IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ホームページ作成ソフトによって自動生成されたhtmlの著作物性 東京地判平24.12.27(平22ワ47569号)

「大道芸研究会」に関するウェブサイトの著作権侵害が争われた事案。

事案の概要

X,Yは,ともに大道芸研究会の会員であり,Xは,大道芸研究会のウェブサイト(本件ウェブサイト)をマイクロソフトフロントページエクスプレス*1で作成し,管理をしていた。Yは,Xが退会後,本件ウェブサイトのソースコードを取り込んだうえで,新たな情報を付加し,新たな大道芸研究会のウェブサイトを開設し,管理している。


そこで,Xは,本件ウェブサイトの画面及びソースコード著作者人格権侵害であるとして,Yに対し,160万円の損害賠償を求めた。

ここで取り上げる争点

Yの行為は,本件ウェブサイトの7つの画面及びソースコードに関するXの著作者人格権を侵害するか

(具体的な画面とソースコードは判決文別紙に記載されているが,裁判所ウェブサイトでは別紙が省略されているため,確認していない。)

裁判所の判断

7つの画面全てについて,裁判所は,素材自体はフロントページエクスプレスに収録されていたものであるし,レイアウト等もありふれているとして,著作権の帰属ないし著作物性を否定した。例として,画面1に関する判断を抜粋する。

本件画面1は,別紙X画面目録1のとおり,画面上中央に「大道芸研究会」と太文字のタイトルを配置し,そのタイトルの下に更新内容の掲載欄を配置し,画面中央やや上に,「都合によりしばらくメールの送受信ができません。お急ぎの方は,下記へご連絡をお願いします。」と記載した文章及び横長の長方形の枠内に大道芸研究会・事務局への連絡先を掲載し,画面下中央部に写真の画像を掲載し,全体の背景に花柄模様の画像を使用したものである。

上記写真の画像は,大道芸研究会の会員のCが撮影した写真を素材とするものであり,また,前記ア認定のとおり,文字のフォントや背景の画像は,フロントページエクスプレスに添付のもの又はX以外の第三者が作成したものを素材とするものであるから,これらの素材自体は,Xの著作物であるとはいえない。

つづいてXが画面構成について創作性を主張したのに対し,裁判所は,アイデアなど表現それ自体でないもの又はありふれた表現などは保護されないとする一般的な規範を述べたうえで,

ところで,団体に関する各種の情報を掲載し,広報等の目的で開設された団体のウェブサイトのホームページ(ウェブページ)の画面構成においては,
(1)団体名を画面の上に太文字で配置すること,
(2)各ページの掲載内容を示すタイトル欄をページごとに設けること,
(3)各記載内容にタイトルを設けること,
(4)タイトルを枠や図形の中に配置すること,
(5)画面上に,各種の大きさの枠を設けてその中に,あるいは枠を設けずに,更新内容,団体の連絡先,団体の説明,団体の活動内容及び入会に関する情報等の団体のホームページとして必要な内容を掲載すること,
(6)写真を中央に大きく掲載したり,小さめの写真複数枚を並べて掲載すること,
(7)写真に近接して写真の説明等を配置すること,
(8)画面内に他のページへのリンクの案内ボタンを複数並べて配列し,あるいは,単独で配置すること,
(9)図柄の背景や単色の背景を使用すること,
(10)文字・枠・背景に各種の色や柄を用いること
は,いずれも一般的に行われていることであり,ありふれた表現であるといえる。

とし,本件ウェブサイトの画面1についてもありふれたものであるとして,創作性を否定した。画面2から7についても同様に否定した。


また,本件ウェブサイトを構成するソースコードは,プログラムの著作物に該当すると主張した点について,次のように述べて思想または感情が創作的に表現されたものではないとして否定した。

プログラムを著作権法上の著作物として保護するためには,プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され,その作成者の個性が表れていることが必要であると解される。

しかるところ,本件ソースコードは,Xがフロントページエクスプレスを使用して本件各画面を作成するに伴ってそのソフトウェアの機能により自動的に生成されたHTMLソースコードであって,X自らが本件ソースコードそれ自体を記述したものではないことからすると,本件ソースコードの具体的記述にXの思想又は感情が創作的に表現され,その個性が表れているものとは認められない。


なお,Xは,著作物性が認められないとしても,Yは一般不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任を負うと主張したが,これについては,団体内部の分裂等の経緯を詳細に事実認定したうえで,Yの行為が「社会的に許容される限度を超えるものとみることはできない」として,一般不法行為の成立も否定した。

若干のコメント

本判決のポイントは,ツールによって自動生成されたhtmlの著作物性です。著作権法2条1項1号では,著作物の定義を「思想又は感情を創作的に表現したものであって」としていますが,裁判所は,コンピュータが吐き出した結果のhtmlは,人の「思想又は感情」を表現したものではない,あるいは「創作的に表現され」たものではないとしました。


今では,このようなホームページ作成ソフトに限らず,通常のソフトウェア開発においても,ソースコードの自動生成ツールなどが用いられていますが,こうして生成されたソースコードそれ自体は,著作権法が保護するプログラムの著作物とはいえない可能性があります。


プログラムの著作物に限らず,例えば,翻訳サイト(例えば,Google翻訳など)を用いて機械的に翻訳した文章は,たとえ原文に創作性があった場合でも,誰の思想又は感情を表現したものでもなく,著作物とはいえない可能性がありそうです。

*1:ワープロソフト感覚でホームページを作成できるフリーソフト