ゲーム運営会社が行ったアカウント永久停止処分が違法だとして,利用者としての地位確認と慰謝料を請求した事例。
事案の概要
Xは,平成21年9月以降,Yの提供するMMORPGをプレイしていたところ,平成23年2月15日に「運営の妨げとなる同一接続環境からの接続」があったとして,Xのアカウント永久停止処分がなされた。
Xは,確かにアカウントを自ら作成したものではないが,アカウントの譲渡が禁止されていることを知らず,Yも譲渡があったことを知りながら警告を与えることなく利用料金を徴取していたのであるから,黙示の承諾を与えていたなどとし,アカウント停止処分は不法行為を構成すると主張していた。
ここで取り上げる争点
アカウント譲渡に対する承諾の有無とアカウント停止処分の違法性
裁判所の判断
本件ゲームをプレイするなど,本件ゲームに係るサービスを受けるためには,利用者が本件基本約款及び本件個別約款に同意の上,Yの承諾を得てアカウントを取得する必要があり,Yは,本件各約款においてアカウントの譲渡等や不正確な情報を登録することを明示的に禁止し,利用者がこれに違反した場合には当該利用者の有するすべてのアカウントについて利用を停止することができることとしており,アカウントの譲渡等に対して厳しい姿勢で臨んでいるものといえるから,アカウントの譲渡等に関してYによる黙示の承諾があったと認定するに当たっては,慎重に検討する必要がある。
Xは,アカウントの登録情報が順次変更されていたのだから,アカウントの譲渡を知っていたはずだ,と主張していたが,次のように述べて承諾の事実はないとした。
確かに,ある人の「生年月日」が変更になることはあり得ないし,「姓」及び「名前」が変更になることもまれであるから,これらの登録情報が変更された時点で,Yは本件各アカウントの利用者が変更されていることを知る端緒を得たということもできる。しかしながら,登録された「姓」や「名前」が変更になったからといって,利用者が変更になったとは限らないし,○○アカウントは,平成22年2月23日の時点で150万個以上存在する上,Yはそもそもアカウントの譲渡等を本件各約款において明示的に禁止しており,かつ,各利用者はこれに同意した上でYと利用契約を締結していることからして,Yにおいて,本件各約款違反の行為があったか否か(本件に即してより具体的にいえば,膨大な登録情報の中に,利用者の変更があるか否か,「姓」や「名前」の変更がある場合には,それが利用者の変更を意味するものであるか否かなど)を常時監視し続けなければならない義務があるとは解されない。
(中略)
以上を総合すれば,Yにおいて,本件各アカウントの利用者がXに変更になったことを認識していながらXが本件ゲームに係るサービスを受けるのを認めていたとか,支払主体がXであることを認識していながら料金を受領していたとかいった事実はないと認められるから,本件各アカウントがXに譲渡されたことをYが黙示に承諾していたとは認められない。
また,Xが虚偽の情報を入力するという別の禁止規定に抵触しておきながら,アカウント譲渡がYにおいて判断,認識できたと主張することは信義則に照らして許されない,などとも判示された。
その結果,裁判所は次のように述べて不法行為はないとした。
Xは,そもそも,Yとの間で本件各アカウントを利用して本件ゲームに係るサービスを受ける旨の本件各利用契約を締結していたわけではないから,本件停止処分の効力にかかわらず,同契約上の地位を有しているわけではないし,本件停止処分によってかかる地位が害されたわけではなく,本件停止処分はXに対する不法行為を構成しない。