IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

スクリーンショットと引用該当性 知財高判令4.11.2(令4ネ10044)

ツイッター公式の「引用リツイート」の方法によらず、スクリーンショットによってツイートを転載したことが適法な引用に当たるかが争われた事例。

事案の概要

Xは、ツイッター上で、Xの著作権が侵害され、かつ、Xの名誉が棄損されたことが明らかであるとして、経由プロバイダ(ISP)であるYに対し、プロバイダ責任制限法(令和4年施行の改正法施行前)4条1項に基づいて、発信者情報の開示を求めた。

問題となった何者かによるツイート(本件ツイート)は、Xが投稿した3件のツイートをスクリーンショット画像(本件投稿画像)と、「DM画像捏造してまで友人を悪人に仕立てあげるのやめてくれませんかね?」などの文章とともに投稿したもので、そのスクリーンショットには、Xのプロフィール画像が含まれていた。Xは、このプロフィール画像が著作物であって、これをスクリーンショットの形で投稿することは、Xの著作権を侵害するとともに、それに付せられた文章がXの名誉を毀損するものであると主張していた。

原審(東京地判令4.3.30)では、Yが開示関係役務提供者にあたらないとして請求が棄却されたため、Xが控訴した。

ここで取り上げる争点

いわば前提の論点だった「開示関係役務提供者」に該当するかという点については、控訴審では認めているので、当ブログでは、実質的な論点である「スクリーンショットの方法によるプロフィール画像のツイートは、引用(著作権法32条1項)に該当するか」を取り上げる。

裁判所の判断

著作権法32条1項では、適法な引用にあたるためには、①公正な慣行に合致し、②報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。

裁判所は、次のように述べて「引用」に当たり適法であると認めた。少々長いが関連する判示部分を引用する。

エ(ア) 本件についてみると、本件ツイート1においては、(略)控訴人X1が「DM画像を捏造した」という行為を批判するために、控訴人X1が捏造した画像として、本件投稿画像1を合わせて示したものと推認され、本件投稿画像1を付した目的は、控訴人X1が「DM画像を捏造」してこれをツイートした行為を批評することにあると認められる。
 (イ) 上記控訴人X1の行為を批評するために、控訴人X1のツイートに手を加えることなくそのまま示すことは、客観性が担保されているということができ、本件ツイート1の読者をして、批評の対象となったツイートが、誰の投稿によるものであるか、また、その内容を正確に理解することができるから、批評の妥当性を検討するために資するといえる。また、本件控訴人プロフィール画像は、ツイートにアイコンとして付されているものであるところ、本件ツイート1において、控訴人X1のツイートをそのまま示す目的を超えて本件控訴人プロフィール画像が利用されているものではない。そうすると、控訴人X1のツイートを、アイコン画像を含めてそのままスクリーンショットに撮影して示すことは、批評の目的上正当な範囲内での利用であるということができる。
 (ウ) 次に、証拠(乙12)によると、画像をキャプチャしてシェアするという手法が、情報を共有する際に一般に行われている手法であると認められることに照らすと、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用は、公正な慣行に合致するものと認めるのが相当である。

Xは、従来からの裁判例で言われていた主従関係がないと主張していたことに対しては、次のように退けた。

オ(ア) 控訴人らは、本件投稿画像1の分量が本件ツイート1の本文の分量と同等であり、主従関係にないから、引用に当たらないと主張するが、仮に「引用」に該当するために主従関係があることを要すると解したとしても、主従関係の有無は分量のみをもって確定されるものではなく、分量や内容を総合的に考慮して判断するべきである。本件では、本件投稿画像1ではなく、本件控訴人プロフィール画像と本件ツイート1の本文の分量を比較すべきである上、本件投稿画像1は、本件ツイート1の本文の内容を補足説明する性質を有するものとして利用されているといえることから、控訴人らの上記主張は採用できない。
 (イ) 控訴人らは、引用リツイートではなくスクリーンショットによることは、ツイッター社の方針に反するものであって、公正な慣行に反すると主張する。しかしながら、そもそもツイッターの運営者の方針によって直ちに引用の適法性が左右されるものではない上、スクリーンショットの投稿がツイッター利用規約に違反するなどの事情はうかがえない(甲41、乙13、14)。そして、批評対象となったツイートを示す手段として引用リツイートのみによったのでは、元のツイートが変更されたり削除された場合には、引用リツイートにおいて表示される内容も変更されたり削除されることから、読者をして、批評の妥当性を検討することができなくなるおそれがあるところ、スクリーンショットを添付することで、このような場合を回避することができる。現に、令和2年8月7日時点における、本件ツイート1が引用リツイートした控訴人X1のツイートと本件投稿画像1を比較すると、上記引用リツイートでは、控訴人X1のユーザー名が変更されており、本件ツイート1が投稿された当時に、同ツイートが批評した控訴人X1のツイートが当時のまま表示されているものではないことが認められ(甲3)、引用リツイートのみによっていたのでは、本件ツイート1の投稿当時の控訴人X1のツイートを参照することはできなくなっていたといえる。そうすると、スクリーンショットにより引用をすることは、批評という引用の目的に照らし必要性があるというべきであり、その余の本件に顕れた事情に照らしても公正な慣行に反するとはいえないから、控訴人らの上記主張は採用できない。
 (ウ) (略)

裁判所は、このように述べて、スクリーンショットによるプロフィール画像を含むツイートの投稿は、適法な引用であるとしたが、本件ツイート1が「DM画像を捏造した」という事実を前提とする意見の論評であるとし、重要な部分について真実であるとの証明がないとして、Xの名誉権が侵害されたことが明らかであるとして、Xの請求自体は認めた。

若干のコメント

この事件を取り上げたのは、昨年(令和3年)12月10日にスクリーンショットによる引用は適法な引用ではないとした東京地裁と異なる判断が出されたからです。

itlaw.hatenablog.com

この事件では、スクリーンショットツイッターの規約に違反するもので、公正な慣行に合致するものではないなどとして、引用の要件を満たさないとしており、当時もかなり違和感があることが指摘されていました。

本事件は、プロフィール画像が著作物であるとして引用該当性が争われたものですが、スクリーンショットツイッターの規約に違反するとの事情は伺われないと述べていますし、公式引用リツイートとは異なる「保全」の意味もあるとして、公正な慣行に合致するとされました。

結論としては、名誉棄損に当たるとして発信者情報の開示を認めましたので、知財高裁としては引用該当性の判断を回避することができたかもしれませんが、批判の多かった東京地裁令和3年12月10日を否定したことに意味がありそうです。