IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

飲食店口コミサイト情報削除 札幌地判平26.9.4(平25ワ886)

食べログ掲載店舗が,同サイト運営事業者に対し,書き込みの削除を求めた事案。

事案の概要

「A丼B」という店舗(本件店舗)を経営しているXは,食べログ(本件サイト)運営者Yのサイトに,本件店舗の基本情報を登録し,Xは,本件サイトの店舗会員として登録した。


Xは,Yの担当窓口に,本件サイトに掲載されている食べかけの料理の写真(本件写真)と,「料理が出てくるまで40分くらい待たされ」という書き込み(本件口コミ)の削除を求めたが,本件口コミについては削除をしなかった。


そのため,Xは,Yに対し,本件店舗にかかる情報を掲載していることについて,(1)不正競争防止法2条1項2号の不正競争に該当する,または(2)名称権の侵害に該当するとして,ページの削除と220万円の損害賠償を求めた。

ここで取り上げる争点

特に上記請求原因のうち,(2)を取り上げる。

裁判所の判断

請求原因(1)については,そもそも,「A丼B」という名称が不正競争防止法2条1項2号の「著名な商品等表示」にあたるかということについては,あっさり否定されている。


請求原因(2)については,氏名の呼称される利益について述べた最判昭63.2.16と,人格権に基づく差止請求を認めた北方ジャーナル事件最大判昭61.6.11を挙げて,

そして,法人も人格的利益を有しており,その名称がその法人を象徴するものとして保護されるべきことは,個人の氏名と同様であるから,法人は,その名称を他の法人等に冒用されない権利を有し,これを違法に侵害されたときは,加害者に対し,侵害行為の差止めや損害賠償を求めることができると解すべきである。

という一般論を述べた。


しかし,本件についてみると,他人が本件店舗を営業しているように装ったりするなどの特定や識別を困難にするものではなく,冒用には当たらないとした。そのほかに,Xの各種の主張に対しては,

本件サイトに本件ページが掲載され,本件店舗の情報が発信されたからといって,飲食店としての本件店舗の営業内容が変更されるものではないし,営業形態が強制されるとすることについて具体的に主張するものでもないから,Xの上記主張も理由がない。

Xは,法人であり,会社であって,広く一般人を対象にして飲食店営業を行っているのであるから,個人と同様の自己に関する情報をコントロールする権利を有するものではない。そして,上記のようなXの要求を認めれば,Xに本件店舗に関する情報が掲載される媒体を選択し,Xが望まない場合にはこれを拒絶する自由を与えることになるのであり,その反面として,他人の表現行為や得られる情報が恣意的に制限されることになってしまうのであって,到底容認できるものではなく,Xの上記主張も理由がない。

と,ひとつずつ否定して,請求を棄却した。

若干のコメント

一般紙でも報道されるなどして注目を集めた事件でしたが,判決文を読んで意外だったのは,不競法2条1項2号の「著名商品等表示」の請求を掲げていたことでした。1号の「周知」と異なり,誤認混同要件を必要としないことから,2号の「著名」は容易に認めにくく,著名性が認められる事例が「セイロガン」「MOSCHINO」「バドワイザー」など全国的に有名なものに限定されていることからすると,難しい主張に感じられます。


もう一つの「名称権」も,耳慣れない表現ですが,商標法,不競法の保護範囲外にある場合においては,裁判所としても認めがたかったと思われます。


「40分待たされた」というコメントが表示されたりしていたとなれば,法人の社会的評価が低下するといえるので,名誉棄損という線での争い方はできなかったのかな,と感じます。もっとも,その場合,行為主体はコメントや写真を投稿したユーザであるのか,本件サイトを運営していたYとなるのか,という主体論を乗り越えなければならないのですが,本件のような商標,名称からのアプローチよりは現実的であるように感じます。


飲食店評価の口コミサイトのほか,転職・就職情報サイトなど,インターネットにおける企業のネガティブ評価に関する相談事例は増えており,今後もこの種の裁判例は増えてくることが予想されます。