IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

1ライセンスでの使用可能な範囲の解釈と,違約金合意の有効性 東京地判令3.3.24(平30ワ38486)

ソフトウェアの1ライセンスで許諾される利用可能な範囲と,通常料金の10倍という高額な違約金を定める条項の有効性が問題となった事例。

違法コピーのイラスト(ディスクあり)

 

事案の概要

Xは,メタボリックシンドロームに着目した健康診査及び保健指導に関するデータ作成用のプログラム(本件プログラム)の著作権者である。本件プログラムには,平成30年のアップデート前の本件旧プログラムと,アップデート後の本件新プログラムがある。

Xは,Y社と,平成20年8月に本件旧プログラムの使用許諾契約1ライセンス分(本件平成20年契約)を締結し,Yは,本件旧プログラムを使用していた。その後,平成30年3月に本件プログラムがアップデートされ,Yとの間で本件新プログラムの使用許諾契約(本件平成30年契約)が締結された。本件平成30年契約では,契約で明示された医師会以外での業務で利用した場合には,1医師会ごとに月額42万円を支払う旨の合意(本件違約金合意)が含まれていた。

本件は,Xが,本件プログラムについて,医師会ごとにライセンス料が発生するにもかかわらず,それに反する利用をしていたとして,Yに対し,著作権法113条2項*1。に該当するとして,同法112条1項に基づく本件プログラムの複製及び仕様の差止めと,同条2項に基づく複製物の廃棄と,本件プログラムの使用許諾契約の債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求として,約1億円の請求を求めた。また,本件違約金合意に基づく請求として,約7500万円を請求した。

本件旧プログラムでは,通常の使用方法では,インストールされたPC1台ごとに1つの医師会しか登録することができなかったが,Yは,本件旧プログラムを使用する過程で,医師会ごとにバックアップデータを作成し,作業する医師会ごとにバックアップデータの切り替えを行えば,1代のPCで複数の医師会の作業を切り替えながら使用できることを知り,その方法で複数の医師会の作業を行っていた。

その結果,Yは,本件平成20年契約の更新の際,「利用機関名」には1つの医師会(府中医師会)しか記載していなかったが,実際には,他の医師会についても使用していた。

Xは,本件新プログラムへの移行作業の過程で,上記事実の疑いがあることを知り,Yに対し, 書面での回答を求めたが,Yは,平成30年6月20日付けの書面で「誠実に調査したところ,本日までに不正利用は認められませんでした。」と回答した。

Yは,平成30年8月を以って本件平成30年契約を更新せず,アンインストールした旨を記載した「アンインストール完了報告書」を提出したが,Xが証拠保全を申立てたところ,同年10月25日の時点で,Yに存在したPC11台には,本件プログラムがインストールされていた。

 

ここで取り上げる争点

(1)ソフトウェア使用許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の成否

(2)1ライセンスでの使用可能な範囲(債務不履行の有無)

(3)本件違約金合意の有効性

裁判所の判断

争点(1)消滅時効の成否

裁判所は,本件平成20年契約の債務不履行に関する請求に関して次のように述べて一部は消滅時効にかかるとした。

 

Xの請求は,本件平成20年契約において医師会ごとに本件プログラムのライセンスを要するとの合意があったことを前提に,ライセンスの対象となった1医師会以外の医師会について利用することが本件平成20年契約の債務不履行に該当するとして,損害賠償請求をするものである。

そして,債権の消滅時効は,権利を行使することができる時から進行する(民法166条1項)ところ,Xの主張する上記債務不履行による損害賠償債務は期限の定めのない債務であると認められるので,その債務の成立の時が債権者において「権利を行使することができる時」に当たり,同時点から消滅時効が進行すると解される。

したがって,前記前提事実(7)のとおり,Xが本件訴訟を提起したのは,平成30年12月12日であるから,Xの主張する債務不履行による損害賠償請求権のうち平成25年12月11日以前の本件旧プログラムの使用に係るものについては,本件訴訟提起前に5年が経過したので,商法522条の消滅時効が完成しているものと認められる。 

この点については裁判所は厳格であり,「Xが主張するようなY会社が債務不履行行為を秘匿し続けていたといった事情をもって,消滅時効の起算点を遅らせる理由とすることはできない」とした。

 

争点(2)1ライセンスでの使用可能な範囲

裁判所は,本件平成20年契約に係る書類では,必要なライセンスの記載としてPCの台数を基準とすることは記載されていたが,医師会ごとにライセンスを要するという記載はなかったことは認めつつも,

  • 本件プログラムの仕様上,インストールされたPC1台につき1つの医師会しか登録できなかったこと
  • ライセンス追加の申込書類に「なお,府中市医師会様は今後も使用させていただきますので延長レンタル代をお振込み致します。」との記載があったこと
  • 「レンタル契約継続申込書」には,いずれも「利用機関名」として「府中市医師会」との記載がされていたこと

