IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

インターネット関連発明における侵害主体 知財高判平22.3.24判タ1358-184

ブラウザにアドレスバーに数字を入力することで特定のウェブサイトにアクセスできるという特許を有していたXが,JAddressというサービスを提供していたYに対し,サービスの差止め等を求めた事件(特許法判例百選[第4版]65)。

本件特許の概要

特許番号3762882号(「インターネットサーバーのアクセス管理およびモニタシステム」)

特許請求の範囲(請求項1)

(A)インターネットよりなるコンピュータネットワークを介したクライアントからサーバーシステムへの情報ページに対するアクセスを提供する方法であって,
(B)前記クライアントにおいて記述子を提供する段階と,
(C)ディレクトリサーバーが,前記記述子を前記ディレクトリサーバーに存在する翻訳データベースを用いてURLにマッピングする段階と,
(D)前記ディレクトリサーバーが,REDIRECTコマンド中の前記URLを前記クライアントに返送する段階と,
(E)前記クライアントに前記URLを用いて情報を要求させる段階と,
(F)前記URLにより識別されたページを前記クライアント側で表示する段階とを備えた情報ページに対するアクセス方法。

原審

Yによる無効の抗弁(特許法104条の3)を認めて請求棄却した。

ここで取り上げる争点

Yのサービスが,本件特許発明の技術的範囲に属すること,原審で認められた無効事由が存在しないことについては省略し,侵害主体について取り上げる。

上記構成要件のうち,(B)(E)(F)については,クライアントPC側での処理について定めている一方で,(C)(D)についてはサーバ側の処理について定めていることから,本件特許発明の実施主体はYなのか,ユーザなのかが問題となった。

裁判所の判断

発明の名称及び,クレーム解釈から,

本件特許に係る発明の名称は「インターネットサーバーのアクセス管理およびモニタシステム」とされており,上記2(1)アのとおり,本件発明に係る特許請求の範囲の記載から,本件発明における「アクセス」が「インターネットよりなるコンピュータネットワークを介したクライアント」による「サーバーシステムの情報ページ」に対するものであることが明らかである上,構成要件BないしFに規定される各段階は,本件発明において提供される「アクセス」が備える段階を特定するものであると解されるから,このような本件発明の実施主体は,上記のような「アクセスを提供する方法」の実施主体であって,被控訴人方法を提供して被控訴人サービスを実施する被控訴人であると解するのが相当である。

として,Yが実施主体とした。Yの,

Yは,Y方法を使用しているのはパソコンのユーザーであって,Yではないから,Yは本件発明の実施主体ではない

という反論に対しては,

本件発明は「アクセス」の発明ではなく,「アクセスを提供する方法」の発明であって,具体的にクライアントによるアクセスがなければ本件発明に係る特許権を侵害することができないものではない。また,本件発明に係る「アクセスを提供する方法」が提供されている限り,クライアントは,被控訴人方法として提供されるアクセス方法の枠内において目的の情報ページにアクセスすることができるにとどまるのであり,クライアントの主体的行為によって,クライアントによる個別のアクセスが本件発明の技術的範囲に属するものとなったり,ならなかったりするものではないから,クライアントの個別の行為を待って初めて「アクセスを提供する方法」の発明である本件発明の実施行為が完成すると解すべきでもない。

とした。結論としては,原審判決を破棄し,サービスの差止め,損害賠償等の請求が認められた。

若干のコメント

インターネットサービス関連の発明は,システムや,方法の発明として,本件のようにサービスやシステム全体についてクレームされている例が少なくない(特に,一時期流行した「ビジネスモデル特許」など。)。すなわち,発明の構成要件にサーバ側の処理とクライアント側の処理の双方が含まれており,サーバ側の処理を行う事業者が,発明の実施者(侵害主体)と言えるかが問題になる。


事業者が侵害主体になる論理として考えられるのは,

  1. 事業者もクライアント側の処理を行っていると認定して,事業者が「全部実施」しているとする方法
  2. 事業者は確かに全部は実施していないが,課題の解決に不可欠な部分について譲渡等をしているとして間接侵害(101条5号等)しているとする方法
  3. 本件のように,規範的にクレームを解釈し,事業者が実施主体だとする方法
  4. 事業者とユーザの共同侵害であるとする方法

などがある。


1点目は事実認定次第であるし,2点目は「課題の解決に不可欠なもの」や「悪意」などの立証は容易でない。
4点目は,一般に共同行為者の主観的共同・客観的共同が必要だとされるが,事業者とユーザの間には一般に意思疎通がないから,主観的な共同関係が認めにくい。よって,このようなクレームについては,本件のように事業者を規範的に単独侵害主体と評価せざるをえないケースも出てくる。


ただ,最近出願された特許出願においては,このように権利行使しにくいクレームではなく,サーバ側の処理のみを取り出すなど,事業者が単独で侵害主体だと評価しやすいようなクレームになっているものが多いと感じている。


本件では「アクセス」の特許ではなく「アクセスを提供する方法」の発明であるから,事業者が実施主体だとしたが,「アクセスを提供する方法」はクレームの冒頭(プリアンブル)に書かれている一方,クレームの末尾には「アクセス方法」と書かれており,統一されていない。「アクセス方法」の発明だと解釈すれば,ユーザを実施主体とする判断もあり得たのではないか。


サーバ側の処理のみをクレームして「サーバ装置」などの物の発明とした場合,属地主義の観点から,海外にサーバを設置して日本のユーザにサービス提供しているケースで,果たして日本国特許に基づいて権利行使できるか疑問が生じる。最近ではサーバの場所を意識することはほとんどないから,容易に特許権の存在しない国にサーバを設置することで侵害を回避できることになってしまうかもしれない。ただ,本件のような「方法」の発明としたり,「プログラム」の発明とすることで,方法の使用行為やプログラムの実施行為が国内で行われていると評価しやすくなるだろう。