プログラム運営規約違反を理由に停止された原告のアソシエイトアカウントを復旧せよ。

なお,本件は,いわゆる本人訴訟である。


問題となっているアソシエイト・プログラムとは,アソシエイトと呼ばれるユーザが,特定のサイトで販売される商品を紹介し,そこで商品が販売されると,紹介料を受け取れるというものであった。


Yは,Xの行為が修正後の規約に違反するものだとして,アカウントを停止したが,Xがこれに反発していた。


規約の修正に関しては,15条で次のような定めがあった。

Yは,本件規約及び運営文書に含まれる条件を,○○.co.jpのサイトに変更のお知らせ,修正済み規約又は修正済み運営文書を掲載することにより,いつでも,Yの独自裁量にて修正する場合がある。
○○サイト上に変更のお知らせ,修正済み規約又は修正済み運営文書が掲載された後も引き続き本件プログラムに加入している場合は,加入申込者がその修正を拘束力あるものとして承諾したものとみなす。

ここで取り上げる争点

Xの行為が,修正後の規約6条に違反することは認定した。Xは,行為は軽微であることからアカウント停止措置は許されないとか,規約修正は有効ではないなどの主張をし,YによるXのアカウント停止の正当性を争った。

裁判所の判断

裁判所は,Xの主張をすべて退けた。

Xが行った行為は,本件参加要件変更後の参加要件6条に違反するばかりではなく,本件規約2条にも違反する行為である。Xは,自らが本件規約2条に違反する行為をしたことは認めつつ,その違反の程度が軽微であるから,アカウントの停止措置は許されない旨主張するが,本件規約に違反した場合には,Yの判断により,解除(アカウントの停止),紹介料の支払拒絶,又はその両方の措置がとられることは,あらかじめ加入申込者に告知されており,Xもそれに同意して本件プログラムのアソシエイトになったことが認められるから,この点に関するXの主張を採用することはできない。

そして,上記認定のとおり,本件参加要件変更については,Yは,平成26年8月12日,参加要件を変更した旨を告知し,修正済み参加要件を掲載している。Xは,上記告知は,「言い回し,表記」に関するものであって,内容の変更に関する告知はされていないから,「変更のお知らせ」をしたことにはならない旨主張するが,本件規約15条によっても,どのような変更が行われたのかを告知することまでは求められていないと解されることからすれば,この点に関するXの主張も採用することはできない。

すなわち,規約上,違反の事実があればアカウント停止措置ができることとなっており,規約の変更も可能になっていることから,Xの主張はすべて退け,請求棄却となった。

若干のコメント

詐欺行為をしていたことを通知せよ,などという請求の趣旨からして,民事訴訟のプロからすると考えられない訴訟なので,結果は見えていたものの,ネットサービス事業者としては胸をなでおろすべき判断がされています。


まず,規約違反があればアカウント停止(解除)ができるという条項と,その措置の有効性が確認されたこと。二つ目は,規約の変更はサイトに掲載することでいつでも独自裁量ですることができるという条項と,今回の変更の有効性が確認されたこと。


いずれの規定についても,ほぼすべての事業者が規約に盛り込んでいるものであって,いわばネットサービス事業者の中では常識といえる規定であり,規定自体の有効性が否定されることはないと思われますが,個別具体的な事象のもとでは処分や変更の有効性に疑義が生じる場合もあり得ます。平成27年4月(本稿作成時の最新版)の経産省電子商取引及び情報財取引に関する準則」i28頁以下では,サイト利用規約の変更とその効力について解説していますが,原則として変更には利用者の同意が必要としつつ「変更が合理的に予測可能な範囲内であるか」「変更が利用者に影響を及ぼす程度」などを考慮して黙示的な同意の成否を考慮するとしています。


本件では,判決文から見る限りは,これらの論点について激しく争われたとはいえないため,裁判所は処分の内容や規定の変更について詳しく検討されたかどうかはわからないのですが,特に疑問を挟むことなく結論に至ったということはサービス事業者にとっては安心できる内容だったといえます。