IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

グルメ情報サイトからの店舗情報削除請求 東京地判平29.8.8(平28ワ28265)

レストランを運営するXが,グルメコミュニティサイトを運営するYに対し,店舗情報が掲載されたことが不法行為等に該当するとして,削除とともに損害賠償請求をした事案。

事案の概要

Xは,完全紹介制のレストラン(本件店舗)を運営していた。Yが運営する日本最大級のグルメコミュニティサイト(本件サイト)では,原則として,ユーザの口コミ,店舗情報が公開されていたが,本件サイトの店舗会員になると,飲食店側から情報発信を無料で行うことができた。


Xは,当初は本件店舗の情報を公開していたが,徐々に電話番号を記載しなくしたりして,完全紹介制と表示し,さらには,XはYに対して,本件店舗ページを掲載しないよう求め,掲載されなくなった。


しかし,USのNPO法人が運営する「インターネットアーカイブ」のサイトからは,過去の本件店舗情報が保存されており,過去の情報を閲覧することができた。Xは,Yに対し,インターネットアーカイブ上の本件店舗の情報も削除するよう求めたが(本件要請),Yはこれを拒否したため,本件訴訟を提起した。

ここで取り上げる争点

Yは,本件要請に応じる義務があるか。

裁判所の判断

裁判所は,本件店舗ページは,当初は,Xの承諾なく作成,公開されたものであると認めつつ,次のように述べた。

Xは本件ウェブサイト上に本件店舗ページが作成された後,自ら,Yの無料の店舗会員となって,本件店舗に関する情報を編集・公開していたほか,Yが提供する店舗を宣伝するための有料サービスも利用し,本件ウェブサイト上に名称等の情報が掲載された本件店舗ページが存在することを前提とした上で,これをXの事業活動に利用していたものと認められる。このような事情に照らすと,Xは,本件ウェブサイト上に,本件店舗の情報が掲載された本件店舗ページが存在することを甘受し,これを利用していたものといわざるを得ない。

(略)本件情報に掲載された本件店舗情報は,本件店舗の名称や住所の一部を始め,そのほとんどが,X自らが一般に公開し,もしくは,公開することを許可していた情報というべきである。

さらに,上記以外の本件情報に掲載された本件店舗情報についても,Xの営業権を侵害するようなものとは認められない。

(略)本件情報には○○ユーザーによって書き込まれた口コミが含まれていることが認められ,Xは,これらの口コミの書き込み自体が,同書き込みを禁止する本件店舗の方針に反する違法なものである旨主張する。しかし,(略)本件情報に掲載された口コミは,主に本件店舗利用者の感想が述べられているにとどまり,X自身が公開していた以上の店舗情報を具体的に記載するものとも認められず,これらの投稿により,直ちにXが主張する本件店舗に関する情報をコントロールする権利が侵害されるものとはいい難い上,そのほか,同口コミの内容自体によって,Xの何らかの権利が侵害されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

以上の事情を総合的に考慮すると,本件情報に掲載された本件店舗情報が,当初はXの同意を得ることなく公開・掲載されたものであったとしても,同情報の掲載をもって,Xが主張するような本件店舗の情報のコントロールに関するXの権利を始め,Xの何らかの法的権利が侵害されているものとは認め難い。

このように述べて,Xの権利侵害を否定した。

そのほかにも,Xは,Yが本件要請に応じるべき条理上の義務を負うと主張していたが,この点に関する主張も退けられた。

若干のコメント

口コミの内容が虚偽であったり,信用を害するものである場合の削除を求める訴訟はいくつかありました。また,本件と同様に,店舗情報自体の削除を求めた事案としては大阪地判平27.2.23(平25ワ13183)があります(店舗の請求棄却)。


本件では,サイトに店舗情報が掲載されたことについて,本件では,当初は無断で掲載されたものであったものの,もともとXが公開している情報であったり,他のサイトにも掲載していた情報であったことなどから,これが公開されていることによる権利侵害はないとしました。


また,Xが店舗会員となっていて,利用規約に同意していたことで,Yは情報の削除義務を負担せず,第三者と紛争になった場合でも店舗会員が自ら解決するという規定があったことから(これらの規定が消費者契約法その他の法に照らして無効になるものでもないから),Yがこれに応じる法的義務はないとしました。