IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

SEO対策の実施の証明と報告義務の履行 東京地判令4.2.25(令2ワ29856)

SEO対策事業者による業務が実際に行われたのか、報告義務が果たされたのかが争われた事例。

事案の概要

不動産業のXは、Yに対し、SEO対策を委託し(本件契約)、業務委託料として約140万円を支払った。Yの依頼範囲には、外部対策(外部サイトに自社サイトの被リンクを獲得することによって検索順位を向上させること)は含まれるが、内部対策(自社サイトの内容を最適化することによって検索順位を向上させること)が含まれるかどうかは争いがあった。

Xは、Yに委託した後も、Xのサイトへのアクセス数が増加した実感を持てなかったため、アクセス数解析ツールを用いてアクセス数の推移を確認したところ、特にアクセス数が変わっていないことが判明した。

そこで、Xは、Yに対し、クレームを入れるとともに、実施した業務の内容や検証結果を報告するように求めたが、Yの担当者は、

SEO対策につきましての証明に関しましては,提示出来ません」

SEO対策は,Googleが評価するものでございまして,A様(X代表者)が評価するものでございません。」

「外部対策は実施しているため,ご返金は出来ません」

「ご納得されるかはA様のお気持ち次第にはなりますので,ご納得されないとのことでも,ご返金は出来ません」

などのメールを送り、報告依頼事項に対しては報告できないと回答した。そこで、Xは、本件契約を債務不履行によって解除し、既払金の返還を求めた。

ここで取り上げる争点

(1)Yの業務の履行の有無

(2)Yの報告義務違反の有無

裁判所の判断

まず、(1)について、業務実施義務違反があるとした。

(1)  被告は,原告サイトに最適な被リンク用サイトを選定し,原告サイトと関連する内容の被リンク用サイトのコンテンツを作成したうえ,原告サイトのURLを掲載したと主張するが,口頭弁論の終結に至るまで,これらの業務を行ったことを示す客観的資料を何ら提出しない。

(略)

さらに,①本件契約は,対象検索サイトにおいて原告サイトを検索結果の上位に表示させる目的で締結されたものであること,②Cも,被リンク用サイトとしてどのようなウェブサイトを選ぶかが重要である,基本的なワードをしっかり入れたコンテンツ作りやリンク設定をしてグーグルにアピールできるようにしている旨述べていること(証人C)等の事情を勘案すれば,本件業務には,外部ウェブサイトから原告サイトに被リンクを設定することに加え,被リンク用サイトを検索エンジンから高い評価を受けられるものとすることや効果的なアンカーテキストを設定すること等も当然含まれ,このことは原告・被告間の共通認識となっていたものと認められる。しかるに,被告は,(略)実際に検索エンジンから高い評価を受けられる被リンク用サイトを選定・準備したことや原告サイトへ外部リンクを張った被リンク用サイトの数や種類,アンカーテキストの内容等を一切明らかにしない。

これらの事情に照らせば,被告は本件業務を実施していないものと認めるほかなく,被告には本件業務の実施義務違反があったといえる。

要は、Yは「実施した」と主張するのみで、具体的に行ったことを(言えなかったのかはわからないが)立証しなかったため、義務の履行が認められなかった。

次に(2)の報告義務については、義務の存否から争われたが、裁判所は、(1)で義務違反が認められるが「なお念のため」として次のように述べて報告義務違反も認定した。

 (1)  被告は,本件契約の受任者として,原告の請求があるときは,事務処理状況の報告義務を負い,また,本件契約の終了後は,遅滞なくその経過及び結果を報告する義務を負う(民法656条,645条)。

これに対し,被告は,本件条項(引用者注「被リンク用サイトを原告に開示しない」との約定)を理由に,被告が本件業務の実施について原告に対する報告義務を負わないと主張するが,本件条項は「当該リンク設定を行った被リンク用サイト」を原告に開示しないことを定めるにすぎず,被告が事務処理状況等の報告義務を一切負わないことまで定めるものとは到底解し得ないから,被告の主張は採用できない。

 (2)  そして,被告は,上記1(4)のとおり,原告代表者から,①被告の行った本件業務の内容,②当該業務に支出した費用の明細及び③本件業務による効果の検証結果を報告するよう求められたにもかかわらず,Eにおいて,「SEO対策につきましての証明に関しましては,提示出来ません」,「SEO対策は,Googleが評価するものでございまして,A様(判決注:原告代表者)が評価するものでございません。」,「外部対策は実施しているため,ご返金は出来ません」,「ご納得されるかはA様のお気持ち次第にはなりますので,ご納得されないとのことでも,ご返金は出来ません」などと記載したメールを送信して,原告が報告を求めた事項について一切回答できないことを明らかにしたのであるから,被告には,本件業務の実施についての報告義務違反があったと認められる。

以上より、裁判所は、Xが支払った金額の全額を損害として認容した。

若干のコメント

SEO業者については、中には悪質な業者もいるということで、しばしばトラブルが起きています。過去に当ブログで取り上げた東京地判平27.4.23では、同様に具体的な作業は明かせないといっていたものの、結果が向上していたことから、サービスが提供されたことが推認できるとしています。

他方、本件では、同様に内容は明かせないとしつつも、アクセス解析したところ結果が変わっていなかったことに加え、不誠実な回答しかなかったことから、業務が履行されていないとして全額の返還が認められました。

本件のようなSEO業務に限らず、準委任契約では、報告義務の規定(645条)を用いて受託者に対して報告を求めることがあります(報告を拒絶すれば債務不履行を主張する。)。もちろん、どこまでが報告の対象になるかはこの条文からは明らかになりませんが、口を閉ざす受託者に対する手掛かりになる規定なので知っておくとよいでしょう。

(受任者による報告)
第645条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。