IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

スクショ形式による引用の成否 知財高判令5.4.13(令4ネ10060)

スクショ形式で、ツイートを貼り付けた行為について、著作権侵害の成否が争われた事例で、控訴審にて判断が覆った事例。

事案の概要

本件は、東京地判令3.12.10(下記リンク)の控訴審である。

itlaw.hatenablog.com

著作権侵害事件ではなく、発信者情報開示請求事件なので、被告(控訴人)は投稿者ではなくプロバイダである。原審では、スクリーンショットされたツイートは短文ながらいずれも著作物であることを認めたうえで、スクリーンショットの方法は、ツイッター規約違反であるなどの理由で、公正な慣行に合致せず、適法な引用(著作権法32条1項)には当たらないから、権利侵害(著作権侵害)が明らかであるとして、発信者情報の開示を認めたため、プロバイダが控訴した。

なお、その後、別事件ではあるが、知財高判令4.11.2では、プロフィール画像を含むスクリーンショットについて、適法な引用にあたるとした判断が出されていた。

itlaw.hatenablog.com

ここで取り上げる争点

引用の成否

裁判所の判断

裁判所は、原審の判断を覆し、著作権法32条1項にいう公正な慣行に当たり得るとして、権利侵害の明白性が認められない(=開示請求には理由がない)とした。

そもそも本件規約は本来的にはツイッター社とユーザーとの間の約定であって、その内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではない。また、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が本件規約違反に当たることも認めるに足りない
他方で、批評に当たり、その対象とするツイートを示す手段として、引用リツイート機能を利用することはできるが、当該機能を用いた場合、元のツイートが変更されたり削除されたりすると、当該機能を用いたツイートにおいて表示される内容にも変更等が生じ、当該批評の趣旨を正しく把握したりその妥当性等を検討したりすることができなくなるおそれがあるのに対し、元のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする場合には、そのようなおそれを避けることができるものと解される。そして、弁論の全趣旨によると、現にそのように他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートするという行為は、ツイッター上で多数行われているものと認められる。
以上の諸点を踏まえると、スクリーンショットの添付という引用の方法も、著作権法32条1項にいう公正な慣行に当たり得るというべきである。

これを踏まえて、元の投稿(スクリーンショット)を批評する目的で行われたと認める余地があることや、その態様は、引用部分と引用される部分が明確に区分されていることなどから、引用に関する結論としては、次のように述べた。

以上の点を考慮すると、本件各投稿における原告各投稿のスクリーンショットの添付は、いずれも著作権法32条1項の引用に当たるか、又は引用に当たる可能性があり、原告各投稿に係るYの著作権を侵害することが明らかであると認めるに十分とはいえないというべきである。

若干のコメント

本件は、発信者情報開示請求の事案であるため、(令和3年改正前)プロバイダ責任制限法4条1項1号の「開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」の要件充足性が問題となっています。著作権侵害事件であれば、権利が侵害されたかどうかが争われるのに対し、発信者情報開示請求事件の場合、それが「明らか」であることまでも認められなければならないのでハードルは上がります。

そのため、裁判所も、このような引用方法がはっきりと「著作権法32条1項の引用に当たる」かどうかを認めるまでもなく、「引用に当たるか、又は引用に当たる可能性があり」というところでとどめて請求を棄却することができました。

少しスッキリしない感はありますが、本件の知財高裁の言い回しや、前掲の知財高判令4.11.2に照らせば、スクリーンショットによる方法だという理由でただちに著作権侵害が認められることはなさそうです。

なお、本件については、海老澤先生による解説もご参照。