IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

プログラムの創作性,複製行為 東京地判平24.11.30(平24ワ15034号)

プログラムの著作物性及び複製行為の有無が争われた事例(原告本人訴訟であり,争点に対する判断もあまり重要ではない)

事案の概要

個人事業主Xは,不動産業Yに対し,ウェブサイトによる集客を提案し,デモサイトなどの体験をさせた。その後,XはYに対して制作報酬を請求したところ,Yは契約を締結した事実はないとして拒絶したことから,約300万円の支払いを求める訴えを提起したが,そもそも契約が成立していないなどの理由で棄却された(東京地判平21.12.24(当サイト))。Xは,Xの開発したプログラムにアクセスしたYが,表示画面をプリントアウトした行為について,著作権侵害であるとして,280万円の損害賠償を求めた。


なお,XはさらにYによる不正競争(営業秘密の不正利用)を理由とする損害賠償請求の別訴も提起している。

ここで取り上げる争点

Xの開発したプログラムの著作物性とYによる複製行為の有無

裁判所の判断

Yは,本件訴訟は当事者同一で,実質的に蒸し返し訴訟であるから一事不再理効により却下されるべきだと主張したが,訴訟物も争点も異なるから不適法とは言えないとしている。


裁判所は,プログラムの著作物性について,知財高判平24.1.25(当サイト)を引きながら

プログラムに著作物性(法2条1項1号)があるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,プログラム制作者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要する

と一般論を述べたうえで,次のように述べて創作性を認めていない。

Xは,本件プログラムのソースコード(甲6の1。A4用紙7枚(1枚当たり36行。全部で232行)のもの。)を提出するものの,本件プログラムのうちどの部分が既存のソースコードを利用したもので,どの部分がXの制作したものか,X制作部分につき他に選択可能な表現が存在したか等は明らかでなく,X制作部分が,選択の幅がある中からXが選択したものであり,かつ,それがありふれた表現ではなく,Xの個性,すなわち表現上の創作性が発揮されているものといえるかも明らかでない。

さらに,Xは,Yによる複製行為があったことの主張として,Yがアクセスした本件プログラムによって表示された情報のスクリーンショットを提出しているが,仮に本件プログラムの著作物性を認めたとしても,これが複製に当たるとはしなかった。

Xは,Yがブラウザを用いて本件プログラムにアクセスし,その情報をYのパソコンのモニタに表示させ,表示された情報のスクリーンショットを撮り,当該スクリーンショットの画像ファイルを紙である○○に印刷したことが,プログラムの著作物である本件プログラムの複製に当たると主張する。

法にいう「複製」とは,(略)有形的に再製することをいうが(法2条1項15号),著作物を有形的に再製したというためには,既存の著作物の創作性のある部分が再製物に再現されていることが必要である。

これを本件についてみると,紙である○○に記載されているのは画像であって,その画像からは本件プログラムの創作性のある部分(指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなる部分)を読み取ることはできず,本件プログラムの創作性のある部分が画像に再現されているということはできないから,○○の印刷が本件プログラムの複製に当たるということはできない。


他の主張もしていたが,すべての請求が棄却された。

若干のコメント

Xは代理人がついていなかったため,おそらく裁判所から主張,立証についていろいろと助言,示唆があったものと思われます。場合により,代理人をつけたほうがよい,という助言もあったでしょう。しかし,結果的にXは,創作性や複製行為という著作権侵害訴訟におけるもっとも基本的な要件事実の部分を,十分に主張立証することができなかったことが見て取れます。


プログラムの場合には,絵画や音楽と違って,既存部分と,新規に追加した創作的部分との区別は比較的容易かもしれません。しかし,まずは,著作者が創作した部分を特定し,いろいろな選択の幅がある中で,特定の表現を選択したということについて主張立証しないと入口部分ではねられてしまいます。


また,プログラムの著作物の複製というためには,実行結果の表示を以て複製ということはできません(コンパイル,ビルドした結果のバイナリ―ファイルはプログラムの著作物の複製物だと考えられていますが)。