IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

商品画像の著作権侵害とメタタグ使用等の商標権侵害 東京地判平27.1.29(平24ワ21067)

イケアの購入代行サービス事業者が,商品画像の転載,メタタグでの商標使用等の責任を問われた事案。

事案の概要

本件は,途中で事業譲渡が行われ,侵害主体性なども争われているが,事案の概要は,争点に関係する限度で簡略化する。


Yは,平成21年12月ころから平成22年11月頃まで,IKEASTOREという名称のウェブサイト(ドメイン名 IKEA-STORE.jp)を立ち上げて(Yウェブサイト),イケア製品の注文を募り,購入代行するというサービスを展開していた。後にウェブサイトの名称は,「STORE」に変更され,ドメインもSTORE051.comに変更された。


Yウェブサイトのタイトルタグには,

〈title〉 【IKEA STORE】イケア通販〈/title〉

と書かれ,メタタグにも,

meta name=” Description”content= “【IKEA STORE】IKEA通販です。カタログにあるスウェーデン製輸入家具・雑貨イケアの通販サイトです。”/

と書かれていた。検索エンジンIKEAやイケアを検索するとYのサイトが表示されるようになっていた。


上記の他,Yウェブサイトには,イケア(X)が運営するウェブサイトの商品画像と同一のものが掲載されていた。Xは,「イケア」(1634247号),「IKEA」(5197726号)の各登録商標を有していた。


そこで,Xは,メタタグ,ドメインの使用に関しては商標権侵害及び不正競争を,商品画像と説明テキストの使用に関しては著作権侵害を理由に差止と損害賠償を求めた。

ここで取り上げる争点

(1)商品画像に著作物性はあるか
(2)タイトルタグ,メタタグでの使用行為が商標権侵害あるいは不正競争となるか
(3)損害の額

裁判所の判断

争点(1)「商品画像の著作物性」について,裁判所は次のように述べて著作物性を認めた。

X各写真は,X製品の広告写真であり,いずれも,被写体の影がなく,背景が白であるなどの特徴がある。また,被写体の配置や構図,カメラアングルは,製品に応じて異なるが,X写真A1,A2等については,同種製品を色が虹を想起せしめるグラデーションとなるように整然と並べるなどの工夫が凝らされているし,X写真A9,A10,H1ないしH7,Cu1,B1,B2,PB1については,マット等をほぼ真上から撮影したもので,生地の質感が看取できるよう撮影方法に工夫が凝らされている。これらの工夫により,原告各写真は,原色を多用した色彩豊かな製品を白い背景とのコントラストの中で鮮やかに浮かび上がらせる効果を生み,X製品の広告写真としての統一感を出し,商品の特性を消費者に視覚的に伝えるものとなっている。これについては,Y自身も,「当店が撮影した画像を使用するよりは,IKEA様が撮影した画像を掲載し説明したほうが,商品の状態等がしっかりと伝わると考えております。ネットでの通信販売という性質上,お客様は画像で全てを判断いたします。当店が撮影した画像ではIKEA様ほど鮮明に綺麗に商品を撮影することができません。」と述べているところである。

そうであるから,X各写真については創作性を認めることができ,いずれも著作物であると認められる。

ちなみに,上記で言及されている写真のうち,A1とH1については下記参照(裁判所のサイトから取ってきたもので,不鮮明であるが)。


 A1

 H1


争点(2)「商標権侵害,不正競争」に関し,裁判所は,Yの標章がXの商標に類似することを認めたうえで,商品等表示としての使用について次のように述べた。

インターネットの検索エンジンの検索結果において表示されるウェブページの説明は,ウェブサイトの概要等を示す広告であるということができるから,これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグないしタイトルタグを記載することは,役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為に当たる。そして,Y各標章は,htmlファイルにメタタグないしタイトルタグとして記載された結果,検索エンジンの検索結果において,Yサイトの内容の説明文ないし概要やホームページタイトルとして表示され(甲20,21),これらがYサイトにおける家具等の小売業務の出所等を表示し,インターネットユーザーの目に触れることにより,顧客がYサイトにアクセスするよう誘引するのであるから,メタタグないしタイトルタグとしての使用は,商標的使用に当たるということができる。


争点(3)「損害の額」に関しては,著作権侵害(商品画像)の点について,114条3項に基づいて,

X各写真の著作物使用料相当額については,X各写真はYサイト事業において極めて重要なものであるとは考えられるものの,広告写真としてのX各写真の創作性の程度が比較的低いことやXの請求額に加え,ウェブサイトにおけるデータ変更の容易性等に鑑みれば,掲載期間に関わらず,一著作物当たり1000円と認めるのが相当である。

とした。続いて,商標権侵害ないし不正競争の点については,次のように述べて損害がないとした。

商標法38条2項,不正競争防止法5条2項にいう損害の額が認められるためには,権利者に,侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情等損害の発生の基礎となる事情が存在する必要があると解される。

ところが,Xは,X製品のインターネット販売を行っていないのであって,Yによる侵害行為がなければ,Yサイト経由でX製品を購入した顧客がXサイトでX製品を購入したということにはならないし,また,Yサイト事業は,X製品の注文を受けるとイケアストアでX製品を仕入れてこれを梱包し発送するというものであり,Yサイトに誘引された顧客の購入したX製品は,イケアストアで購入されることによりXのフランチャイジーを通してXの利益となっているのであるから,Xについては,Yサイトによる侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情等損害の発生の基礎となる事情があると認めることはできない。

そうであるから,商標法38条2項,不正競争防止法5条2項にいう損害の額は認められない。

つまり,X(イケア)は,自ら,あるいはフランチャイジーがイケアストアを運営しているとしても,通販自体を行っていないから,YがYサイトに顧客誘引したとしても,Xの通販売上が減るという関係にはなく,かえって,Yサイトを訪問した顧客がXの商品を購入すれば,それはXの利益になるから損害はないとした。


結局,著作権侵害の損害14万円に,弁護士費用10万円が損害として認められた。

若干のコメント

そもそも,Yのサービスは,イケアの購入代行というサービスであって,Yのサイト訪問者がイケアの商品を購入すると,Yが,イケアで当該商品を購買し,顧客に配送するというものでした。したがって,商品画像を無断転載したり,「イケア」「IKEA」という標章を無断使用したりしたとしても,Xの販売数量が減るというものではなく,かえって増える可能性があるという事情がありました。


上記に一部を抜粋しましたが,比較的単純な商品写真について著作物性を認めたことが本件判決の1つの特徴です。ただし,創作性が高くないということで,損害額は1点あたり1000円でした。


また,メタタグ,タイトルタグでの商標使用は,商標権侵害になるとしつつ,「損害の発生の基礎となる事情」が存在しないとして,損害を否定したことも特徴の1つです(差止は認めています。)。


ちなみに,主文のうち,タイトルタグやメタタグの記載の差止めについては次のようなものでした。

被告は,インターネット上のウェブサイトのトップページを表示するためのhtmlファイルに,別紙3標章目録1ないし3記載の標章をタイトルタグとして,並びに別紙3標章目録1,2及び4記載の標章をメタタグとして,それぞれ記載してはならない。

著作権侵害についても,差止は,Xが指定した画像に関するものにとどまるのであって,その他の画像については本判決の効力は及びません。