IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

検索連動型広告と商標権侵害 大阪高判平29.4.20(平28ネ1737号)

モールの運営者が,検索連動型広告に表示されることについて商標権侵害の責任を負うか否かが争われた事例。

事案の概要

石けんの販売等を行うXは,「石けん百貨」などの商標権を有していた。Xは,Yの運営するインターネットショッピングモールに出店していたが,平成17年ころ,退店した。


ところが,Xの退店後も,検索エンジンにおいて「石けん百貨」などのキーワードを入力すると,検索結果表示画面の広告にYの運営するモールへのリンクが表示され,クリックすると,そこで「石けん百貨」をキーワードとした検索結果が表示されることが,商標権侵害等にあたるとして,その広告表示の差止めと損害賠償を請求した(ほかに不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当するとの主張もあったが,割愛する。)。


原審(大阪地判平28.5.9)は,Xの請求をいずれも棄却した。

ここで取り上げる争点

Yによる商標権侵害の成否

裁判所の判断

「石けん百貨」は造語であるから,ユーザーがGoogle等で「石けん百貨」をキーワードとして検索をする動機は,典型的には,「石けん百貨」ブランドの石けん商品を買いたい,その販売店や販売価格を知りたい,当該商品の特徴等の情報を知りたいなどといったものであると考えられる。そのような動機に基づきGoogle等で「石けん百貨」をキーワードとして検索をしたユーザーが,検索結果表示画面に表示された「【楽天】石けん百貨大特集」等と記載のある本件広告を見て,これに関心を持ってハイパーリンクをクリックして移動した画面には,楽天市場内を「石けん百貨」をキーワードとして検索した結果として,石けん商品の紹介がその販売店等の情報と共に表示されたのである。

このことをユーザーから見れば,本件広告は,そのハイパーリンク先である楽天市場リスト表示画面と一体となって,「石けん百貨」ブランドの石けん商品を買いたいなどの動機によりGoogle等で「石けん百貨」をキーワードとして検索をしたユーザーを,Yの開設するウェブサイト内にある,「石けん百貨」の指定商品である石けん商品が陳列表示された石けん商品販売業者のウェブページに誘導するための広告であると認識される。そして,本件広告の広告主がYであることからすれば,Yは,Xの登録商標である「石けん百貨」の指定商品である石けん商品に関する広告を内容とする情報に「石けん百貨」という標章を付して電磁的方法により提供したといえるかのようである。

と,アドワーズ広告主のYによる商標の使用があったと認めそうな勢いであったが,

しかしながら,「石けん百貨」をキーワードとする検索連動型広告である本件広告がGoogle等で表示されるに至ったのは,前記認定事実(1)のとおり,●(省略)●
また,楽天市場内には「石けん百貨」ブランドのXの商品を取り扱う店舗はないにもかかわらず,楽天市場内を「石けん百貨」をキーワードとして検索した結果である楽天市場リスト表示画面に石けん商品が陳列表示されたのは,前記認定事実(3)のとおり,楽天市場内の加盟店の出店ページにキーワードとして「石けん百貨」が含まれていたからであると認められる。そして,前記前提事実(4)のとおり,加盟店の出店ページは各加盟店が自らの責任でコンテンツを制作しており,Yは制作に関与していない。このように,「石けん百貨」をキーワードとして楽天市場内を検索した結果である楽天市場リスト表示画面に表示される内容(何も表示されないか,「石けん百貨」の指定商品が表示されるか,同指定商品ではないものが表示されるか)は,専らYが制作に関与していない加盟店の出店ページ中の記述によって決まり,加盟店が同記述を変更すれば表示される内容もそれに従って変動するが,Yは判断も関与も認識もしていないと認められる。

