IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

データベースの著作権 東京地判平30.3.28(平27ワ21897)

データベースの著作物性が争われた事例。

事案の概要

データベースソフト(eBase Server)を開発・販売するXは, Yが販売するデータベースは,Xのデータベースの複製物・翻案物であるとして,著作権法112条1項に基づいてYのデータベースの複製及び公衆送信の差止めを求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償として,12億6500万円の一部である10億円の損害賠償等を求めた。


その他のXの請求として,XY間で締結された使用許諾契約におけるYの債務不履行や,一般不法行為に基づく請求等を行っている。


もともとは,XYは,平成16年に業務提携契約を取り交わして食料品分野の情報データの標準化や収集と,それをサービスとして外部に提供する事業を共同で進めようとしていた。ここで構築されたデータベースは「FOODS信頼ネット」という名称で一般に提供された。


その後,Xの事業所に設置されていたFOODS信頼ネットのサーバは,平成19年からはYの事業所に移管され,名称も「ASP規格書システム」と改められた。その後,Xは,ASP規格書システムには,Xのデータベース(eBASE Server)をインストールしていないで運用しているということを知って,著作権侵害等を理由に本訴を提起した。(反訴請求にかかる事実は省略する)

ここで取り上げる争点

Xのデータベースの著作物性


Xの主張によれば,Xが著作権を有する「eBASE Server」とは,次のようなものであった。

Xが,商品情報の項目から,独自に登載すべき項目を取捨選択,整理・分類してデータベースパッケージとして打ち出したもの
(略)
すなわち,体系的構成としては,「基本情報」「仕様変更」「包材・表示情報」「製造・品質」「原材料リスト」「原材料」の各テーブルを備え,これらのテーブルは,合計600を超える項目から構成され,また,テーブル同士が相互に関連付けられている。この項目のうち53項目は,さらに,合計22個の辞書ファイルと関連付けられ,これを参照するものとしている。

裁判所の判断

裁判所は次のように述べて,データが蓄積されていない状態でのデータベースは,データベースの著作物ではないとした。

Xの主張によれば,「eBASEserver」は,食品の商品情報を広く事業者間で連携して共有する方法を実現するためのデータベースを構築するためのデータベースパッケージソフトウェアであって,食品の商品情報が蓄積されることによりデータベースが生成されることを予定しているものである。そうすると,このような食品の商品情報が蓄積される前のデータベースパッケージソフトウェアである「eBASEserver」は,「論文,数値,図形その他の情報の集合物」(著作権法2条1項10号の3)とは認められない。

Xは,「eBASEserver」に搭載されている辞書情報を「情報」と捉え,この集合物をもって「データベース」と主張するものとも解されるが,Xの主張によっても,これらの辞書ファイルは,商品情報の登録に際して,当該商品情報のうち特定のデータ項目を入力する際に参照されるものにすぎないのであって,辞書ファイルが備える個々の項目が,「電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成」(著作権法2条1項10号の3)されていると認めることは困難である。

したがって,「eBASEserver」は,著作権法上の「データベース」に当たるものとは認められないから,その創作性につき検討するまでもなく,データベースの著作物ということはできない。

若干のコメント

著作権法2条1項10号の3では,「データベース」を次のように定義しています。

論文、数値、図形その他の情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう

確かに,Xのデータベースは,食品の商品情報を管理するために工夫がされたものであるということは考えられますが,各種テーブル定義のみでは,「具」であるデータが入っていないので,上記の定義の「情報の集合物」には該当しないものと考えられます。


とはいえ,データベース設計(テーブル設計)者は,中の「具」を設計するわけではなく,入れ物である各種テーブル定義を進めるわけですが,その設計成果物が著作権法の下で保護される余地がないのかということが気になります。


リレーショナルデータベースの場合,テーブルの定義は,DDL(Data Definition Language)というコンピュータ言語であるSQLで記述されるので,プログラムの著作物になる可能性はあるように思われます(それなりのシステムであれば,データベース全体のSQL文は膨大な量になります。)。


本件のほか,当ブログで紹介したデータベースの著作物に関する裁判例としては,知財高判28.1.19(http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20160205/1454599999),知財高判平28.3.23(http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20160405/1459783159)があります。