調査契約,保守管理契約という2つの契約の法的性質(請負・準委任)が争われた事例。
事案の概要
ベンダXは,ユーザYとの間で,平成22年2月5日,システム設計及び開発業務を受託する業務委託基本契約(本件基本契約)を締結した。XとYとの間で,以下の3つの個別契約が締結された。
- 本件システム移行開発契約(委託料合計997万5000円)
- 本件システム移行調査契約(調査要員1名が移行計画の立案等を行うもの。委託料月50万円)
- 本件保守管理契約(サーバ管理等を行うもの。初期費用137万5500円,保守管理費用+レンタルサーバ費用の合計月297万1500円)
Xは,Yに対し,本件システム移行調査契約に基づく業務委託料105万円及び本件保守管理契約に基づく746万5500円の支払いを求めた。
Yは,Xとの本件システム移行調査契約及び本件保守管理契約は,請負契約であって,仕事が未完成であるから支払わない,本件移行開発契約も履行遅滞/履行不能により解除したことにより,既払委託料の返還請求権により相殺する等の主張をした。
ここで取り上げる争点
(1)本件システム移行調査契約の法的性格と報酬請求の可否
(2)本件保守管理契約の法的性格と報酬請求の可否
(3)本件システム移行開発契約における仕事の完成の有無
裁判所の判断
争点(1)について
裁判所は次のように述べて,本件システム移行調査契約は準委任契約であるとした。
本件システム移行調査契約の法的性格を検討するに,<1>前記事実経過のとおり,同契約は,Xが,Y旧システムを開発したZから直接情報提供を受けにくいことも考慮し,Y旧本店にXから調査要員1名を派遣し,Y旧システム・Y業務の分析,移行計画の立案,要件定義書の作成など本件システム移行開発契約に必要な調査業務を行うために締結したものであり,それ自体は本件新システム開発のための手段と認められる。<2>業務委託個別契約書上も就業人員,就業時間,作業場所,委託期限の延長等が規定され,委託料が月額で定められていること
などに照らしても,本件システム移行調査契約は,仕事の完成・引渡し自体を目的とする請負契約ではなく,本件システム移行開発契約のために必要な作業として,Xの派遣する技術者が社内業務分析,移行計画立案等の各種調査事務を行い,これに対して本件システム移行開発契約自体とは別にYが委託料を支払う準委任契約と解される。
そして,証拠により,黙示の合意による延長後の期間も含め,Xは,機能調査等を履行したとして,105万円の報酬請求を認めた。
争点(2)について
本件保守管理契約も同様に準委任契約であるとした。
本件保守管理契約の法的性格を検討するに,業務委託個別契約書の文言上も,契約期間中の<1>サーバーの死活監視,<2>電源ON/OFF対応,<3>障害発生時のIPアドレス切替対応,<4>ホームページ保守という日常的な保守管理業務に対して毎月委託料を支払うものであり,仕事の完成・引渡しを観念し難いことに照らしても,準委任契約であると認められる。
そして,レンタルサーバーが存続している期間については,Xは,保守管理業務を履行していたとして,297万1500円の報酬請求を認めた。
争点(3)について
裁判所は,次のように述べて,本件システム移行開発契約は請負契約であるとし,本件システムの完成及び引渡しの提供の有無を検討した。
本件新システムが完成していたかを検討するに,前記事実経過に照らせば,遅くとも平成23年9月末日頃までに,<1>既存システムとの最終画面の一致確認,<2>レンタルサーバー上における本件新システムの業務処理の正確性検査・不具合修正のための業務仕様書の作成確認がされ,その後の同年10月12日には<3>テスト結果報告書の送付がされたことが認められ,本件新システムは,レンタルサーバー上ではYによる動作確認が可能な状態となったということができるから,その後の不具合につき瑕疵修補の問題が残るにせよ,一応完成したものと認められる。
と述べて,Yによる解除の意思表示は無効だとした。
若干のコメント
システム開発・導入には様々な種類の工程,作業があり,それぞれの契約の目的も異なるため,契約の性質が争われることが少なくありません。本件では,ユーザであるY自身も旧システムの内容を詳しく知らないことから,旧システムの情報を収集・分析することを目的とする契約(調査契約)と,サーバの監視,障害発生時の対応を目的とする契約(保守管理契約)の法的性質が問題となりましたが,いずれも,常識的な判断(準委任契約)になったものと考えられます。