プロジェクトを管理するという法的責任がベンダーにあるのかが争点の一つとなった事件。
事案の概要
ユーザXが自己の会員データに関するデータベースシステムの開発をベンダYに委託した。それと同時に,XはYの勧めにより,当時使用していたマッキントッシュに代えて,前記データベース用にウィンドウズサーバをYから購入し,代金約1500万円を支払った。しかし,システムは完成せず,XはYに対して開発委託契約を解除した。さらに解除の前には,前記サーバ中に格納してあったXのメールデータが大量に消失するというアクシデントがあり,バックアップもとっていなかった。Xは,Yに対し,データベースの開発費用として支払った約700万円と,支払済みの前記サーバ代,さらにはメール喪失による損害賠償の支払いを求めた。
ここで取り上げる争点
Yは,システムが完成しなかった(遅延した)のはユーザXの要望が多かったことなど,X側の責任であると主張したことから,遅延の責任がどちらにあるのかという点。
(サーバの売買代金の返還という争点については,別エントリで取り上げる)
裁判所の判断
裁判所は次のように判断した。
Yは、コンピュータ・ソフトウェアの開発及びそれに関するハードウェアの導入支援という業務を約一五、一六年行っており、マイクロソフトの認定パートナー及び情報処理技術者認定試験の資格を有していることからすれば、Yは、本件契約上の義務として、自らが有する高度の専門的知識経験に基づき、本件契約の目的である本件データベースの開発に努めるべき義務を負担していたと解される
そして,遅延したのは,Xが要望の変更を繰り返したというYの主張に対し,
要望の変更に対しても開発の進行如何によっては受入れられない要望があることは明らかであり、そうであればこれを拒否することもでき、またそうすべきであったというべきであり、単にXの要望が多く変更されたということから、その遅延がXの責任であったと評価することはできない
として,遅延の責任はYにあるとした。
なお,メールデータの喪失に関しては,Yの善管注意義務違反を認めたものの,Xから具体的な損害,機会損失についての立証がないことから,損害賠償は認められなかった。
若干のコメント
この判決の前にも,ベンダによる「プロジェクト管理義務」について判断した判決がある。
本判決もその延長上にあると考えられ,ベンダはもはや単に「ユーザの意思決定が遅い,仕様変更が多い」と主張するだけでは,プロジェクト遅延の責任から逃れることはできないといえる。
ただし,理不尽な要求を繰り返すユーザがいることも確かであり,そういったユーザの対処のためにプロジェクト管理スキルを向上させることはもちろん必要だが,万が一の際に「プロジェクト管理義務を果たした」ことのエビデンスを充実させることも防衛策として必要になってくる。
(記2009/12/26)