IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

医療機器の不具合と売主の責任 東京地判平28.2.26(平25ワ22258号)

不具合への対応がどこまで求められるかが問題となった事例。

事案の概要

平成25年3月,医療機器・医療ソフトウェアの販売業Xと,クリニックを運営するYに対し,医療システム機器(本件機器)を代金約500万円で販売する契約(本件契約)を締結した。


Xは,本件機器をクリニックに納入し,物品受領書を受領して請求書を交付したが,Yは,不具合があると主張して代金を支払わなかった。その過程で,Xの常務は,Yに対し,Yの言うがままに手書きで,謝罪と,不具合が生じないようにすることを約する書面を交付している。その後も,Yは,Xと,本件機器の製造元であるPらに対し,詫び状を求めたりするなどの対応を取った。


そのような対応が続く中で,Xは,継続的な信頼関係は破壊されたとして,Yに対し,本件契約を解除し,原状回復請求として,本件機器の返還と使用利益相当額の支払と損害賠償(400万円のほか,引渡以降,月額約9万円)を求めた(本訴)。他方,Yは,売買契約の債務不履行瑕疵担保責任に基づいて損害賠償(約950万円)を求めた。

ここで取り上げる争点

本件機器の瑕疵又は不完全履行の有無

裁判所の判断

裁判所は次のように述べて不完全履行や瑕疵はないとした。

本件契約の対象とされた本件機器の性質に照らせば,Xには,本件機器を引き渡して,不具合なく正常に作動するよう設置する義務があったにせよ,その義務は引渡後直ちに履行すべきことまで要求されるものではなく,本件機器の作動状況を随時確認しながら,不具合が生じた場合には,その原因を調査の上で特定し,その解消のため必要な対応をすることで足りるものというべきである。
(略)
そして,前記認定事実のとおり,本件機器が納入された後,Xは,Yから本件機器の利用に際して種々の不具合が生じているとの指摘を受け,その確認を行うと共に,製造元のPとも協議の上,不具合の発生を確認できないものも含め,Yの指摘する種々の不具合の原因の究明とその対応策の検討を進め,これをYにも示して対応に当たっていたが,5月27日の作業によって本件機器のネットワークが正常に作動することが確認されたものの,その後は,Yの協力を得ることもできなくなってしまい,Yの了承も得て策定された計画の実施に至らなかったというのであるから,少なくとも,Xにおいて上記の義務について履行の提供がされていたというべきであり,Xの債務不履行不完全履行)があったということはできない。

なお,Xに債務不履行瑕疵担保責任はないとしたが,契約解除したのは売主であるXである。Yは代金債務の履行遅滞が生じており,Xによる本件契約の解除は有効だとして,原状回復義務が生じるとした。ただし,使用料相当額以上の損害賠償責任は認められなかった。

若干のコメント

本件は機器の売買契約に関する訴訟ですが,機器に搭載されたソフトウェアの不具合についても争われたため,取り扱いました。確かに不具合は生じていたにせよ,「作動状況を随時確認しながら,不具合が生じた場合には,その原因を調査の上で特定し,その解消のため必要な対応をすることで足りる」としたところが特徴的です。


ソフトウェアの瑕疵を巡る裁判例においても,

注文者から不具合が発生したとの指摘を受けた後、請負人が遅滞なく補修を終えるか、注文者と協議した上で相当な代替措置を講じたと認められるときは、システムの瑕疵には当たらない

という判断が比較的多く出されており(上記は東京地判平14.4.22*1),こうした考え方はソフトウェア単体に限らず装置,機器についても言えるのだろうと思われます。