IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

集団訴訟管理システムの完成 東京地判平28.4.1(平26ワ25549)

弁護士が開発を委託したシステムの完成が争点となった事例。

事案の概要

弁護士であるXは,Yに対し「集団訴訟管理システム」(本件システム)の開発を委託したが,Yが開発したシステムは,係属裁判所,事件番号等の入力項目がなく,雛形のダウンロード機能もない未完成のものであったと主張し,債務不履行に基づく損害賠償等,合計して約450万円を請求した(予備的請求等は割愛。)。

ここで取り上げる争点

本件システムは完成したのか

裁判所の判断

裁判所は,まず,次のように問題を設定した。

Xは、本件システムには、係属裁判所、事件番号等の入力項目がなく、よって、これらにより事件を検索する機能がなく、ひな形のダウンロード機能もないことをもって、未完成のものである旨主張するから、そもそも、本件システムにそのような機能を持たせることが本件契約の内容となっていたかが問題となる。


続いて,以下のように述べて,本件システムが未完成品であるとは認めなかった。

そもそも「集団訴訟」とは、「訴訟当事者、特に原告が多数で集団を成している訴訟」(広辞苑第六版)をいうのであって、「集団訴訟(管理)システム」というだけで、必然的に係属裁判所、事件番号等の入力項目が導かれるものではない。訴状2頁等の記載からすれば、原告の関心は、「多数の弁護士を抱える大事務所や全国の弁護士に割り振るような集団的な顧客管理システムの汎用版」を目指すということにあった旨主張しているものと解されるが、これ自体イメージとして不明瞭であり、事実、Z(引用者注:本件システムを担当した最初のベンダ)契約においても、これらの入力項目を必須とするものはなく、Zとの打合せ議事録においても、Xがこれを強調して、入力項目とした形跡は見受けられない。Xは、(略)「少なくとも係属裁判所や担当部等を記録・管理する内容が本システムの根幹の一つとして必須であることは、容易に看取できる」(略)日頃、裁判実務に携わっている者には自明のことであっても、そうではないYらにとって、このようにいえるとは解されない。要するに、本件契約の内容として、係属裁判所、事件番号等の入力項目を設け、これらにより事件を検索する機能を持たせるようにするためには、Xがその旨を明確に指摘し、Yと協議したことが必要であると解されるところ、このような事実があったことを認めるに足りる証拠はない。

その余の請求(不法行為等)も否定された。

若干のコメント

発注者であるユーザが「当然実装されるべき機能が実装されていない」として,開発費用を支払わない,というケースはよく起きています。「当然実装されるべき」ということを立証することは,業界慣習や技術水準なども関連するので,通常は困難ですが,本件は,たまたま,発注者が弁護士であり,その問題とするところについて裁判所にも一定の理解があったようです。しかし,裁判所は,

日頃、裁判実務に携わっている者には自明のことであっても、そうではないYらにとって、このようにいえるとは解されない

と述べてXの主張を否定しました。本件では,途中で要件定義書,詳細設計書がYから交付されており,その時点で,Xが問題視する機能は記載されていなかったと思われます。ユーザの側においても,当然と思われる仕様であっても明確に伝えなければならず,提出された仕様書,設計書において確認して指摘すべきことは指摘しなければならないことを改めて認識させられる事例だといえます。