転売サイトからアマゾンギフト券を入手し,複数アカウントにて使用しようとしたところ,アカウントが停止されたという事案。
事案の概要
アマゾンのアカウントを停止されたXが,当該アカウントに登録済みであったギフト券(本件ギフト券)の未使用残高が使用不能になったと主張して,アマゾンギフトカードジャパン(Y)に対し,不当利得返還請求(約170万円)を行った事案である。
アカウントが停止された経緯は,Xが,非正規サイトZから計234万円相当の本件ギフト券を購入し,それを14個のアカウント(本件各アカウント)に本件ギフト券を登録し,購入数量制限がかかった商品(MS Office)を多数購入しようとしていたところ,アマゾンが,2度の警告を経て本件各アカウントの利用停止措置を採ったということのようである。
なお,アマゾンの規約において,裁量の下でアカウントの停止等ができること,同一利用者が複数のアカウントを登録することができないこと,本件ギフト券を譲渡・再販することが禁じられていること(本件有償譲渡禁止特約),本件各アカウントに登録されたギフト券が真正なものであることについては前提事実として認定されている。
ここで取り上げる争点
不当利得返還請求の成否のうち,(1)損失及び利得と,(2)法律上の利益に分けて検討がなされた。
裁判所の判断
損失及び利得
まず,Xは,本件ギフト券が民法85条に定める「物」あるいはこれに準ずる現金のようなものであるということを前提とした主張をしていたが,裁判所はこれを否定した。
本件ギフト券の内容は,購入者がYに予め対価を支払い,購入者又はその指定する受取人がYからサーバーで管理されるギフト券番号等の発行を受け,これを本件サイトの自己のアカウントに登録するなどして,当該ギフト券番号に係る券面額の限度で本件サイトにおけるアマゾン等に対する商品等の売買代金債務等の弁済に利用できると認められ,購入者とYとの間の合意に基づき形成されるYに対する実体法上の権利であると解される。そして,その権利の行使(利用)は,インターネット上でギフト券番号という情報を利用して行われるもので有価証券のように権利を表章する有体物としての媒体が存在しない以上,本件ギフト券自体が民法85条の物又はこれに準ずるものに当たるという解釈には無理があるといわざるを得ず,Xの主張は採用できない。
また,本件各アカウントに本件ギフト券が登録されたことをもってXに実体法上の権利が発生したといえるのかということについて,次のように述べた。
Xは,本件各アカウントに本件ギフト券の登録を済ませているが,本件細則には本件ギフト券(ギフト券番号)の登録者をその権利者として確定させるという趣旨の条項は見当たらず,かえって,本件細則上,ギフト券番号が盗取された場合をアマゾンの免責の問題として位置付けており(略),不正に入手された本券ギフト券について,アマゾンはその使用を拒絶することが可能であるとされている(略)。これらの事情に加え,弁論の全趣旨によれば,いったん本件ギフト券を登録してもこれを解除する操作がシステム上も可能であると認められることも考慮すると,本件ギフト券が本件各アカウントに登録されたことをもってXに実体法上の権利又は法的利益(価値)が付与されると認めることも困難である。
よって,裁判所は,本件各アカウントに真正な本件ギフト券が登録された(残高が表示された)ところまでは認めつつも,それによってXが本件ギフト券にかかる権利を取得したものとはいえないとしつつ,Xがそのような権利を承継したといえるのかどうかの検討が必要だとした。
しかし,Xが本件ギフト券を入手したとされるサイトZから譲渡を受けたとしつつも,サイトZが誰から権利を承継されたのかといった事情は不明であるから,Xが,本件ギフト券に関する権利の承継を受けたと認めることができないから,アマゾンがアカウント停止措置を採ったとしても,Xの損失やYの利得は認められないとしたが,「本件ギフト券に関する権利関係の特殊性にかんがみ」,法律上の原因についても判断がなされた。
法律上の原因
冒頭の事実経緯に記載したように,裁判所は購入数量制限を超えて購入しようとしたXがアカウント停止措置を受けたことを認定した上で,次のように述べた。
アマゾンによる本件停止措置が本件規約に基づくものとして適法と認められるか判断するに,Xが本件商品の購入数量制限を免れるために本件各アカウントを利用し,アカウントの閉鎖により本件ギフト券が無効になることを明示した2度の警告をアマゾンから受けたにもかかわらず,10日足らずのうちに3度目の違反に及んだことからすれば,Xの購入数量制限違反は故意によるものであると認められ,本件各アカウントの利用を継続することが本件サイトにおけるアマゾンによる特価品の販売を円滑に進めるための妨げになるおそれが高いといわざるを得ず,アマゾンによる警告にも効果が認められなかったことに照らすと,本件各アカウントの閉鎖(永続的停止)もやむを得ないといわざるを得ない。
Xは,本件各アカウントの停止は,本件ギフト券の権利行使を妨げるべき理由には当たらない旨主張するが,本件細則では,本件ギフト券の使用は本件サイトのアカウントを通じて行うことが明示されており(略),本件ギフト券について,返品・返金や登録解除等が認められていないこと(略)に照らすと,本件各アカウントの停止が本件ギフト券の実質的な喪失を伴うことは,本件細則により了知することが可能であるというべきであるから,Xの主張は採用できない。
したがって,本件停止措置は,本件規約に基づき,アマゾンに認められる本件サイトを運営するための裁量の範囲内の行為として適法であるというべきである。
として,法律上の原因がないとの主張も退け,Xの主張はすべて退けられた。
若干のコメント
本件は,やや複雑ですが,(1)ギフト券の発行体が認めていない方法によって入手した正規のギフト券について,入手者が権利を取得したといえるのか,(2)購入数量制限に違反したことや複数アカウント利用という規約に違反してアカウントを停止されたことの正当性が問題となった事案です。裁判所は(1)についても,入手の経緯が明らかになっていないとして否定し,(2)についても,アマゾンの措置に違法性はないとしました。
アマゾンギフト券は,現金同等に価値のあるものですが,アマゾン自身も,いくつかの転売サイトを名指ししつつ,ギフト券が使えなくなったり,アカウントが停止されうることを注意喚起しています。*1
Xは,本件ギフト券は排他的支配可能性及び管理可能性があるから,民法85条の「物」と同等であるとして,譲渡禁止特約も無効であると主張していましたが,「物」概念をデジタルアセット・アイテムに拡張することについては多くの裁判例でも否定されていることから,やはり認められませんでした。
本判決に照らせば,ギフト券に限らず,ゲーム内のコイン等の前払式支払手段,アイテム等についても,物と同様の価値があることを前提とした主張は成立しづらいと思われますし,非正規の方法で入手した場合には,利用停止措置を採られたとしても,発行体に対して救済を求めることは困難になるでしょう(規約上そのような手当てがされていることが前提になりますが)。