破産者マップ運営者に対する個人情報保護法に基づく勧告・処分の適法性等が問題となった事例。
事案の概要
本件はいわゆる「破産者マップ」(本件サイト)を開設・運営した者(原告、X)に対し、個人情報保護委員会(個情委)が、個人情報保護法(以下、単に「法」)23条1項(条文は、令和2年改正法施行前のもの。以下同じ)*1に違反するとして、勧告をし、さらに勧告に係る措置をとるべきことについて命令(処分)を出したところ、当該命令が違法であるとして、Xが国(被告、Y)に対し、当該命令の取消しを求めた事案である。
なお、本件サイトは、官報に掲載された破産者情報をデータベース化し、氏名・住所による検索サービスや通知サービスを提供するというものである。
個情委は、もともと、本件サイトと同様のサイトを運営するa社に対して命令を出しており、そのa社は執行停止を求めて訴え、却下された。ところが、その直後に、a社と所在地、代表者ともに同じXが政治団体を設立し、本件サイトにサービスが移管されるという経緯があった。
個情委が法42条2項に基づいてXに対して令和4年3月23日に出した処分(本件処分)は、本件サイトを通じて個人データの提供を停止すること等であった。
原審(東京地判令5.3.9令4行ウ134)は、Xの訴えを棄却したため、控訴した。
なお、控訴審判決は、原審判決の改め形式であり、基本的な判断は維持されているので、以下で引用する部分は原審の判断部分も含まれる。
ここで取り上げる争点
◆本件処分(及びそれに先立つ勧告)の適法性
Xは、本件処分が、法42条2項*2の要件を具備しないとして、以下の主張をしていた。
- Xは、法76条1項5号「政治団体の用に供する目的」*3または同項1号*4「報道の用に供する目的」にあたるから個人情報取扱事業者に対する義務の適用は除外される
- 本件サイトにおける個人情報の提供は、法23条1項2号所定の除外事由「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」にあたる
- 本件サイトは官報に掲載された情報を周知するものであり、勧告(法42条1項)の要件「個人の権利利益を保護するため必要がある」場合に当たらず、命令(同条2項)の要件「重大な権利利益の損害が切迫している」場合にも当たらない
他にも多様な主張をしているが、ここでは割愛する。
裁判所の判断
まず、法76条1項5号該当性について、
Xは、a社において個人情報保護法所定の命令等を受けることを回避し、本件サイトを継続させるという目的で設立されたものと認めるのが相当である。そして、(略)上記事実に加え、本件全証拠によってもa社が同法76条1項5号所定の「政治団体」に該当すると認めるに足りないことを併せ考えると、Xについても同法76条1項5号所定の「政治団体」に該当するとは認められず、また、本件サイトの運営が「政治活動(これに付随する活動を含む。)の用に供する目的」でされていたと認めるに足りる証拠もない。
として、処分回避目的で設立されたものだとしてXの主張を退けた。同項1号についても同様に否定した。
個人情報保護法76条1項1号所定の「報道」とは、不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせることをいうが(同条2項)、Xの規約における目的(第2条)をみても、「不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせる」旨は掲げられておらず、むしろ「官報が公告している個人が特定できる情報(中略)の流通を一律的に規制している個人情報保護法について反対すること」が掲げられていることに照らすと、Xは、この目的を達成するために破産者等の破産手続等に係る個人情報を取捨選択することなく本件サイトにそのまま提供しているということができ、「事実として知らせる」ことを目的としてはいないというべきである。
法23条1項2号該当性についても否定した。
個人情報保護法23条1項2号において、同項の適用除外事由の一つとして「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合」が定められているところ、同項の上記の趣旨を踏まえると、同号の事由に該当するか否かの判断に当たっては、個人データの提供により本人が被るおそれのある権利利益の侵害を考慮してもなお第三者の権利利益保護の要請が上回る等の事情があるか否かを検討する必要がある。
そこで検討するに、破産手続等に至る過程や破産手続等後の状況といった事柄は個別性が高いものであるから、破産者等の破産手続等に係る情報を取引相手等の第三者に提供することが直ちに取引相手の財産の保護に資するとは一概にはいい難い。
