IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

リツイート行為と著作者人格権最判令2.7.21(平30受1412)

話題となっていたリツイート行為と著作権著作者人格権侵害に関する事案の最高裁判決。

事案の概要

下記の原審(知財高判平30.4.25)のエントリでも紹介したが,ざっと繰り返すとつぎのような事案である。
itlaw.hatenablog.com


職業写真家であるXは,Xの著作物である写真(本件写真)を,アカウントAがツイッターアカウントのプロフィール画像に設定したこと,アカウントBが本件写真を含むツイートをしたこと,アカウントCらが当該ツイートをリツイートしたことについて,著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権侵害に当たるとして,米ツイッター社に対し,発信者情報の開示を求めた事案である。


一審(東京地判平28.9.15)では,リツイート行為については,著作権侵害著作者人格権侵害ともに否定したが,原審では,リツイート行為について,複製権侵害,公衆送信権侵害を否定したものの,リツイート行為によって表示される画像が,ツイッターの仕様によりトリミングされたことによって,同一性保持権侵害,氏名表示権侵害が認められ,リツイート者に対しても発信者情報の開示を認めた。


最高裁では,このうち,氏名表示権侵害の点について主に判断された。

ここで取り上げる争点

元の画像には,著作者表示があったが,リツイートの仕様によりその部分がタイムライン上ではトリミングされて表示されないことについて,リツイート者が氏名表示権の侵害したといえるかどうかが問題となった。

裁判所の判断と若干のコメント

原審維持,リツイートによって氏名表示権侵害が成立するとした。

本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるとしても,本件各表示画像が表示されているウェブページとは別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり,本件各ウェブページを閲覧するユーザーは,本件各表示画像をクリックしない限り,著作者名の表示を目にすることはない。また,同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。そうすると,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって,本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではないというべきである。

戸倉補足意見

なお,戸倉三郎判事(裁判官出身)*1の補足意見がある。

もっとも,このような氏名表示権侵害を認めた場合,ツイッター利用者にとっては,画像が掲載されたツイート(以下「元ツイート」という。)のリツイートを行うに際して,当該画像の出所や著作者名の表示,著作者の同意等に関する確認を経る負担や,権利侵害のリスクに対する心理的負担が一定程度生ずることは否定できないところである。しかしながら,それは,インターネット上で他人の著作物の掲載を含む投稿を行う際に,現行著作権法下で著作者の権利を侵害しないために必要とされる配慮に当然に伴う負担であって,仮にそれが,これまで気軽にツイッターを利用してリツイートをしてきた者にとって重いものと感じられたとしても,氏名表示権侵害の成否について,出版等による場合や他のインターネット上の投稿をする場合と別異の解釈をすべき理由にはならないであろう。

かつての名誉毀損に関する事案でもインターネット上での言論は,信用性が低いから権利侵害は生じにくい,といった議論があったが,「インターネット空間での特別扱いはしないぞ」ということである。特別扱いしないのは仕方ないとして,それが後掲林反対意見のように,ユーザが意図的に行ったことでもないのに,形式論で片づけることには大いに疑問がある。

そもそも,元ツイートに掲載された画像が,元ツイートをした者自身が撮影した写真であることが明らかである場合には,著作者自身がリツイートされることを承諾してツイートしたものとみられることなどからすると,問題が生ずるのは,出所がはっきりせず無断掲載のおそれがある画像を含む元ツイートをリツイートする場合に限られる。また,元の画像に著作者名の表示がないケースでは,著作者が当該著作物について著作者名の表示をしないことを選択していると認められる場合があるであろうし,元の画像に著作者名の表示があってリツイートによりこれがトリミングされるケースでは,リツイート者のタイムラインを閲覧するユーザーがリツイート記事中の表示画像を通常クリック等するといえるような事情がある場合には,これをクリック等して元の画像を見ることができることをもって著作者名の表示があったとみる余地がある(略)。さらに,著作権法19条3項により,著作者名の表示を省略することができると解される場合もあり得るであろう。そうすると,リツイートをする者の負担が過度に重くなるともいえないと思われる。

確かに,ツイッター利用規約*2では,「ユーザーは、本サービス上にまたは本サービスを介してコンテンツを送信、投稿または表示することによって、当社が、(略)かかるコンテンツを使用、コピー、複製、処理、改変、修正、公表、送信、表示および配信するための、世界的かつ非独占的ライセンス(サブライセンスを許諾する権利と共に)を当社に対し無償で許諾することになります」とあるので,正規で投稿されたコンテンツについてトリミングされたりすることについては,投稿者からリツイート者に対して権利行使はできない(ツイッター社を介してサブライセンスしていると考えられる。)。しかし,ツイッターに投稿されている様々なコンテンツについて,正規のものか,権利侵害のものかを考慮しながらリツイートしなければならないという点においては変わらず,この論理を広げていくと,ツイッターだけの問題にとどまらない。


例えば,ブログ等のサイトからSNSのシェアボタンを押すことで記事を自身のSNSアカウントからシェアすることができるが,そこで表示される画像(OGP画像)は,オリジナルのサイズから変更されていることも少なくない。また,どの画像が表示されるかどうかもシェアするユーザからはわからないことも多い。その場合でも,この論理に照らすと,氏名表示権ないしは同一性保持権侵害が生じる可能性が出てしまう。

