IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

インフルエンサーキャスティングPFの中抜き禁止合意違反と違約金 東京地判令2.11.6(平31ワ3350)

いわゆるインフルエンサー(フォロワー数の多いSNS利用者)と,企業とのマッチングを行うサービスにおいて,直接取引を行った行為が禁止行為に当たるとして,プラットフォーム運営者が企業に対し違約金を請求したところ,違約金条項の有効性が問題となった事案。

事案の概要

Xは,インフルエンサーと企業とのマッチングを行うプラットフォーム(Sとする)を運営していた。Yは,当該プラットフォームSの利用契約(本件利用契約)を締結した。

その中で,直接インフルエンサーに対してプロジェクトの運営を依頼すること(中抜き行為)は固く禁止されており,中抜き行為が行われた場合には違約金として,過去1年分の利用料または300万円のいずれか低い金額をしはらわなければならないと定められていた(本件違約金規定)。

Xは,平成30年9月,本件利用契約に基づいて,インフルエンサー10名程度にYの宣伝業務を依頼した。

同年10月,Yは,インフルエンサーの一人に対し,

突然のご連絡失礼致します。先日投稿を依頼したYと申します。実は,次回もTwitterでのプロモーションを考えており,宜しければ同額の報酬で直接依頼をさせて頂きたいと考えております。

などというメッセージを送った(太字は引用者)ことについて,Xは,Yに対し,約定の違約金(300万円)を請求した。

ここで取り上げる争点

■本件違約金規定の有効性

Yは,中抜き行為の実施そのものも争ったが,メールの文言等から容易に認められているので,この点は割愛する。

Yは,300万円という最低違約金が,過去のYの利用料金の15倍以上のものであったため,暴利であるから公序良俗に反し無効であると主張していた。

裁判所の判断

裁判所は,次のように述べて公序良俗に反するものではないとした。

Sは,インフルエンサーインフルエンサーによる広告効果を必要とする企業とのマッチングを行うことを内容とするものであり,利用者は,Sからインフルエンサーの紹介を受け,インフルエンサーに業務を依頼することができる対価として,Xに利用料金を支払うことが想定されているということができる。そして,Xにおいて,利用者がSを介することなく直接インフルエンサーとの間でプロジェクトを依頼する等の中抜き行為が行われる場合,利用者がSに対価を支払うことなく,インフルエンサーの紹介を受け,インフルエンサーに業務を依頼できることとなり,ひとたびそのような行為が行われると,その後,もはやSが利用されることは想定し難くなるものであり,Sを継続的に運営していく上で,利用者がこうした中抜き行為を行うことを抑止する必要性は高いというべきである。
他方,(略),Sを頻繁に利用したり多数のインフルエンサーを募集したりする場合の利用料金が高額となることも考えられ,300万円を下限とする違約金自体が上記のような場合を含む利用料金一般との関係で不当に高額であるということはできない。

(略)

そして,Yによる中抜き行為との関係についてみると,300万円を下限とする違約金は,本件利用契約における利用料金が19万8000円であったこととの対比では比較的高額であるということができるものの,そのように利用料金が比較的低額にとどまったことについては,Yが本件利用契約に基づき初回の利用をした直後から中抜き行為を行ったことにも原因の一端があるということができる上,前記2のとおり,Yによる中抜き行為は,短期間の間に複数名のインフルエンサーに対して依頼を行うものであって,その態様は悪質な部類に属するというべきであることを踏まえると,被告による中抜き行為との関係でも,上記違約金が不当に高額であるということはできない。

以上より,違約金は約定どおり300万円(プラス約定の遅延損害金年14.6%)の満額を認容した。

若干のコメント

この種のマッチングプラットフォームでは,直接取引をされてしまうと収益化ができないため,回避する必要があるのですが,技術的に直接取引を防止するような手段がある場合を除いて,禁止事項+違約金の組み合わせによって抑制するしかなかったりします。

この場合,違約金を本来の手数料価格x1だと,「やったもの勝ち」になるので,高額にせざるを得ないのですが,何倍(あるいはいくら)にするかが悩ましいところです。あまりにも高額にすると公序良俗違反で無効(民法90条,暴利行為)になってしまう可能性があるからです。

公序良俗違反となるかどうかは,さまざまな事情を考慮することになるため,一律にどの程度ならばOKかということはいえないのですが,例えば,ソフトウェアライセンス違反の違約金で正規料金の10倍の違約金を公序良俗違反ではないとした東京地判令3.3.24があったりします。

本件では,最低違約金額を300万円としており,Yの利用料金の15倍でしたが,Sにおいて高額の利用料になることもある場合があるとして,300万円という違約金の下限を設けることは不当ではないとしました。

サービス運営者としては,不正行為の検出可能性や,それによって生じる不利益などを考慮して違約金条項の内容を定めることになりすが,本件はその参考になると思われます。