ユーザが主張する瑕疵の存在が認められなかった事例
事案の概要
XはYに受注管理システム(本件システム)の導入を委託した。本件システムでは,従来,メールでの受注を,再度手入力しなければならなかったところ,自動連携するという機能が備わることになっていた。Yは各種のパッケージソフトを組み合わせつつ,導入作業を実施した。ところが,本件システムにおいて,AシステムからBシステムへの受け渡しデータ(CSVファイル)では,代引き手数料と送料の項目がないことから,Bシステムへの取り込みができないことが判明した(本件瑕疵)。
Yは上記の問題点に対応し,再度Xに納入するとともに,100万円の解決金を支払った。その後,XとYは,確認作業を行って「システム稼働確認書」の確認欄にXが署名したが, Aシステムから出力された受注データと,Bシステムから出力されたデータとを比較すると,19件において代引手数料等が反映されていない不具合が検出された。Xは,本件瑕疵への対応がなされていないとして,支払済みのシステムの導入代金等,約770万円の損害賠償を求めた。
本件訴訟提起後に検証(5件のメールによる受注登録)を行ったところ,AシステムからBシステムに取り込まれ,それぞれのデータは一致することが確認された。
ここで取り上げる争点
本件システムの瑕疵の有無
裁判所の判断
そもそもの契約の性質論について,裁判所は次のように述べた。
前記認定の本件契約の締結に至る経緯,本件契約の内容や見積書及び注文書の記載等にかんがみれば,本件契約は,受注管理システムの構築を目的とする請負契約ではなく,市販のソフトウェアであるA及びBを対象製品とするパッケージソフトの売買契約並びにこれに付随する各機器のLAN設定及びサーバー設定等の業務委託契約であると認めるのが相当である。
そして,システム稼働確認書の確認欄に署名していることをとらえて,「Xが主張する瑕疵に関する問題は解決されたものと認めるのが相当である。」とした。
上記の19件についてデータが反映されていなかったという問題については,その後にシステム稼働確認書に署名していることなどからすると,その問題が存続していることは認められないとした。
そのほかにも錯誤の主張も退けられ,Xの請求はすべて棄却された。
若干のコメント
Xが主張するような瑕疵の存在が立証されなかったため,請求が認められなかったという事案です。あまり特筆すべき点はありませんが,「システム稼働確認書」という書面にユーザであるXが署名していたということが大きく評価されていることが見てとれます。
Xとしては,一部項目がインターフェイスされないという不具合(瑕疵)を主張していたものの,上記のシステム稼働確認書に署名しているという事情に加え,本件訴訟係属中に実施された検証では再現されていなかったため,その点についての主張は認められませんでした。
*1:正しくはライセンス契約だと思われるが・・・