今後も,そのような仕様であることを知らないリツイート者は,元の画像の形状や著作者名の表示の位置,元ツイートにおける画像の配置の仕方等によっては,意図せざる氏名表示権の侵害をしてしまう可能性がある(そのような仕様であることを認識している場合には,元ツイート記事中の表示画像をクリックして元の画像を見ることにより著作者名の表示を確認し,これを付記したコメント付きリツイートをするなどの対応が可能であろう。)。ツイッターは,社会各層で広く利用され,今日の社会において重要な情報流通ツールの一つとなっており,国内だけでも約4500万人が利用しているとされているところ,自らが上記のような状況にあることを認識していないツイッター利用者も少なからず存在すると思われること,リツイートにより侵害される可能性のある権利が著作者人格権という専門的な法律知識に関わるものであることなどを考慮すると,これを個々のツイッター利用者の意識の向上や個別の対応のみに委ねることは相当とはいえないと考えられる。著作者人格権の保護やツイッター利用者の負担回避という観点はもとより,社会的に重要なインフラとなった情報流通サービスの提供者の社会的責務という観点からも,上告人において,ツイッター利用者に対する周知等の適切な対応をすることが期待される。

最後には,ツイッターが社会に広く利用されているツールであることから,利用者のリテラシに期待するのではなく,ツイッター社にて適切な対応をすべし(仕様変更すべし)としている。これを見たツイッター社はどう感じるだろうか。さらには,その他のSNSを含むインターネットサービス企業は,コンテンツのシェアに際して今までになかった対応を求められることにならないか。

林反対意見

唯一,反対意見を述べたのは林景一判事(行政官出身)である*3

本件改変及びこれによる本件氏名表示部分の不表示は,ツイッターのシステムの仕様(仕組み)によるものであって,こうした事態が生ずるような画像表示の仕方を決定したのは,上告人である。これに対し,本件各リツイート者は,本件元ツイートのリツイートをするに当たって,本件元ツイートに掲載された画像を削除したり,その表示の仕方を変更したりする余地はなかったものである。
また,上記のような著作者人格権侵害が問題となるのは著作者に無断で画像が掲載される場合であるが,本件で当該画像の無断アップロードをしたのは,本件各リツイート者ではなく本件元ツイートを投稿した者である。
以上の事情を総合的に考慮すると,本件各リツイート者は,著作者人格権侵害をした主体であるとは評価することができないと考える。

トリミングはシステムの仕様であり,他の方法がないのであるから,氏名表示権侵害の主体ではないとの論である。

ツイッターを含むSNSは,その情報の発信力や拡散力から,社会的に重要なインフラとなっているが,同時に,SNSによる発信や拡散には社会的責任が伴うことは当然である。(略)しかしながら,本件においては,元ツイート画像自体は,通常人には,これを拡散することが不適切であるとはみえないものであるから,一般のツイッター利用者の観点からは,わいせつ画像等とは趣を異にする問題であるといえる。多数意見や原審の判断に従えば,そのようなものであっても,ツイートの主題とは無縁の付随的な画像を含め,あらゆるツイート画像について,これをリツイートしようとする者は,その出所や著作者の同意等について逐一調査,確認しなければならないことになる。私見では,これは,ツイッター利用者に大きな負担を強いるものであるといわざるを得ず,権利侵害の判断を直ちにすることが困難な場合にはリツイート自体を差し控えるほかないことになるなどの事態をもたらしかねない。

ツイッターユーザ,いや,インターネットユーザに対して理解しやすいのはこちらの意見だろう。

補足

もともとは,この裁判例は,「インラインリンクと著作権侵害」という論点で注目されていました。リツイート行為によって,サーバに保存されている画像データにおいて複製と評価すべき行為はないというところで落ち着きかかっていたところ,知財高裁で,(私にとっては)予想外に同一性保持権,氏名表示権侵害が認められました。もっとも,この判断は,ツイッターの仕様によるもので,インラインリンク全般に及ぶものではないとも考えられますが,特にスマートフォン中心の現在では,表示エリア,通信状況の制約から,サービス提供者側で一定の加工・編集が行われており,本判決に照らせば,これらの行為が著作者人格権侵害になりかねないということで極めて違和感があります。


本件に限らず,インターネット技術をめぐる新サービスと刑事罰の問題など,問題提起がなされて最高裁にたどり着くまでに5年から10年経過したところで「?」な判断が出されることが繰り返されていますが,果たしてこんなことを続けていていいのだろうかという疑問がぬぐえません。


このように,結論や理由付けについては疑問はあるものの,この事案でリツイート者にまで発信者開示を認めさせた原告代理人の力,粘りは同業者として素晴らしいなと思います。

*1:東京高裁時代に,岡口Jのツイートに対して厳重注意をしたことで知られる。

*2:https://twitter.com/ja/tos

*3:ご自身がツイッターユーザである。ただし,最高裁判事の就任後しばらくしてツイートは途絶えている。https://twitter.com/kpico1