IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

納期徒過に関するベンダの帰責性 東京地判平31.2.4(平29ワ14039)

期限が過ぎてもシステムが納入されないとしてユーザが契約解除をしたのに対し,ベンダが契約上の対価の支払を行っていないとして損害賠償請求を求めたという事案。

事案の概要

ユーザXが,ベンダYに対し,レセプト点検システム(本件システム)の開発を委託したが,Xが,納期までに完成させられなかったことを理由に民法541条に基づく解除または履行不能による解除を主張し,原状回復請求をしたのに対し(本訴),Yは,本件システムの開発代金を払わなかったことによる損害賠償または,Xによる解除は民法641条に基づく解除であるとして損害賠償を請求した(反訴)。


平成27年8月12日に締結された本件システムの開発に関する契約(本件システム開発契約)は,Yのレセプト審査システムのエンジンをベースに本件仕様に従ったカスタマイズを行うことを内容としていた(契約条件の交渉が長引いたが,着手は締結に先駆けて行われていた。)。開発期間は平成28年3月31日までとされていた。対価の合計額は1億1700万円で,契約締結直後に3000万円が支払われたほか,毎月570万円ずつ支払うという約定に基づいて2カ月分だけが支払われ,合計で4140万円が支払われてた。


開発途中の平成27年12月15日,Xは,希望に沿ったシステムが開発されるかどうか疑問があるとして,本件システム開発を一時停止するよう求めた。


その後,本件システムの成果物がXに納入されることはなく,開発期間が経過した後,Xは,解除の意思表示を行い,本訴を提起した。Yは,反訴として約4600万円を請求した。

ここで取り上げる争点

納期の徒過についてのYの帰責性の有無

裁判所の判断

争点(1)(遅延の帰責性)について

Xは,遅延の原因は,本件システムは○○エンジンをベースとしているのだからYがFit&Gap分析を行うべきだったところ,これを行わなかったことにある,と主張していた。この点について,裁判所はYの帰責性を否定したが,以下,この点についての判断箇所を適宜引用する。

本件システム開発は,○○エンジンをベースにX向けにカスタマイズすることが予定されていたものであるが,Xからのヒアリング後に,いわゆるフィット&ギャップ分析は行われていないことから,既存のパッケージソフトをカスタマイズする開発手法を採る場合の一般的な開発工程を経ていないともいえる。

しかしながら,(略)XとYは,システム開発作業と並行して,契約条件について交渉し,同年8月12日,本件システム開発契約の締結に至ったが,本件システム開発契約において,本件システムは,○○エンジンをベースとして,X向けにカスタマイズしたレセプト審査システムであることが明示され,本件システムの基盤に○○エンジンを使用することを前提として,開発期間(10か月)や本件システム開発の対価(総額1億1700万円)が定められ,また,契約締結後に○○エンジンとX業務との適合性の審査を実施し,その結果によっては,○○以外のシステムを選択する可能性や,○○を使用せずに新システムを構築する可能性があることを予定した規定はなく,むしろ,成果物の納入後,本件システムがXの要望した本件仕様に合致するかについて検収を行い,その結果,瑕疵が発見された場合には,Yがこれを修正すること(略)なども定められている。これらの事実によれば,XとYは,本件システム開発契約締結の時点で,○○の機能は,Xが要望する機能と概ね合致しているという認識を有しており,契約締結後に,いわゆるフィット&ギャップ分析等の性能評価を行うことを予定していなかったと認めることができる。

そして,(略)Yは,Xから本件システム開発の一時停止を要請され,○○の性能評価の実施を求められたことに対しても同意し,平成28年2月2日の時点において,性能評価のためのY側の準備を完了させ,Xにおいて性能評価を実施できるインフラの整備を完了すれば,Xが希望する性能評価を実施できることや,説明会の準備もあることなどを伝えていたにもかかわらず,Xは,同年3月10日になって,Yは○○エンジンの性能評価の趣旨を正しく理解していないなどと述べた上,同月31日までにYが本件システム開発を完成させて納入することを待つとのみ回答し,その後,何の対応もしなかったものである。このことに加え,(略)Xは,平成27年9月末日支払期限の同年8月分から人件費及び分析ツール費用の支払を遅滞しており,X自身が支払を約束した同年12月20日が迫った同年11月30日になって,Yに対し,契約内容の見直しのための協議を申し入れたという経緯にも鑑みれば,平成28年3月31日までに本件システムが完成しなかった主な原因は,本件システム開発の一時停止を要請し,本件システム開発契約締結時に予定されていなかった性能評価を求め,Yにその準備をさせたにもかかわらず,その後,何の対応もしなかったXにあり,Yには帰責性はないというべきである。

よって,他の争点もあったが,Xによる契約解除は理由がないとされ,本訴請求は棄却された。


反訴請求に関しては,約定で毎月570万円ずつ支払われるべき人件費(相当の報酬)が支払われていないことがXの債務不履行にあたるとして,不履行になっている債務4560万円のうち,対価の一部としてすでに3000万円が支払われていることから,その差額の1560万円が損害として認定された。


なお,遅延損害金割合は14.6%とすることが本件システム開発契約で定められており,その起算点も争いがあったが,債権者から履行の請求を受けたときから遅滞に陥るとしつつ,明確な請求があったのは反訴の提起があった日であるとして後ろに設定した。

若干のコメント

本件は,韓国のベンダYに開発を委託したということで,契約締結前のやり取りが長かったことや,Yの宿泊費や交通費の負担の合意についても争点となっていました。


なぜ納期に間に合わなかったのか,なぜXから停止を申し入れたのかというところが判断のポイントになったと思われますが,判決文から読み取れる事実はごく一部に過ぎないため,本判決から一般化できるものは特に見当たりませんでした。


ツールを使って進捗状況を共有したり,2,3週に1度の割合で進捗会議を開催し,画面レビュー会なども開かれていましたが,Xは「仕様書も提出されず」「本件システム開発のみが進んでいる状況下において,平成28年3月31日の納期に間に合うのか疑問に思い始めている」として停止を申し入れました。とはいえ,この時点で,契約で定められた分割払いを数カ月分も止めるだけの正当性はなかったと考えられるため,Xが先に債務不履行に陥ってしまったと評価されています。