IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

システムの完成と瑕疵担保責任 東京地判平21.7.31

システム開発を委託したユーザXが,ベンダYに対し,システムを完成させなかったことが債務不履行にあたる等と主張して,支払済みの代金の返還,損害賠償等を求めた事案。

事案の概要

平成11年3月頃から,XはYに対し,基幹業務システムの開発を委託した。発注は,第1フェーズ基本設計,第2フェーズ詳細設計,第3フェーズ開発の三段階に分けて行われた(代金合計4500万円)。いずれも平成12年12月までには検収完了証が交付されている。


X側の担当者は,兼任者が1名いるのみで,Xが開発を担当するプログラムもあったが,これらは完成せず,Y担当分との結合テストは行われていなかった。後に,平成13年以降になって,X担当分も完成し,Y担当分との結合テストを行ったところ,多数の不具合が発見された。


代金は,第1フェーズ,第2フェーズ分合計1500万円はすべて支払われており,第3フェーズ分は結合テストが行われていなかったことから,5%減額分の2850万円だけ支払われていた。


その後,長期にわたってやり取り・交渉が行われたが決裂し,Xは平成18年6月になって訴訟を提起し,契約を解除した。

ここで取り上げる争点

仕事の履行が認められるか(完成しているか),不完全な履行であった場合には瑕疵担保責任が問えるかという点が争点となっている。


また,瑕疵担保責任を認めるとしても,契約上「検収の日から1年を経過する日までに」請求がない場合には瑕疵にかかる請求ができないとされていたこととの関係から,責任期間が経過したことにより請求権が消滅するかどうかという点についても争点となっている。

裁判所の判断

テストが終了したか否かという点について,

・・いずれのテストにおいても,テスト前にはテスト仕様書を,テスト後にはテスト結果報告書を作成するのが通常であること・・前記認定のとおり,YがXに納入したY担当分のプログラムには,テスト仕様書に基づきテストを行ったにしては通常考え難い多数の不具合が発見されていること,前記認定の本件システム開発の第3フェーズにかかる「御検収依頼書兼納品書」と題する書面の納入物件の中には,テスト結果報告書が含まれていないことに照らせば,Yが単体テスト及び結合テストを行ったとの事実を認めることは困難である。

と述べ,Yが単体テスト結合テストを行わなかったという点において,債務不履行があると認めた。


さらに瑕疵担保責任期間の経過に関しては,第1フェーズ,第2フェーズのドキュメント部分については,期間満了とともに「仮にそれらに瑕疵があるとしても,それを理由に損害賠償や本件契約の解除を主張することはできない。」とした。


ただし,第3フェーズについては,テストの実施について債務不履行があることから,契約を解除できるとした。その結果,現状回復請求権として,支払済みの2850万円(+税)の返還を認めた。Y側の「過失相殺」の主張に対しては,「原状回復義務について,過失相殺の適用ないしその類推適用は認められない」として退けた。

若干のコメント

システムの完成が問題となる裁判例はいくつかあるが,本件も,結局は,完成したか否かという点を「予定されている工程をすべて終えているか」という点で判断しており,瑕疵があるかどうかということは,瑕疵担保責任の有無の問題として別個にとらえている。


特徴的なのは,テスト工程の完了を,「検収証」が出されていることから形式的に認めてしまうのではなく,テスト結果報告書がないことや,多数の不具合が存在したことなど,実質的な内容から否定したところにある。ベンダの立場からすれば,この判決に則る限り,「検収さえ得られればもう大丈夫」というわけにはいかない。

いずれにせよ,予定されていた完成時期から5年以上経過した後に訴訟が提起され,さらに3年後に判決が出されていることに照らすと,この種の問題解決には長い時間を要するものだということがよくわかる。