IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

リワード広告における不正操作 東京地判平30.1.22(平28ワ12246)

機械的な操作などで大量のダウンロードを行ったことを理由に,広告主がリワード広告報酬の支払いを拒絶したという事案。

事案の概要

Yは平成27年12月18日,Xに対し,Yが開発したゲームアプリについて,リワード広告を発注した(本件請負契約)。本件請負契約の条件は,アプリダウンロード数4万件を目標としており,ダウンロード1件につき50円を支払うこととなっていたが,途中で,5万件を目標とするよう変更され,4万件から5万件までは1件30円を支払うこととされていた。


インストール数は,スマートフォン広告効果測定ツールであるFOXを用いることとされていた。


Xは,同月30日付けで,5万件ダウンロードが達成されたとして,Yに対し,248万4000円の支払いを請求した。Yが支払わなかったため,Xは支払督促を申立て,Yは督促異議を申し立てたため,本件訴訟が係属することとなった。

ここで取り上げる争点

★本件請負契約の内容・仕事の完成
Yは,リワード広告を通じてアプリの知名度を向上させることを目的としているのだから,機械的な操作や中華ブースト*1と呼ばれる手法で大量ダウンロードするものは不正操作であって,許容されていないと主張していた。

裁判所の判断

本件請負契約の内容について次のように認定した。

本件請負契約の内容すなわちXが完成させるべき仕事の内容としては,(略)当初,Xが,リワード広告を通じ,すなわちリワード広告により付与されるポイントの獲得を目的とするユーザーに働きかけて,本件アプリのダウンロード件数について4万件を達成すること(1件当たりの単価50円),その後にダウンロード件数を1万件追加すること(1件当たりの単価30円)を合意したことが認められる。そして,達成すべきダウンロード件数の判定に当たっては,前記1(2)のとおり,FOXによる旨合意していることも認められる。

(2)なお,Yが主張する不正操作が本件請負契約において許容されているかどうか,すなわち,Yが主張する,ポイントの獲得を目的とせずに直接ランキングを上昇させるような「中華ブースト」などの手法によりダウンロード件数を達成することは,もとより,上記(1)のリワード広告を通じたダウンロード件数の達成ということと相容れないものであることはいうまでもないが,他方,リワード広告の効果を通じてダウンロード件数を達成し,これによりアプリの注目度を上げて自然流入を促すという本件請負契約の目的(この点は当事者間に争いがない。)に照らせば,リワードを目的とするユーザーが機械的にIPアドレスを変更するなどして,二重,三重にポイントの獲得を目的とする行為まで明確に排除されているとはいえず,そのような意味での機械的操作自体は許容されているものと解さざるを得ない。

(3)なお,Yは,不正操作については本件請負契約における仕事の完成の手段としては認められていない旨主張する。この点について,上記(2)のとおり,ポイントの獲得を目的としない第三者による不正な操作を排除するという趣旨であるならば,Yの主張のとおりと理解できるが,他方,ポイントの獲得を目的とする機械的操作である限り,それ自体は,本件請負契約がリワード広告を通じたダウンロード件数の達成という趣旨に反せず,許容されているものといわざるを得ない。また,Yが,機械的操作を許容することは本件アプリのゲームユーザーとして残ることが期待できないことになると主張する点も,リワード広告の性格上,当該アプリに関心を示さない,ポイントの獲得のみを目的とするダウンロードは当然許容されるのであって,この点に関するYの主張は採用できない。
また,Yは,人為的操作による順位の上昇を禁じたアップストアの規約に照らして,機械的操作を許容するはずがないと主張しているが,前記1(2)のとおり,Xは,メールにおいて,Yに対し,明確に「リジェクトの際の責任」すなわち規約違反の責任を負いかねると伝えており,AがBに対して,規約違反の可能性について説明していたと認められること(略)に照らせば,規約違反によるリスクについては,Yも承知していたと考えられ,この点に関するYの主張は採用できない。

そのうえで,計測方法によって若干の数字の差はあるものの,少なくとも4万9974件であることが認められ,5万件には達していないものの,件数に応じた報酬請求権が認められるとした。


また,このような不正操作を許容しているにもかかわらず,それを説明していなかったとすれば,詐欺にあたるから取り消すという主張についても,Xは必要な説明をしていたとして退けられた。

若干のコメント

本判決では,リワード広告を

ユーザーがポイント獲得アプリ等に紹介されたアプリをダウンロードした場合に,一定のポイントを,広告主の負担により報酬又は褒美すなわちリワードとして獲得するという仕組みを利用し,アプリのダウンロード件数を増やし,アプリの知名度を上げる広告手法をいう。

と認定しています。リワード広告によって,ダウンロード数を増やし,ランキング数をあげれば自然流入も増えるという期待から,ゲームアプリを中心に,しばしば用いられているようです。他方で,アプリマーケット(AppStore等)では,リワード目的のユーザーによって大量にダウンロードされたりし,ランキングがまげられるという危惧から,デベロッパーアカウントの削除をしたりするなどの対抗措置が行われており,このあたりのいたちごっこが繰り広げられています。


本件では,機械的操作や中華ブーストが実際に行われていたのか,ということについてはあまり争われていないのですが,裁判所も,ランキングをあげて自然流入を目指すという目的があるのだから,それも許容される,と判断しています。さらには,そのことによってランキングが保証されないことやアカウントが凍結,削除されるという危険についても説明済であるとしました。


広告やランキングの不正については,しばしば問題になるのですが,本件もその1つであるといえるもので,健康なマーケティング手法とは言い切れないものの,公序良俗違反,詐欺であるといったレベルではないという判断がなされています。

*1:中国で日本のIPアドレスを割り振った大量の端末を用意したりして,大量のダウンロードを実行すること。