IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

規約文言(禁止事項)の解釈 東京地判平27.4.8判時2271-70

利用規約で禁じられていた「面識のない異性との出会い等を目的として利用する行為」の該当性と,それに基づくアカウント利用停止が問題となった事例。

事案の概要

Xは,Yの運営するSNSの会員であった。Yの利用規約(本件利用規約)には,次のような規定があった。

第14条
ユーザーは,本サービスの利用にあたり,次に掲げる行為を行ってはならないものとします。禁止事項に違反した場合には,強制退会,利用停止,日記等の情報の全部もしくは一部の削除,又は公開範囲の変更等の不利益な措置を採ることがあります。
(1)から(7)は略
(8) 面識のない異性との出会い等を目的として利用する行為

第19条
1から5は略
6 弊社は,本利用規約又はその他の利用規約等に違反する行為又はそのおそれのある行為が行われたと信じるに足りる相当な理由があると判断した場合には,当該行為を行ったユーザーの強制退会処分,日記等の情報の全部もしくは一部の削除,及び公開範囲の変更等を行う場合がありますが,それによって生じたいかなる損害についても,一切責任を負いません。

Xは,平成24年11月2日に,Yのサービスにおいて,リアル参加型のイベントのチケットを譲り受けたい旨のメッセージを書き込み,これに対して,Zが,チケットが余っているというメッセージを送信したため,Xは,Zとの間で,Yの提供するメールシステムを利用して,会う約束をした。


その後,Xは,自らのメールアドレスや携帯電話番号をZに伝えようとしたところ,Zには「運営事務局によって削除されました」などというメッセージとともに,メールアドレス等が削除されたため,Zに伝わらなかった。なお,Xは女性で,Zは男性である。


Yは,XからZに対して,3度にわたってメールアドレスや携帯電話の番号を含むメッセージを送っていたことから,Xのアカウントの利用を停止した。また,Xからの問い合わせに対し,本件利用規約14条8号に違反するものであることを伝えた。


Xは,Yが,本件利用規約の禁止事項に該当しないにもかかわらず,違法にアカウントを停止したとして,Yに対し,Xのアカウントを利用できる地位にあることの確認と,100万円の損害賠償を求めた。

ここで取り上げる争点

Yによるアカウント停止行為が,債務不履行及び不法行為に該当するか

裁判所の判断

裁判所は次のように述べて,Xによる行為は,Yが本件利用規約で禁止する「面識のない異性との出会い等を目的として利用する行為」に該当するのであって,アカウント停止行為は,債務不履行及び不法行為には当たらないとした。

(1)  本件利用停止に先立ってXと本件連絡者と間でなされたやり取りの経過は,前記前提事実記載のとおりであり,女性であるXが,リアル脱出ゲームと称されるイベントの特定の日にちのチケットを入手しようとして,本件アカウントを利用して,不要なチケットがあったら譲り受けたい旨のメッセージを書き込み,これに応じる回答をした面識のない相手(本件連絡者)とメッセージをやり取りし,チケットの受け渡しをする日時及び場所を決め,連絡先として自らのメールアドレスを男性である本件連絡者に送信し,さらに携帯電話の番号を本件連絡者に送信したことが認められるところ,Xは,上記行為が本件禁止事項に当たらない旨を主張する。

(2)  この点,Yの本件利用規約における本件禁止事項は,前記前提事実記載のとおり,「面識のない異性との出会い等を目的として利用する行為」と定められており,その文言上,男女間の交際を目的とする出会いのみに限定して禁止する定めとは認められない。上記条項の趣旨については,面識のない男女が出会って交際等の関係に至ることが助長されるような投稿を禁ずる点にあると解する余地があるものの,投稿自体から男女間の交際を直接の目的とすることが明らかな行為のみを禁止するのでは,上記の趣旨を実効あらしめることは困難であり,上記行為にとどまらず「面識のない異性との出会い等を目的として利用する行為」を対象とし,これに該当する行為を禁じているものと認められる。

(3)  そうすると,Xの行為は,面識のない異性である本件連絡者に対して,メールアドレス又は携帯電話の番号を知らせて本件連絡者と出会おうとしたものとして,本件禁止事項の定める「面識のない異性との出会い等を目的として利用する行為」に該当するというべきである。

若干のコメント

利用規約の「面識のない異性との出会い等を目的として利用する行為」の解釈が問題となりました。『出会い等』という文言からは,確かに男女間の交際を想起させるものの,裁判所は「男女間の交際を目的とする出会いのみに限定して禁止する定めとは認められない」として,チケット受け渡し行為目的での連絡先のやり取りが禁止行為に該当すると判断しました。


ネットサービスの利用規約では,この「禁止事項」が実務上もっとも重要な項目だとされます*1。当該禁止事項が,チケット受け渡しのためのやり取りまでも禁止する趣旨であったかどうかは疑問がありますが,大量のユーザによる行動を処理するためには,その内心,目的までも捕捉することはできず,機械的処理をせざるを得ないところで,3度の削除を経てアカウント停止措置を取ってしまったところまでは無理からぬところだと言えます。


本件のような事案で訴訟にまで発展したのには,いろいろな事情があったものと思われますが,その実態は,判決文からは読み取れないことに加え,控訴審係属中のようなので,なかなかコメントも難しいところです。


ちなみに,このメールアドレスや携帯電話番号を削除する措置は,オペレータが手作業で見つけたというわけではなく,自動処理として行ったものと思われます。このメッセージは,Yが提供する「電子メールシステム」によって送ったようですが,こうした処理については,通信の秘密(電気通信事業法4条1項)との関係も整理しておく必要があります(ここでは詳しく立ち入りません。)。


なお,事業者によるアカウント停止行為が問題となった事例は,ほかにも東京地判平21.9.16(http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20121221/1356016581)があります。

*1:雨宮=片岡=橋本「利用規約の作り方」でも,そういった記述があったように記憶しています。