IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

違法ソフトウェア販売における損害の額 知財高判平27.6.18(平27ネ10039)

違法に複製したソフトウェアをダウンロード販売したという事件における損害の額が争点となった事例(東京地判27.2.12 の控訴審)。

事案の概要

ヤフーオークションにおいて,Yが,Xのソフトウェアを一部改変したソフトウェアを販売していた。


一審(東京地判27.2.12)では,Xのソフトウェアの標準小売価格が19.95万円であることを前提に,著作権法114条3項を適用して「実施料率は50%」であると認定し,標準小売価格の50%に販売本数を乗じた額を損害額とした。


損害の額の認定を不服だとしたXが控訴した。


(なお,Yは,原審,控訴審を通じて,答弁書準備書面を提出せず,いずれの期日にも出頭していないことから,請求原因事実について擬制自白が成立している。)。

ここで取り上げる争点

Yに生じた損害の額(標準小売価格の全額が,「受けるべき金銭の額に相当する額」といえるか。=原審と同じ。)

裁判所の判断

裁判所は,オンライン販売の場合には定価から10%値引きした額で販売していること,Yの販売方式がダウンロード販売形式であること*1などに基づいて,次のように述べて「受けるべき金銭の額に相当する額」は,定価から10%控除した1本あたり17万9550円だとした。(以下の引用個所は,読みやすいように適宜編集している)

前記1(1)の認定事実と証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,
[1]Xは,本件ソフトウェアを業務用パッケージソフトウェア製品として顧客に直接販売し,又は販売店,代理店を通じて販売していること,
[2]本件ソフトフェアの使用許諾書には,
「本製品(プログラム,データおよびマニュアル)については,使用許諾契約を設けており,お客様が本契約書に同意された場合のみご使用いただけます。」,
「弊社はお客様に,同封されたプログラム又はデータ一式を単一のコンピュータ(すなわち単一中央処理装置)で使用する権利を付与します。したがって2台以上のコンピュータで本製品を使用する場合,使用する台数分だけ,本製品を購入する必要があります。また,本製品をネットワークを通じて,あるコンピュータから他のコンピュータに送ることは許されません。」(「2.使用権」),
「弊社が本製品に関してお客様へ付与している権利は使用権のみで,お客様は本製品の第三者への譲渡はできません。」(「3.譲渡の禁止」),
「お客様は本製品の全部または一部を複製することはできません。」(「4.複製等の禁止」)などの記載があること,
[3]Xは,本件ソフトフェアの定価を19万9500円(消費税込み)と定めていること,
[4]Xが顧客に対して営業担当者経由の直接販売又はオンライン販売をする場合には,定価から10パーセントを値引きした17万9550円(消費税込み)で販売していたこと,
[5]控訴人は,オンライン販売をしているが,ダウンロード販売は行っていないことが認められる。

上記認定事実によれば,本件ソフトウェアの定価は,本件ソフトウェアの使用許諾料に相当するものであり,Xは,顧客(ユーザー)に対し直接販売(オンライン販売を含む。)をする場合の本件ソフトフェアの使用許諾料を定価から10パーセント控除した17万9550円に設定していることが認められる。

イ これに加えて,Yによる本件ソフトフェアのプログラムの著作権(複製権及び送信可能化権)の侵害行為の態様は,故意により,本件ソフトウェアのプログラムをデッドコピーし,そのアクティベーションの設定を無効化するプログラムを組み込んだ本件商品を本件ソフトウェアと同一の商品としてインターネットオークションサイトに出品し,本件商品のプログラムをインターネット上のウェブサイトにアップロードし,落札者に対し,ダウンロード販売をしたというものであり,その違法性が高いこと及びその市場への影響等諸般の事情を総合考慮すると,本件において,Xが,Yの上記侵害行為について,本件ソフトウェアのプログラムの上記著作権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3項)は,本件ソフトフェアの定価19万9500円から10パーセントを控除した17万9550円に,本件商品の販売数量56本を乗じた1005万4800円と認めるのが相当である。

原審が定価の50%だと認定したことと比べると,大幅に増額された。

若干のコメント

原審では,利用料率を参考にして販売価格の50%をもって損害額としていました。しかし,控訴審では,オンライン販売では10%引きで販売していたことからすると,その全額が「受けるべき金銭に相当する額」だとしました。ただし,その際の事情として,「違法性が高いこと」を挙げているところが気になります。違法性が高くない態様であればライセンス料相当額が下がるというのでしょうか。


本件は,原審,控訴審を通じてYが出頭しなかったという特殊な事案なので,一般化できるかどうか疑問がありますが,東京地判13.5.16大阪地判平15.10.23らを踏まえると,ソフトウェアの不正利用に関する損害賠償額は,定価と同じか,それに近い額になるという相場が形成されてきているなと感じます。

*1:Xのオンライン販売は,Yのダウンロード販売とは異なる。