(略)このように、本件サイトによって破産者等の破産手続等に係る情報を提供しないことにより取引相手等が被り得る財産の侵害は抽象的なものにとどまるのに対し、破産者等の破産手続等に係る情報が第三者に提供されることにより破産者等が被り得る権利利益の侵害は具体的なものといえる。
(略)本件サイトにより提供されている個人データには本人の氏名及び住所が含まれ、Xが個人データ作成時に本人に連絡を取ることは可能であるから、「本人の同意を得ることが困難であるとき」(個人情報保護法23条1項2号)に該当すると認めることはできない。
法42条1項、2項所定の「個人の権利利益を保護するための必要がある」「侵害が切迫している」については、次のように述べた。
個人の重大な権利利益の侵害が切迫」(個人情報保護法42条2項)しているといえるか否かについては、権利利益を侵害される個人の数の多さや個々の権利利益侵害の程度の大きさ(問題となる個人情報の性質、取扱いの目的・方法等に起因する個人の権利利益の侵害の深刻さ等)を踏まえて総合的に判断するべきものである。
本件サイトは、官報に掲載された破産者等の破産手続等に係る情報を第三者に提供していることから、権利利益を侵害される個人の数は多数に上る。そして、特定の個人が過去に破産手続等を受けたという事実は、当該個人の経済的信用性に関する評価等に影響を及ぼすものであり、一般に知られたくない機微な情報に該当するところ、上記事実に係る情報を不特定多数の者に容易に知られる状況に置かれた場合に侵害され得る権利利益は、そのような情報を取得した側の目的に応じて広範囲に及び、当該個人の社会経済を含む生活全般に影響が生じるおそれがある。また、前提事実(1)アのとおり、本件サイトにおける個人データの提供方法は、氏名又は住所を入力し検索機能を利用すること等により、不特定多数の者が容易に当該対象の情報に到達することができるというものであり、一旦不特定多数の者に伝播すると、短期間で広範囲に拡散し得る性質を有することから原状回復は困難であるため、個人の権利利益の侵害の程度は深刻なものといえる。
以上によれば、Xが本件勧告に係る措置をとらなかったことにより、本件処分時において「個人の重大な権利利益の侵害が切迫」(個人情報保護法42条2項)していたと認められる。
控訴審で新たに追加された主張についても、特に見るべき点はなく、いずれも退けられた。
若干のコメント
破産者マップについては、2018年終わりごろから世間で話題になり、サイト閉鎖後も別の類似サイトが発生するなどしていました。
いずれも、同意なき第三者提供ということで、(当時の)法23条1項違反であるといえるが、オプトアウト手続(同条2項)を踏めば、形式的には違法ではないという言い逃れが可能になってしまう問題があり、令和2年改正(令和4年施行)により、「不適正な利用の禁止」(現19条)が設けられるに至りました*5。本件は、令和2年改正法の施行前の事案です。
本件サイトの運営者も、個人情報保護委員会からの指摘を受けて、別の「政治団体」を立ち上げるなどして、法の適用除外を企図しましたが、裁判所は、「政治活動の用に供する目的」ではないとし、法の潜脱を許しませんでした。
もとより、本件処分は違法なものであるとは考えにくいため、本裁判例はあまり先例的価値は高くないのかもしれませんが、同意を必要としない除外事由である(当時の)法23条1項2号「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」の該当性について、判断した点は今後の参考にもなり得るでしょう*6。
この解釈について裁判所(原審)は、「個人データの提供により本人が被る・・権利利益の侵害」と「第三者の権利利益保護の要請」との比較衡量をすると述べています*7。
このような状況の中で、2026年3月中旬に「裁判官マップ」が開設されました*8。破産者マップとはその性質を大きく異にするものですが、その適法性についても話題になっています。
*1:現27条。
*2:現148条2項
*3:現57条1項4号
*4:現57条1項1号
*5:現ガイドライン(通則編)3-2「不適正利用の禁止」には、違法となる事例2として、本件のような破産者情報をデータベース化して公開する場合を挙げている。
*6:この規定は、利用目的制限の例外を定める現18条3項と同様であるため、同条の解釈にも参考になり得る。
*7:いわゆる青本(岡田=北山ら『個人情報保護法』(商事法務))609頁にも、本裁判例の原審が触れられてが、判断内容を紹介しているにとどまる。
*8:2026年3月25日時点で、1377件の口コミが掲載されている。裁判官2500人を可視化「裁判官マップ」公開、口コミ投稿に「圧力になる」と懸念も…開発者の弁護士に聞く - 弁護士ドットコム