IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ガチャの表示の不当性 東京地判平30.9.18(事件番号略)

期間限定で提供されていたガチャの表示を巡ってユーザがゲーム運営会社を債務不履行・不当利得・不法行為等に基づいて返金を求めた事案。

事案の概要

Yが開発・運用する スマートフォンゲーム(本件ゲーム)では,「★5そうび」と称する貴重なアイテムがあって,ガチャによって7%の確率で入手することができるようになっていた。

本件ゲームでは,期間限定で行われたガチャで全11種類の「★5そうび」が出現することとされていたが,そこには以下のように表示されていた(本件表示)。

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ITmediaの記事*1より引用>

ポイントは,黄色い文字の下の最初の「※」で,「上記のそうびの他にも排出される場合があります。」という記載である。

ユーザXらは,この表示によれば,期間限定のガチャにおいては,期間限定の★5そうび(ピックアップそうび)が優先的に排出され,それ以外の★5そうびは,低確率で排出されるように読めるところ,実際には,極めて低い確率でしか排出されなかったとして,(1)債務不履行,(2)要素の錯誤,(3)詐欺,(4)消費者契約法4条1項に基づく取消,(5)景表法5条1号又は2号に反する違法な表示であって不法行為に該当する等と主張し,購入したゲーム内通貨相当額の支払いを求めた。

ここで取り上げる争点

「本件表示は,期間限定のアイテムが,通常の★5そうびよりも排出確率が高いという誤認を与えるなど不当なものであったか。」


請求原因の違いはあれども,上記の図のような表示は,ユーザに対する適切なものであったかという点で共通するといえる。

裁判所の判断

争点は多岐に渡るが,裁判所は次のように述べた。

本件の各争点は,いずれも本件表示が(略)いかなる意味と認識されるかということが重要な前提問題となっているところ,そのような記載から認識される意味内容を検討するに当たっては,当事者間に当該記載の意味内容について,特別な意味内容を持つような特段の事情がある場合を除き,単に本件表示の記載のみならず,本件表示が記載されている場所や本件表示の前後の文脈,当該表示がパソコンやスマートフォンの画面において表示される場合には,その画面の変遷等を総合的に考慮して,一般通常人の認識を基準として,その意味内容を解釈すべきものと解される。

つまり,総合的にみて,一般人の基準に「どう読み取れるか」ということを判断すべきだとしている。

続いて裁判所は,前記の「の他にも」「場合がある」といった記載については,

ピックアップそうびが主たるものと読み取れる記載があるからといって,当然に,ピックアップそうびの排出確率が,他の★5そうびより高いことを,一般通常人をして認識するものとはいえない。
(略)
「場合がある」というXらの主張に沿うような記載があるとしても,当然に,これをもって,一般通常人をして,ピックアップそうびの排出確率が他の★5そうびより高いとを(ママ)いうことを認識するものとはいえない。

として,Xらの主張を排斥した。

このような本件表示の解釈を前提とすると,(1)ピックアップそうびが高確率で出現することが契約の内容となっていたとはいえず,(2)動機の錯誤に過ぎず,そのような動機も表示されたとは認められないとし,(3)欺罔行為はなく,(4)「契約の目的となるものの質」について事実と異なることを告げたことはなく,(5)優良誤認,有利誤認もない,として,すべての請求を退けた。

若干のコメント

期間限定のアイテムが出ることをもってガチャを誘引した場合,そのユーザは,期間限定のアイテムが出ることのみならず,通常のアイテムよりも期間限定のアイテムのほうが排出確率が高くなると考えるのか否か。本件表示のもとでは,当然にそのように読み取れる内容になっていたのかどうか,というのが本件のポイントです。

この点に関し,裁判所が,単なる文言だけでなく,前後の文脈や画面遷移など,総合的に判断するといったことが注目されます。

報道によれば,本件は控訴されるということなので,判断は確定していませんが,高裁の裁判官たちが,スマホゲームのユーザという通常一般人の感覚で表示を読み取ることができるかどうか,注目されます。