と,Yは加盟店のページについて関与していないとし,

以上のとおり,●(省略)●各加盟店が自らの責任で制作した出店ページを検索する仕組みを通じて,Yが広告主である検索連動型広告に「石けん百貨」という具体的な表示がされ,かつ,そのハイパーリンク先である楽天市場リスト表示画面に石けん商品が陳列表示されたことが直ちにYの意思に基づくものとはいい難い。すなわち,加盟店が,出店ページのコンテンツを制作することにより,Yの広告と検索の仕組みを利用して,当該石けん商品に「石けん百貨」という標章を付したといえる場合があることはともかくとして,それについて判断も認識もしていないYが,当該石けん商品に「石けん百貨」という標章を付したと直ちにいうことはできないため,Yの行為は,商標法2条3項8号所定の要件の一部を欠くことになるから,当然にYがXの商標権を侵害しているとはいえないのである

と,Yによる商標権侵害を否定した。


もっとも,次のような場合にはYにおいて,そのような行為を認識できる段階に至った場合には,商標権侵害が成立し得るとしている。

他方,Yが広告主である,「石けん百貨」との表示を含む検索連動型広告ハイパーリンク先の楽天市場リスト表示画面において,登録商標である「石けん百貨」の指定商品である石けん商品の情報が表示された場合には,これをユーザーから見れば,(略)広告であると認識されるのであるから,Yが当該状態及びこれが商標の出所表示機能を害することにつき具体的に認識するか,又はそれが可能になったといえるに至ったときは,その時点から合理的期間が経過するまでの間にNGワードリストによる管理等を行って,「石けん百貨」との表示を含む検索連動型広告ハイパーリンク先の楽天市場リスト表示画面において,登録商標である「石けん百貨」の指定商品である石けん商品の情報が表示されるという状態を解消しない限り,Yは,「石けん百貨」という標章が付されたことについても自らの行為として認容したものとして,商標法2条3項8号所定の要件が充足され,Yについて商標権侵害が成立すると解すべきである。


しかし,Yは,訴状を受け取って,加盟店が登録商標の隠れ文字を使用していたことを知ると,その削除を求めて検索結果から表示されないようにするなどの措置を合理的期間内にとっていたと認定し,「自らの行為として認容していた」とはいえないとした。


その他,「石けん」と「百貨」の間にスペースがある場合についても別途検討されているが,同様の判断によって商標権侵害は成立しないとした。


また,加盟店とYとの共同不法行為の主張も,「自己の行為でない部分について,他方の行為を利用する意思がなければならない」のに「何らかの意思の連絡があったと認めるに足りる証拠はない」として否定した。

若干のコメント

メタタグと商標権侵害と同様に,キーワード検索連動型広告と商標権侵害の問題は,インターネット固有の商標権侵害問題として話題になることが少なくありません。ユーザが登録商標を検索語として入力した際に表示されたリンク(広告)が,実は商標権者のものではなく,まったくの第三者のウェブサイトへのリンクだったという場合に,商標権侵害となるのかという問題です。本件では,さらに,侵害行為が,加盟店ではなく,モールの運営者によるものであるかということが問題となりました。


本件では,商標権者とは無関係の加盟店が,登録商標を隠れ文字等を使用して広告表示していたことをYが知って,合理的期間が経過するまでに解消しなかった場合にはY自身の商標権侵害となるとしていることから,他人の登録商標にフリーライドして検索連動型広告のキーワードとして利用し,自己のウェブサイトに誘引する行為そのものは商標権侵害を構成することを前提としていると思われます。


そこにモール運営者であるYが責任を負うか否かという点に関しては,侵害主体の問題として,いわゆるチュッパチャプス事件(知財高判平24.2.14) *1と同じ枠組みを用いて判断しているように見受けられます。しかし,なぜ,そういう状態を一定期間放置したことが規範的にみて「使用」(商標法2条3項)と評価できるのか釈然としませんし,Yの加盟店の表示内容に対する関与の程度と,「合理的期間」の関係もイマイチよくわからないところです。


なお,本件では,アドワーズ広告の仕組みや,楽天市場内での検索結果の表示方法など,一般に公開されていない事実が事案の解明に必要となっていたことから,判例DBで公開されている判決文では随所に閲覧制限がかかっており,やや物足りなさを感じます。


また,検索連動型広告と商標権の関係では,10年前の大阪地判平19.9.13[CARICA CELAPI]もあります。こちらも機会があれば紹介します。