IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

Googleマイビジネスアカウントの不適切な運用による責任 東京地判令3.1.26(令2ワ2605)

Googleマイビジネスアカウントの運用を適切に行わなかったことによる責任が追及された事例。

事案の概要

飲食店を運営するXは,Yとの間で,2018年11月,Xの運営する店舗のGoogleマイビジネスアカウント(本件アカウント)をYに預託し,Yが,本件アカウントについてMEO(Map Engine Optimization)サービスを提供して,グーグル検索結果のトップページに一定のキーワード検索によって表示されたら報酬を支払うという契約(本件契約)を締結した。

Googleマイビジネスとは,Google検索やGoogleマップに実店舗などの情報を掲載して集客のサポートをするサービスである。

しかし,2019年5月に本件アカウントは利用停止になった。利用停止になった原因は,口コミ投稿がなりすましであると判断されたためだった。

Yは,短期間で復活させるために利用停止中に同じアカウントで新たなページを作成したが,そのことがGoogle利用規約違反であるとして,短期間で2度目,3度目の利用停止となった。その後,3カ月に渡って復旧しなかった。

この間,Google上では,Xの店舗は閉業中と表示されていた。Yは,Xに対し,受領済の報酬約10万円を返金した。

XはYに対し,Yが本件アカウントの運用を適切に行わなかったとして,約200万円の損害賠償を求めた。

ここで取り上げる争点

(1)本件アカウントを適切に管理する注意義務違反の有無

(2)損害の額

裁判所の判断

争点(1)注意義務違反について

YがGoogleガイドラインに違反する行為によってアカウント停止に至らしめたことについて,注意義務違反であるとされた。

Yは,本件契約により,Xから預託された本件アカウントについてMEOサービスを提供する義務を負うところ,その際には,グーグル社の定めるガイドラインに照らして適切とされる範疇で集客効果が得られるようMEO施策を実施し,ガイドライン違反によるペナルティを受けることなどないよう,本件アカウントを適切に管理すべき注意義務を負うと解される。
(略)グーグルマイビジネスのアカウントが利用停止中に,同じアカウントを用いて新たなページを作成することは,グーグル社のガイドラインに違反する行為である。しかしながら,(略)Yは,令和元年5月24日に本件アカウントが利用停止となったにもかかわらず,同日,同じアカウントで新たに本件店舗のページを作成し,同月27日に本件アカウントが2度目の利用停止となったものの,さらに同日,同じアカウントで新たに本件店舗のページを作成した。その結果,同年6月17日に違反行為を繰り返したことを理由に3度目の利用停止となって,同年8月30日まで本件アカウントを利用停止状態にしたものである。Yの行為が,本件アカウントを適切に管理すべき注意義務に違反するものであることは明らかである。

争点(2)損害の額について

逸失利益は,アカウントが停止していた3カ月間の売上の前年同月期間の差額から30万円と認定した

本件アカウントが同年6月17日に3度目の利用停止となってから同年8月30日に復旧するまでの間は,本件店舗のページが存在していなかったため,本件店舗の情報は,「六本木 居酒屋」などのキーワードによる検索(間接検索)ではグーグル検索結果に表示されなくなっていた(弁論の全趣旨)。もっとも,この間も店名による検索(直接検索)を行えば,本件店舗にかかる食べログ,レティ,ツイッターフェイスブック及びウェブサイト等がグーグル検索結果に表示されていた(乙4,5)。
(略)
本件店舗の売上げの推移を見ると,令和元年6月から8月の月別平均売上額は113万8116円であり,その直前の3か月(同年3月から5月)の月別平均売上額135万8985円と比べて22万0869円減少しているものの,6月の売上額は130万1380円であって,5月の売上額127万4880円より増額している。また,年間を通した月別平均売上額は,平成30年が103万4159円であるのに対し,令和元年(平成31年)は118万6880円であって増額している。
以上を総合すると,本件アカウントが利用停止になったことによるXの集客ないし売上げへの影響は否定できないものの,限定的であったというべきである。そして,平成30年6月から8月の月別平均売上額(123万0276円)と令和元年の同時期の月別平均売上額(113万8116円)との差額が9万2160円であることも勘案するなら,本件アカウントが利用停止になったことと因果関係のある原告の逸失利益は,30万円と認めるのが相当である。

Xは,テレビ番組での紹介などのタイミングで,もっと多くの逸失利益があったと主張していたが,売上の変動は他の要因もあったとして受け入れなかった。その他の損害(人件費)については認めなかった。

若干のコメント

本件は,MEOサービスとして,Googleマイビジネスアカウントの運用を委託していたところ,Googleガイドラインに反する行為によってアカウントが凍結されてしまったことについて,サービス提供者の責任が問われた事案です。

同様のことはSEOや広告の運用などにおいても起き得ると思われますが,問題は,その場合の損害の算定です。リアル・ネットを問わず売上の増減はさまざまな要因があり得るので,債務不履行と結果との因果関係がわかりにくいという問題があります。

本件では,アカウントが停止していた期間の売上減少分(昨年同期比)を逸失利益としましたが(なぜ利益ではなく,売上なのかという疑問はありますが),因果関係不明であることを理由に切り捨てるのではなく,Xに一定の配慮があったものと考えられます。

判決文を読む限りでは,本件契約は具体的に契約条項などが定められていなかったようで,責任限定の定めもなかったようです。もっとも「検索や事業の結果について一切の責任を負わない」という定めがあったとしても,本件のように明らかに不適切な行為をしていた場合には,責任限定条項を限定解釈して適用しないという判断に至ったのではないかとも思います。