IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ネットオークションにおける出品者実在確認義務等 東京地判平30.7.25(平30レ158)

ネットオークションで詐欺に遭ったとされる落札者が,サービス運営者に対し,出品者の実在性を確認していないこと等が債務不履行にあたると主張した事例。

事案の概要

Xは,Yの運営するインターネットオークションサービスを利用し,約40万円の金貨を落札したところ,商品が届かず,詐欺に遭った疑いがあるとして,Yに対し,出品者の情報の開示を求めたが,Yが個人情報の開示には応じられないと回答した。


そこで,Xは,Yが出品者の実在性を確認しなかったことや,出品者の情報を開示しなかったこと等が債務不履行にあたるとして,Yに対し,110万円の損害賠償を求めた。


原審(東京簡裁)では,Xの請求が棄却されたため,控訴した。

ここで取り上げる争点

(1)出品者の実在性確認義務の有無
(2)出品者情報の開示義務の有無

裁判所の判断

争点(1)の実在性確認義務について,裁判所はあっさりと利用規約等に記載がないとして退けた。

Xは,Yが,本件サービスの利用契約上,出品者の実在性について確認する義務を負うにもかかわらず,これを怠ったと主張する。Xの上記主張は,Yには,出品者が登録した氏名,住所,電話番号等の情報が当該出品者本人の情報であることを調査確認する義務があるというものと解される。

しかし,(略)本件利用規約には,Xが主張するような調査確認義務に関する規定は存在しない。その他,上記義務を定めた法令上の根拠も見当たらない。

しかも,(略)本件利用規約において,Yは,利用者間の取引及び商品等の内容には一切関与せず,本件サービスに出品される商品等の品質,安全性又は適法性について一切保証せず,出品者が提示する商品等を実際に販売又は提供できるかどうかに関しても一切保証しない旨定められている。これらに照らせば,Yは,あくまでインターネット上での取引の機会の場を提供するにすぎないのであって,取引の内容等を担保するものではなく,Xもこのことを前提に本件サービスを利用しているというべきであるから,本件サービスの内容からも,Xの主張する義務があると解することはできない。


争点(2)出品者情報の開示義務については,利用規約には次のような文言があった。

Yは,取引の相手方の情報を出品者又は落札者に開示する義務を負わない。

これを踏まえて,裁判所は次のように述べて退けた。

Xは,本件利用規約の前記規定について,取引の相手方の情報のうち,取引と関係しない事項を出品者又は落札者に対し開示しないという趣旨に解すべきであり,詐欺を行った者の情報については開示すべきであるなどと主張する。

しかし,前記規定は,その文言上,取引の相手方の情報については開示義務を負わない旨定めているものであり,何ら例外が定められていない。しかも,商品の品質等について関知しないYにおいて,詐欺の有無を客観的に判断することには困難を伴うことからすると,詐欺を行った者の情報については開示義務を負うと解することもできない。

このように述べてXの請求が棄却された。

若干のコメント

インターネットオークション運営事業者に対する訴訟としては,名古屋地判平20.3.28(本ブログ未登載。名古屋高判平20.11.11)が有名で,特に同地裁判決が,

本件利用契約は本件サービスのシステム利用を当然の前提としていることから,本件利用契約における信義則上,被告は原告らを含む利用者に対して,欠陥のないシステムを構築して本件サービスを提供すべき義務を負っているというべきである

と述べた部分が注目されていますが,本件訴訟は,本人訴訟だったこともあり,事業者の義務の内容については,あまり踏み込んだ判断がないまま,本人確認義務がないことや,(出品者の)個人情報開示義務がないとして請求を棄却しています。


仮に前掲名古屋地裁が述べるような「欠陥のないシステム」を提供する義務があるとした場合でも,本件の経過からしてYに責任ありとされるかどうかはわからないものの,常にプラットフォーマーは個々の取引の内容には関知しないから一切責任を負わない,という規約どおりの判断がなされるとは言えないかと思います。