IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

SEO対策業務の履行 東京地判平27.4.23(平26ワ1948)

SEO対策業務の履行の有無が争われた事例において,事業者が具体的な作業内容は明かせないとしつつも,結果が改善されたことから履行があったと推認されるとした事例

事案の概要

Xは,Yとの間で,aサイト(楽天)内での集客支援サービスを提供する契約(本件契約)を締結し,サービスを提供したが,Yがその代金84万円を支払わないとして請求したのに対し(本訴),Yは,上記サービスの債務不履行があるとして損害賠償請求を行った(反訴)。


Xが提供するサービスは,aサイト内で,ユーザがYの販売する商品(スマートフォンカバー)に関連するキーワードを入力して検索した際には,Yの販売する商品が上位に表示されるような対策をするというものであり,報酬は月額10万5000円とされていたが,支払ったのは2か月分のみで,その後8か月分が支払われなかった。


本件契約の内容は次のようなものである。

【サービス内容】Yが指定したURLにおいて,Yが指定したキーワードに関連する商品ページの楽天サイト検索エンジン最適化対策

【利用代金】月額10万5000円の12回払い(合計126万円)

【免責事項】aサイト内における商品検索結果の順位等について何ら保証しない

ここで取り上げる争点

Xに債務不履行はあったか

裁判所の判断

Xは,本件契約に基づく債務を履行したと主張したが,具体的にどのようなキーワードを入力したのかといった具体的な作業は「ノウハウに属する事項」であるとして主張しなかったが,結果として表示ランクが上昇したことを主張した。


裁判所は,楽天サイト内のSEO対策の方法論として次のように認定した。

Xは,aサイト内での検索エンジンによる検索結果がどのような法則に基づいて商品を上位から順位付けして表示しているかについて,様々な経験則や知識から推測し,単語の個数,場所,前後の文脈などを工夫し,結果を見て改変を繰り返す。この方法は,aサイトの検索エンジンに引っかかりやすい単語,言い回しなどを効果的に使用することにより,被告商品の商品ページが本件キーワードでの検索結果の上位に表示されることを目指すものであるが,決定的な法則はなく,aサイトの検索エンジンアルゴリズム自体も頻繁に改訂されることから,確実に表示順位が上がる効果をもたらす入力内容は定まっておらず,検索エンジンの改訂や他社との競争の中で,単語を変更してみては2,3日後に効果を確認するという作業を繰り返して傾向を把握しつつ,試行錯誤の上で結果として検索結果の上位に表示されるように変更を繰り返す。そして,逆に,一旦効果が上がった場合に,さらに改変すればその効果が維持あるいは増進する保証もなく,改変することで逆に表示順位が下がるリスクもあるため,一旦上位に表示された場合にはむしろ触らない方が良いことも多く,数日に1回検索結果を確認し,一定順位に表示されていれば特に対策を加えないこともしばしばある。

なお,本件訴訟において,Xは,本件契約に基づき行った個別的な作業内容について主張,立証しない。

その当時,aサイトで「SH-06E」を検索すると,6万7000以上のページが表示される状態にあったが,検索結果の1ページ目に表示されるYの商品数は,3個から10個に増加するなど,他のキーワードについても1ページ目に表示される数は増加した。


Yは途中で,本件契約を解消する旨を伝え,aサイトの管理ページにログインするためのパスワードを変更したため,それ以降Xは,Yの管理ページにログインすることができなくなった。


そして,裁判所は次のように述べて,Xはサービスを提供していたことが推認できるとした。

(注:検索結果1ページに表示される商品数が増えたという事実認定に続き)上記3個のキーワードでの検索結果1ページ目におけるY商品の商品ページの表示数増加は顕著なものということができ,本件サービス以外にY商品の商品ページの表示数を増加させた原因が存在したことを認めるに足りる証拠がないことも考慮すると,Xは,同日までの間に,ログインしたYの商品管理ページにおいて,「商品名」などの各欄記載内容を変更するなどして,本件サービスを提供したと推認することができる。

そして,Xは,同日以降も,Yの商品管理ページにログインできなくなった同年7月10日ころまで,合計9日間にわたってYの商品管理ページにログインしていたところ,aサイトの検索エンジンにおける検索結果順位を上げるための決定的な法則性がなく,検索結果に表示される商品ページ数が増加した場合には,数日に1回検索結果を確認し,一定順位に表示されていれば特に対策を加えないこともしばしばあったが,本件契約上,この対策方法等に関してはXの裁量にて行うこととされていた。そうすると,Xは,同日ころまでの間,検索結果に表示される被告商品の商品ページ数が維持されるように,Yの商品管理ページにログインして,少なくともY商品の検索結果の順位変動を観察するという形で本件サービスの提供を継続していたと推認することができる。

以上によれば,Xは,本件契約が成立した平成25年5月30日からYの商品管理ページにログインできなくなった同年7月9日ころまでの間,本件サービスを提供しており,本件契約に基づく債務を履行していたと認められる。そして,同日ころ以降,Xが同管理ページにログインできずに本件サービスを提供することができなくなったことは,Yの責めに帰すべき事由によるものであり,かつ,Yは,同年8月27日までに利用代金の5回目分の支払を行わなかったことから,同日の経過をもって,利用代金の5回目分以降の支払に係る期限の利益を喪失したといえる。

裁判所は,以上のように述べて,Xの請求はすべて認容し,Yからの反訴請求を退けた。

若干のコメント

下手なやり方をしたために余計に表示されなくなったとか,成功報酬が高すぎるなど,SEO対策サービスに関するトラブルはちょくちょく発生しています。本件は,期待する効果が生じなかったとして支払いを拒絶したユーザとSEO対策事業者との紛争でしたが,Xが具体的にどのようなサービスを提供したのかを主張しなかったにもかかわらず,結果から見てサービスを提供したことが推認される,としたことが特徴的です。


ECサイトの運営者等にとって,検索エンジンや一部の大手モールが極めて重要なインフラになっていることから,作業内容がブラックボックスで,かつ,結果も保証しないという博打のようなサービスでありながらも一定の需要が生じるのでしょう。