IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

リツイート行為と著作権侵害/ログイン時の発信者情報開示(控訴審)知財高判平30.4.25(平28ネ10101)

(1)リツイート行為が著作権侵害に該当するか,(2)著作権侵害行為時ではなく当該アカウントの最新のログイン時の発信者情報の開示を求められるかどうかが争われた事例の控訴審判決。

事案の概要

職業写真家であるXは,Xの著作物である写真(本件写真)を,アカウントAがツイッターアカウントのプロフィール画像に設定したこと,アカウントBが本件写真を含むツイートをしたこと,アカウントCらが当該ツイートをリツイートしたことについて,著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権侵害に当たるとして,米ツイッター社に対し,発信者情報の開示を求めた。


なお,Xは,開示を求めた発信者情報として,主位的には,アカウントAらが当該アカウントにてログインした際のIPアドレス等については,本判決確定時点でもっとも新しいものを,予備的には,当該ツイート等がなされた際の情報を求めていた。


一審(東京地判平28.9.15)は,リツイート行為について著作権侵害著作者人格権侵害を否定し,発信者情報開示請求との関係では,侵害行為時のものについての認めた(リツイート行為者ではなく,著作物である写真をアカウントの写真に設定した者についてのみ)。

ここで取り上げる争点

(1)リツイート行為における著作権等の侵害の明白性
(2)最新ログイン時のIPアドレスの開示の可否

裁判所の判断

争点(1)リツイート行為と著作権侵害

前提事実のうち,重要な点を以下に引用する。

ユーザーのパソコン等の端末に,本件写真の画像を表示させるためには,どのような大きさや配置で,いかなるリンク先からの写真を表示させるか等を指定するためのプログラム(HTML プログラム,CSS プログラム,JavaScript プログラム)が送信される必要があること,本件リツイート行為の結果として,そのようなプログラムが,リンク元のウェブページに対応するサーバーからユーザーのパソコン等に送信されること,そのことにより,リンク先の画像とは縦横の大きさが異なった画像や一部がトリミングされた画像が表示されることがあること,本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は,流通情報2(2)の画像とは異なるものであること(縦横の大きさが異なるし,トリミングされており,Xの氏名も表示されていない)が認められる。


まずは,公衆送信権侵害(著作権法23条1項)について。

自動公衆送信の主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ,情報を自動的に送信できる状態を作り出す行為を行う者と解されるところ(最高裁平成23年1月18日判決・民集65巻1号121頁参照),本件写真のデータは,流通情報2(2)のデータのみが送信されていることからすると,その自動公衆送信の主体は,流通情報2(2)の URL の開設者であって,本件リツイート者らではないというべきである。著作権侵害行為の主体が誰であるかは,行為の対象,方法,行為への関与の内容,程度等の諸般の事情を総合的に考慮して,規範的に解釈すべきであり,カラオケ法理と呼ばれるものも,その適用の一場面であると解される(最高裁平成23年1月20日判決・民集65巻1号399頁参照)が,本件において,本件リツイート者らを自動公衆送信の主体というべき事情は認め難い。控訴人は,本件アカウント3〜5の管理者は,そのホーム画面を支配している上,ホーム画面閲覧の社会的経済的利益を得ていると主張するが,そのような事情は,あくまでも本件アカウント3〜5のホーム画面に関する事情であって,流通情報2(2)のデータのみが送信されている本件写真について,本件リツイート者らを自動公衆送信の主体と認めることができる事情とはいえない。また,本件リツイート行為によって,本件写真の画像が,より広い範囲にユーザーのパソコン等の端末に表示されることとなるが,我が国の著作権法の解釈として,このような受け手の範囲が拡大することをもって,自動公衆送信の主体は,本件リツイート者らであるということはできない。さらに,本件リツイート行為が上記の自動公衆送信行為自体を容易にしたとはいい難いから,本件リツイート者らを幇助者と認めることはできず,その他,本件リツイート者らを幇助者というべき事情は認められない。


と述べて,公衆送信権侵害を否定した(複製権侵害(同法21条),公衆伝達兼侵害(同法23条2項)も否定した。)。


しかし,本件の特徴は以下に述べるように著作者人格権侵害を認めたことである。まず,同一性保持権(同法20条1項)について。

前記(1)のとおり,本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は,流通情報2(2)の画像とは異なるものである。この表示されている画像は,表示するに際して,本件リツイート行為の結果として送信された HTML プログラムや CSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,上記のとおり画像が異なっているものであり,流通情報2(2)の画像データ自体に改変が加えられているものではない。
 しかし,表示される画像は,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるところ,上記のとおり,表示するに際して,HTML プログラムやCSS プログラム等により,位置や大きさなどを指定されたために,本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3〜5のような画像となったものと認められるから,本件リツイート者らによって改変されたもので,同一性保持権が侵害されているということができる。


氏名表示権(同法19条1項)についても侵害を認めた。

争点(2)最新ログイン時のIPアドレス等

この争点については原審同様に,プロバイダ責任制限法4条及び同法の委任による省令の文言解釈から,最新のログイン時IPアドレス及びタイムスタンプは,侵害行為とは無関係であるとし,これらの開示を認めなかった。


以上の結果,電子メールアドレスの開示を求める限度で認容した。

若干のコメント

リツイート著作権侵害という争点は,より一般化して,リンクと著作権侵害という文脈で語られることが多いですが,今回の判決は,「地裁で否定されたが,知財高裁は同一性保持権侵害を認めた」という評価をしてしまうと少々射程が広すぎるように思います。


本件では,リツイート行為も同一性保持権侵害等にあたると認定されましたが,あくまでリツイート行為によって,HTMLやCSSが送信され,位置や大きさなどが指定されてたことによって,オリジナルの画像とは異なる形で表示されたことをもって同一性保持権が侵害されたと言っているので,リンクの態様次第で結論が変わることは間違いないでしょう。


リツイート者は,自らのリツイート行為によってオリジナルとの画像にどの程度の差異が生じるのかといったことを意識していたとは思いにくいのですが,それでも裁判所は「やむを得ない」改変にもあたらないとしています(同法20条2項4号)*1


しかし,同一性保持権の効力がやや強すぎる印象もあり,結論にはやや疑問があります。

*1:判決文では,「20条4項」としてますが,誤植でしょう。知財高裁が著作権法の条文引用を間違えるのは珍しいことだと思います。