IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

HTMLの著作権侵害 知財高判平29.3.14(平28ネ10102)

HTMLの著作物権侵害が問題となった事例。

事案の概要

YはXに対し,Yの運営する通販サイトの開発を委託し,Xが通販サイトを構成するプログラムの仕様を許諾していたところ,当該使用許諾契約が終了した後もYは通販サイトを機能させるためのプログラム(本件プログラム)を違法に複製し,著作権を侵害したとして,不法行為に基づいて損害賠償を請求した事案。


原審(東京地判平28.9.29(平27ワ5619))は,本件プログラムに含まれるHTML(本件HTML)について,Xの従業員が創作的表現を作成したと認めるに足りないとしてXの請求を棄却した。

ここで取り上げる争点

本件プログラムの著作物性


※なお,Xは,通販サイトを構成するプログラム全体を本件プログラムと主張していたが,実際にプログラムを対比して侵害を主張していたのは「新規会員登録」,「登録申請時確認テスト」といった画面のHTML(本件HTML)部分に限定されていたので,実質的な審理の対象はそこに限られている。

裁判所の判断

まず,プログラムの著作物性が問題になる際に示される常套句から始まる。

著作物性が認められるためには,創作性(著作権法2条1項1号)を要するところ,創作性は,表現に作者の個性が表れていることを指すものと解される。プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(同条1項10号の2)であり,コンピュータに対する指令の組合せであるから,正確かつ論理的なものでなければならないとともに,著作権法の保護が及ばないプログラム言語,規約及び解法(同法10条3項)の制約を受ける。そうすると,プログラムの作成者の個性は,コンピュータに対する指令をどのように表現するか,指令の表現をどのように組み合わせるか,どのような表現順序とするかなどといったところに表れることとなる。したがって,プログラムの著作物性が認められるためには,指令の表現自体,同表現の組合せ,同表現の順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れているものであることを要するということができる。プログラムの表現に選択の余地がないか,あるいは,選択の幅が著しく狭い場合には,作成者の個性の表れる余地がなくなり,著作物性は認められなくなる。

そして,HTMLはデザインや表示文言などは,注文者であるYが決定していることから,

前記1のとおり,本件HTMLは,Yが決定した内容を,Yが指示した文字の大きさや配列等の形式に従って表現するものであり,そもそも,表現の選択の幅は著しく狭いものということができる。

としている。そのうえで,Xが創作的表現であると指摘する10数十箇所一つ一つについて判断が示されている。いくつか具体例を示す。

〈form name="frm_member"action="./fund3_check.php?ts=%ts%"method="post"style="margin:0px;"onsubmit="return false;"〉(甲27の4右欄)は,fund3.html において,基礎情報登録の画面に入力した上で,「会員登録に同意する」の記載の右に設けられたチェック欄にチェックし,表示された「確認」ボタンをクリックすると,fund3_check.php に入力されたデータが送られることに関するものと解される。

HTMLに関する教本及び辞典には,?HTMLには,style 要素があること(乙20),?文書の表示形式等を定めたCSSファイルをHTMLのタグに直接記述するインラインという方法があり,例えば〈p style="font-size:20px; "〉と表されること(乙19)が記載されており,また,?HTMLにおいて長さを指定する方法としてピクセル数を単位に整数で指定する方法があること(乙35),?「submit」は「送信ボタン」を意味する語として用いられていること(乙37)が記載されている。これらの記載によれば,「"margin:0px;"」は,余白0ピクセルを意味するもの,「onsubmit」は送信ボタンに関するものと解される。また,「"return false;"」は,実行中止を意味するものである。

以上に加え,前記(ア)にも鑑みると,X主張に係る上記記述は,HTMLに関する教本及び辞典に記載された記述のルールに従った,作成者の個性の表れる余地があるとは考え難いものや,語義からその内容が明らかなありふれたものから成り,したがって,作成者の個性が表れているということはできない。

「?ts=%ts%」につき,Aは,特別な期限を設けるための特別な記述である旨述べる。
しかし,「"compliance.php?ts=%ts%"」については,「?」が同記号より後ろがURLに付加するクエリ情報であることを示す記号であると解されることから,「compliance.php」とのURLに「ts=%ts%」なるクエリ情報が付加されたものにすぎず,URLにクエリ情報を付加して送信することは,頻用されている手法である。また,「% %」は,この間に変数を挟むことで同変数を認識しやすくするものであり,これも,プログラム表記においてありふれた手法である。

HTMLに関する教本及び辞典ないし事典に,?「p」は,段落を表すものであること(乙19),?「id」属性や「class」属性は,HTMLの骨組みに使用する要素に名前を付し,各要素の役割を明確にするものであること(乙19),?「href」は,リンク先のURLを指定するものであること(乙24),?「../」は,リンク先のURLが上位階層にあることを意味すること(乙19)が記載されている。JavaScriptに関するウェブサイト(乙39)には,リンクやフォーム内のボタンなどをクリックした場合の処理は,〈onClick="処理 "〉と記述される旨が記載されており,フォーム内のボタンをクリックしたときの処理の記述例,リンク内のボタン等をクリックしたときの処理の記述例として,それぞれ,「〈input type="button "…onClick="kakunin() "」,「〈a href="・・・・ " onClick="処理 "〉」が記載されている。別紙の?の記述は,上記各記載に係る記述のルールに従ったものであり,この点において作成者の個性の表れる余地があるとは考え難い。変数や関数の名前についても,「formBtn_kakunin」等の意味不明なものや,「check3」などその変数や関数に割り当てられた事項や意味を名称化したものにすぎず,作成者の個性が表れているとみることはできない。


このように述べて,Xが創作性があると主張する箇所のすべてについて著作物性を否定した。

若干のコメント

本件は,私が被控訴人・一審被告(Y)の代理人を務めた事件なので,ここで取り扱うべきものではありませんが,HTMLの著作物性について詳細に検討した事例は少ないため,公開された判決書の限りで紹介します。


プログラム全般において,記載ルールが決まっていて選択の幅が限られている以上,通常の著作物よりも,創作性が認められにくいと考えられます。


さらに,HTMLとなれば,記載する文字・デザインなどがあらかじめ決まっているとすれば,それをHTMLに落とし込む際の表現の選択の幅はさらに限られていると考えられるため,通常は容易に創作性を認めにくいでしょう。


一審では,Xが創作性が現れたとする具体的な箇所を特定しなかったため,上記のような一般論+αで請求が棄却されましたが,控訴審では,10数か所の主張がなされました。


プログラムの場合,個別の行,命令語のレベルまで分解してしまうと,どうしても表現の幅が限定されるため,創作性を認めにくくなってしまいます。創作性を主張する側(権利者)であれば,「やりたいこと」(仕様)が決まっていたとしても,コードに落とし込むには文法,規約が決まっていたとしてもさまざまな方法があり得るということを積極的に主張することが求められます(裁判官は「これを実装するにはこの方法しかないのだ。」と言われれば,それに反する証拠がない限りその判断に従うしかないように思われるため)。


VBで書かれたコードに関する知財高判平28.4.27についての判断も興味深いため,別途,本ブログで取り上げたいと思います*1

*1:原審である東京地判平26.4.24は本ブログで取り上げています。 http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20141213/1418435279