から,いずれも1医師会あたり1ライセンスを要するとの合意内容であったと認定した。また,当時において,複数の医師会の業務を取り扱うような形態は変則的であり,そのような場合にまでライセンス料の定め方を検討していなかったとしても不自然ではないとした。

これを踏まえて,前記の消滅時効成立前の各医師会(府中医師会以外)に関する本件プログラムの使用は債務不履行に該当すると認定した。

その結果,消滅時効が到来していない期間について,1医師会あたり42000円(消費税抜き)のライセンス相当額の損害が発生したとして,合計で,約6600万円の損害賠償を認定した。

争点(3)本件違約金合意の有効性

本件平成30年契約では,ライセンス違反による使用の際には違約金として月額42万円を支払うという記載(本件違約金合意)があり,それによると,同年7月から11月までの利用については,合計で約7400万円の違約金が発生することになった。Yは,本件違約金合意は,著しく高額な違約金を定めたものであるから無効であると主張していた。

この点について,裁判所は,次のように述べて公序良俗に反するものではないとした。

当該合意がされた経緯を検討すると,(略)Yは,本件平成20年契約に違反して,ライセンス数を上回る多数の医師会の業務において継続的に本件プログラムを使用しており,(略)平成30年3月の本件新プログラムへの移行作業の際に,上記のYの使用状況が原告に発覚したことで,本件平成30年契約においては,府中市医師会に加えて,契約の対象とする医師会が追加され,それとともに,本件違約金合意が締結されたものである。そうすると,本件違約金合意はYによる過去の不正使用を踏まえて,それを抑止するために設けられたものと解されるから,前記のとおり,Yによる継続的な不正使用が長期間発覚しなかったことも考慮すれば,本件違約金合意を設ける必要性は高かったといえる。

また,本件違約金合意は,いずれも事業者であるXとYとが,レンタル契約書において,Yが本件プログラムを使用できる医師会名を明示した上で,それ以外の医師会の利用については違約金支払義務が発生する旨を記載したものであって(略),合意内容とその違反の範囲は明確である。さらに,本件平成30年契約においては,(略)本件プログラムの使用に係る医師会を1か月単位で増減させることが可能であったから,Yにおいて,本件違約金合意に反しないように本件プログラムを使用することに特段の障害はなかったといえる。

このような事情からすれば,本件違約金合意における違約金額が通常のライセンス料の10倍という額であったことを考慮しても,本件違約金合意が公序良俗に反するとはいえず,Yの上記主張は理由がない。

よって,本件違約金合意に基づく請求も認められた。

その他,Yによる本件プログラムのインストールは,著作権法113条2項によるみなし侵害が認められ,差止請求,廃棄請求も認められた。

若干のコメント

契約時点では,1ライセンスは1PCにおいてのみ使うこと以外の制限が明示的には記載されていなかったものの,仕様上は,1つの医師会の業務にしか使えないというソフトウェアについて,ユーザが,バックアップデータを切り替えるという方法によって複数の医師会の業務のために使用していた場合において,ライセンス契約違反となるかということが争われました。

ソフトウェアのライセンス体系は,端末数,登録ユーザ数,同時接続ユーザ数,データ量,CPUなどのハードウェアや,会社の規模に依存するものなど,さまざまなものがあり,一見してわかりにくいものも少なくありません。技術的に制限をかけたつもりでも,本件のように不十分だったりする場合には,事後的にライセンス違反が争われるということもあります。

結論としては,消滅時効の起算点の問題以外は,本件はベンダXの主張がほとんどすべて認められ,ユーザYは,途中で合意された違約金(通常のライセンス料の10倍)についても支払わなければならないことになりました。

しかし,本件の場合,

  • ソフトウェアの通常の使用では使えないバックアップデータを切り替えるというトリッキーな使い方をしていたこと
  • たまたまバージョンアップ時に不正使用の疑いがかけられた際に,報告を求めたにも関わらず,誠実に対応しなかったこと
  • ライセンスを解約し,アンインストール完了報告書を提出した後も,実際には消去していなかったこと

など,ユーザYの態様としてかなり悪質なものがあったことから,ライセンスの解釈もXに有利に,そして違約金合意も有効であるとされました。

結果的に大部分はベンダXが救われましたが,ライセンス条件を明確にすることや,違約金が発生する場合にはその必要性や明確性に注意しておく必要があることを強く意識させられる事案でした。

*1:令和2年改正後の113条5項に対応するもの。著作権侵害行為によって作成された複製物を業務上電子計算機において使用する行為について,複製物を使用する権原を取得した時に悪意だった場合には著作権侵害であるとみなす規定