IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

DVDコピーガード技術の営業秘密該当性 東京地判平25.2.13(平21ワ32104号)

DVDのコピーガード技術が営業秘密に該当するとされた事例。

事案の概要

NPO法人XはDVDのコピーガード技術(本件技術)を開発し,Yとともに共同で本件技術を用いたサービスを推進することとしていた。その後,XY間の覚書が解除されたが,その後もYが本件技術の使用を継続し,コピーガード専用プログラム及び専用DVD-Rを製造販売し続けたことから,Xは,これらの行為が不正競争防止法2条1項7号に該当するとして,使用の差止めと,損害賠償約6000万円の支払いを求めた。


X設立時の代表者Bが本件技術の開発者であり(この点も争いがあったが,裁判所はほぼBが開発した技術だと認定している。),Yとはソニー勤務時代の先輩後輩の関係にあった。


本件技術の概要は,

[1]DVD−Rの空きディスクに事前加工を施して,プリフォーマットディスクを作成し,
[2]事前加工箇所にダミー映像を挿入することを可能とする専用プログラム(ソフト)を使用して,ダミー映像で事前加工箇所が2度書きされることにより読取不可領域を形成し,複製困難なDVDを作成する技術

とされている。

ここで取り上げる争点

  • 本件技術の内容は営業秘密(不正競争防止法2条6項)に該当するか
  • 営業秘密の不正使用による損害の額はいくらか

裁判所の判断

営業秘密(不正競争防止法2条6項)に該当するというためには,[1]非公知で,[2]有用かつ,[3]秘密として管理された情報であることが必要であるが,3要件ともにあっさりと認めている。このうち,多くの事例で問題となる[3]の秘密管理性に関する判断を引用する。

本件仮覚書では,8項において「甲の持つ技術や情報」についても秘密保持の対象とされており,1項の特許出願に係るコピーガード技術に秘密保持の対象が限定されるものではないから,Yらは,本件技術内容2について,秘密を保持する義務を負っていたと認めるのが相当である。

本件仮覚書が解除された平成18年4月以降においても,Xは,Y会社が機密保持契約を締結し,年間ライセンス料を支払うべきこと,Y会社の代理店,取次店等がXと機密保持契約を結ばなければならないこと等を内容とする平成19年3月6日付け「技術侵害に関する改善警告及び請求について」をY会社に送付し,さらに,営業秘密たる技術を用いて業務を行うことの停止等を求める平成21年3月10日付け「通知書」をY会社に送付し,これらはいずれもその頃Y会社に到達している。これに対するY会社の応答は証拠上認められないものの,上記各証拠によれば,YAは,本件技術内容2について,その帰属をXが主張して紛争となっており,Xとの関係で,その取扱いについて慎重を期すべきことを認識しており,本件技術内容2についてXが秘密として管理しているとの認識があったものと認められ,他にYらが本件技術内容2の実施に不可欠の範囲を超えて本件技術内容2を開示したとも認められないから,本件技術内容2(ないしその関連技術)はXにおいて秘密として管理されていたと認めるのが相当である。


本件技術の内容は営業秘密であると認められ,Yによる覚書終了後の使用は不正競争行為であるから,損害賠償責任を負うこととなった。


その損害の額は,不正競争防止法の推定規定を適用して算出している。

不正競争防止法5条2項の侵害者が受けた利益とは,限界利益をいい,侵害者の売上から変動費を控除した額であると解され,原則として設備投資や一般管理費は控除されない。


Yは製造原価のほか,様々な費用を変動費であると主張したが,報酬の一部とコピーマシンの減価償却費と荷造運賃については変動費として認めたものの,研究開発費,通信費,旅費交通費等のその他の科目については変動費として算入しなかった。


また,本件技術の内容に応じて一定の寄与率の適用を認め,結局,2144万円余りの損害(+10%の弁護士費用)を認めた。

若干のコメント

DVDのコピーガード,と聞くと不正競争防止法の技術的制限手段あるいは著作権法の技術的保護手段が思い浮かびますが,本件では,Bが独自に開発したコピーガード技術の内容が不正競争防止法の営業秘密にあたるかどうかが争われました。


営業秘密該当性が争われる事案は多く,特に3要件のうち「秘密管理性」が争われます。多くは,情報を格納した媒体の管理体制が問題となるのですが,本件では,守秘義務契約に基づいて開示されていた情報であったということから,運用上の管理体制についてはあまり問題となることなく,秘密管理性が認められています。