IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ゲーム中の不具合に乗じた行為に対するアカウント停止 東京地判平22.1.27(平21ワ14921)

不具合に乗じた行為に対して,ゲーム運営者がアカウントの永久停止措置を講じたことについて,債務不履行の有無が問われた事案。

事案の概要

Yの運営するオンラインゲーム(本件ゲーム)を利用していたXが,Yから,ゲームアカウントの永久停止措置を受けたことについて,これが違法であるとして,同停止処置の解除を求めるとともに,損害賠償を請求した事案。


本件ゲームでは,エンチャントという機能があった。これは,武器,道具をより強力なアイテムにするという機能であるが,これを自分のアイテムに対して実行するほか,他のユーザーに委託して自分のアイテムに対して実行してもらう(委託エンチャント)という方法があった。


本件ゲームでは,ランク6以上のエンチャントに失敗すると,エンチャントに供したアイテムが消失するという仕様になっていたが,平成21年1月29日ころ,ランク6以上の委託エンチャントによって実行され,失敗してもアイテムが消失しないという不具合(本件不具合)が発生していた。


Xは,本件不具合が発生していた期間に,友人Bに計15回にわたってエンチャントの委託を行い,本来であればエンチャントに失敗すればアイテムが消失するはずであったが,本件不具合により,アイテムは消失しなかった。


Xは,Yに対し,「バグ発生」というタイトルで,本件不具合を通知する旨のメールを送信した。


Yの本件ゲームの利用規約中の禁止行為条項には,「本件ソフトウェアの不具合,または障害を不正な目的で利用する行為」を掲げており(18条26号),19条1項では「会員が本規約に違反したと当社が判断した場合は,当社は,次の措置をとることができるものとします。」とし,「会員登録の削除」を定めていた。


Yは,Xの上記行為について,本件ゲームの利用規約(本件利用規約)18条26号に該当するものとして,Xのアカウントの永久停止措置(本件措置)を受けた。

ここで取り上げる争点

(1)本件利用規約の効力
(2)本件措置の効力

裁判所の判断

争点(1)について

裁判所は,次のように述べて,本件利用規約中の禁止条項が無効ではないとした。

本件利用規約18条(26)の「不正な目的」の内容は,ユーザーに開示されていない上,不明確であり,内容の判断がYに一方的にゆだねられているとし,この規定及び同規約19条は,ユーザーに処分の予測可能性を与えないものであり,無効であると主張する。

しかしながら,本件利用規約18条(26)は,「本ソフトウェアの不具合,または障害を不正な目的で利用する行為」を禁止するものであるところ,このうちの「不正な目的」を含めて,この条項が禁止する行為の範囲が不明確であるとはいえない。

もっとも,同規約19条は,「会員が本規約に違反したと当社が判断した場合は,当社は,次の措置をとることができるものとします。」とし,「(4) 会員登録の削除」を挙げているが(前提事実),Yが,同条に定める(1)ないし(4)の各措置をとる基準は定めていない。

しかし,弁論の全趣旨によれば,Yは,多数のユーザーが適正・公平にゲームを楽しめるようにするため,違反行為に対して一定の措置を講ずる必要があるとの考慮のもとに,本件利用規約に上記の規定を置いているが,規約違反,不正行為の内容は,様々であり,個別具体的,網羅的に記載することは現実的ではないことから,本件利用規約に上記のような条項を置いているものと認められるところ,弁論の全趣旨によれば,Xにおいても,自らの自由な意思のもとに本件利用規約を承認してYの会員になったものと認められる。

そうすると,本件利用規約の上記条項についてのXの主張は採用することができず,これらの条項が無効であるということはできない。

争点(2)について

本件不具合が発生したのは,1月29日午後2時ころで,Xが委託エンチャントを実施して,本件不具合を知ったのは,同日午後11時10分ころである。同日午後11時19分ころ,Xは,Yに対し,「ランク5↑のESを委託で貼り付けると,失敗で対象アイテムがきえますが,本日のパッチがあった後,それがなくなったらしいです。お確かめください。」という内容のメールを送信した。


その後も,XはBとともに,同日午後11時56分ころから,エンチャントを繰り返した。その間,Yは,本件不具合が発生していることをユーザーに公表していなかったが,翌30日に本件不具合を解消した後に,その旨をYのウェブサイトで告知した。


以上の事実認定を踏まえて,裁判所は次のように判断した。

Xは,Yのシステムが,(略)不具合又は障害が発生していることを認識し,Yに,前記認定の内容のメールを送ったにもかかわらず,さらに,Bにエンチャントを委託し,Bがエンチャントを実行し,結局,合計3アイテムについてエンチャントに成功したものであり,これらの事実によれば,Xは,本件ゲームに係るソフトウェアの不具合又は障害を不正な目的で利用したものと認められ,また,その行為は,本件ゲームの重要なルールに違反するものであることにかんがみると,Yにおいて,Xの上記行為について,会員登録の削除が相当であると判断したことが不合理であったとは認められない。


その他,Xは,経済的な利益を得ていないこと,Bに対する措置(1週間の停止)との衡平を欠くこと等を主張していたが,すべて退けられた。


また,Xが本件不具合はYの帰責事由によって生じたものであるのに,ユーザーであるXに対して重い制裁を課すことは権利濫用であると主張していたが,この点も退けられた。


以上より,Yには債務不履行不法行為も成立しないとして,Xによる請求はすべて棄却された。

若干のコメント

本件ゲームにおける禁止事項は,一般的なものが列挙されていたと思われますが,ゲームの規約ではありがちな「不具合,または障害を不正な目的で利用する行為」も挙げられていました。Xは,これ自体の有効性も争っていましたが,モバゲーの規約の消費者契約法違反が問題となったさいたま地判令2.2.5等に照らしても,この規定自体の有効性を否定することは難しいように思われます。


本件措置自体の有効性についていえば,Xは,自主的に運営者であるYに対して不具合の報告をしつつも,その後も友人Bとエンチャントを繰り返していたことをもって「不正の目的」を認定したことを考えれば,Xが黙ってエンチャントをしていれば(不具合に気づかないふりをしていれば)結論が変わっていたかもしれません。


認定された事実の限りでは,Xの行為の悪質性はさほどではないのに比べて,永久利用停止措置という重い措置を取ったことについて,やや腑に落ちないところがあります。