グーグルマップ上の口コミデータが、「個人情報データベース等」に該当するかどうかが問題となった事例。
事案の概要
法律事務所を経営する原告(X)は、被告(Y)が運営する地図アプリ・グーグルマップにおいて、Xの事務所についての投稿記事(本件投稿記事)が掲載されたことについて、Yが、個人情報保護法(個情法)27条1項に違反して、第三者に提供しているとして、個情法35条3項に基づく第三者提供の停止を請求するとともに、記事を削除しなかったことが不法行為に当たるとして慰謝料40万円の請求を行った。
ここで取り上げる争点
グーグルマップが個人情報データベース等(個情法16条1項1号)に該当するか。
(定義)第十六条 この章及び第八章において「個人情報データベース等」とは、個人情報を含む情報の集合物であって、次に掲げるもの(略)をいう。一 特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの
裁判所の判断
グーグルマップでは、地図上に存在する、個人・法人を含む(場所に関連した)事業主のほか、川や山、道路や公園などの地名や企業名等特定の「場所」に関して口コミ情報として、ユーザーが投稿できるようにされており、当該「場所」に関する情報を検索して抽出する索引が付されたデータベース機能が備わっている(弁論の全趣旨)。換言すれば、地図上の地点に結び付けて電子掲示板のスレッドが立てられている状況であって、地図情報の索引に従って検索すると、電子掲示板の内容がみられるデータベースということができる。ところで、個人情報データベース等に該当するか否かについて、立法の過程(乙8)にも鑑みれば、インターネットの検索エンジンのように、検索した結果、たまたま個人情報が検索できる場合を含まないものとされ、個人情報データベース等に該当するためには、個人情報として体系的に構成され、索引が付されている情報を検索することが可能であることがその要件であると解される。グーグルマップは、前記認定のとおり、地図上の地点に関する情報を、体系的に索引をつけて整理したものであって、個人情報に着目してこれを体系的に索引をつけて整理したものではないから、個人情報データベース等に該当しないものと解することができる。
個人情報データベース等に該当しないことから、その他の論点(保有個人データ該当性や、本人同意の有無等)が判断されるまでもなく、請求が棄却された。
若干のコメント
今さらですが、個人情報保護法においては、個人情報取扱事業者にかかる規制の多くは、「個人データ」に関するものなので(安全管理措置(23条)、第三者提供(27条)など)、個人情報データベース等に該当するかどうかが重要です。
個人情報データベース等に該当するための要件として、本文中に引用したように、検索可能性・体系的構成が求められることから、ワープロで作成された議事録であって、出席者の氏名が記録されているものや、カメラの映像、録音した音声などに個人情報が含まれていたとしても、特定の個人情報を検索し得るように体系的に構成されていなければ個人情報データベース等には該当しません*1。
また、法制定時から、検索エンジンが保有するインデックスは、個人情報データベース等には該当しないというのが政府見解でも否定されていました*2。同様に電子掲示板についても、単に氏名等の文字列で検索できる機能があるというだけでは該当しないとされていました。
これらの政府解釈や、Q&A等に照らすと、グーグルマップの口コミは、たまたま個人事業主の事務所について登録できるようになっていたとしても、特定の個人情報を検索できるように体系的に構成したものとは言いがたいため、本件の判断は妥当なものだと思われます。
ほかに、交通事故被害者が通院した医療機関への弁護士紹介に係る回答書について「個人データ」該当性を否定した事例として、静岡地判令2.3.6(当ブログ未紹介)や、「保有個人データ」該当性が問題となった事例として、東京地判平25.5.23があります。