開発・提供されたソフトウェアに関する契約の内容,性質が問題となった事例。
事案の概要
Y(自治体)の教育委員会教務課のPはYの運営する市立高校の運営事務のOA化の必要性を感じていた。Pは,Xの代表者Qが自治体勤務経験を有すること等から,授業料等の収納を行うソフトウェアの開発を打診した。
Xは,Pの要望を入れて高等学校の生徒情報,徴収金管理等の機能を有するソフトウェア(本件プログラム)を開発し,平成18年末ころから順次Y(自治体)の運営する高校5校の計6台のコンピュータにインストールされた。
その後,Xは,Yが使用料を支払わないとして使用許諾契約を解除し,Yに対し,本件プログラムの使用差止及び使用料,損害賠償として合計約2300万円の支払いを求めた。
なお,支払名目に争いがあったものの,YはXに対し,本件プログラムに関して合計136万6000円が支払われていた。
ここで取り上げる争点
Xは,著作権に基づく差止請求を行っているが,その実質は,XY間の合意内容(Yから支払われた金銭の名目),契約の趣旨が問題となった事案である。
Xは,Yとの間で,本件プログラムの使用許諾契約として,使用期間5年間,使用料1台当たり385万円(5年の分割払い)の契約が成立したと主張し,これに対し,Yは,本件プログラムの構築を目的とする請負・売買等の複合的な性格を有する契約として,使用料1台当たり30万円の契約が成立していたと主張していた。
裁判所の判断
裁判所は,以下の事実を認定して,Xが主張するような契約は成立していないとした。
- Xが主張するような契約を内容とする契約書が作成されていないこと
- Xから発行された請求書には一部の前払いと解される事情はないこと
- XからYに対して提出された説明資料に1台当たり300万円ないし500万円という記載はないこと
- 仮にXが主張する契約が成立していたとすると,6校に導入した時点でXは2000万円を超える未収金が生じていたことになるが,Yとのトラブルになるまでその請求を求めたことはないこと
以上より,Xが主張する契約を前提とする請求(使用料支払請求等)は成立しないとした。
続いて,差止請求との関係についても,本件プログラムの導入については,
本件プログラムを本件各コンピュータにインストールするにあたり,原告と被告の間では,原告の有する徴収金管理プログラムを被告の事務の実情に合わせて修正し,インストール後も簡易なメンテナンス作業を行うこと,本件プログラムの複製物については所有権を移転し,本件プログラムの使用については期限を定めずに許諾する旨の合意が成立したと解するのが相当
であるとして,Xの著作権侵害にあたるとの主張も退けられた。
若干のコメント
本件の自治体に限らず,ソフトウェアの開発委託取引において,単なる物品購入のような取引契約や注文書のみで済ませており,ソフトウェアの権利帰属や使用条件,保守の条件などを決めないで進めているケースは多々あります。
これらの取引において,パソコンその他機器の販売を中心にとらえて,ソフトウェアは単なる「おまけ」という古い感覚で行っているケースも散見されます。
ソフトウェアの開発委託契約は,請負契約としての性質を有し,さらには引き渡した目的物のメンテナンスも伴うことから目的物の権利関係,保守条件等も決めておく必要があるという当たり前のことを再確認した事例といえます。