IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

検収の成否 東京地判令3.9.28(平31ワ1658)

検収後に分割で代金が支払われるという条件のもとで、一部の代金が支払われていたという場合において、システムの検収(仕事の完成)が問題となった事例。

事案の概要

ベンダ(被告、Y)は、ユーザ(原告、X)から、平成29年8月9日、旅行代理店事業向けのシステム(本件システム)の開発を請け負った(本件契約)。請負報酬は3840万円で、検収を終えた月の翌月から毎月80万円ずつ支払うこととなっていた。

手付金として、345万6000円が支払われることなっており、平成29年9月に支払われた。手付金は、検収に合格した月の翌月末に返還されることになっていた。

本件システムは、平成30年4月4日に引き渡され、本件契約の請負報酬も、同年4月から8月までの間に、合計400万円が支払われた。

なお、Yは検収書を受領しておらず、手付金も返還していない。

Xは、同年8月ころに、本件システムに存在するバグ、問題点などを一覧にしてYに送付するとともに、納品、検収が終わっていないとして、解除の意思表示をし、手付金、報酬の分割金の合計745万6000円の返還を請求したのに対し(本訴)、Yは、本件契約に基づく仕事は完成しているとして、残代金(約3100万円)の支払を請求した(反訴)。

ここで取り上げる争点

仕事の完成(検収)の有無

裁判所の判断

前提論点として、本件契約における仕事の内容が問題となったが、平成29年9月6日に機能の一覧(本件各機能)が記載された「原型の最終確認」と題する文書が取り交わされたことで、本件システムの仕様が確認されたと認定されている。

Xは、それ以外の機能も随時修正、変更していくこととなっていたと主張していたが、そのような合意内容が書面になっていないとして退けられている。

検収の有無については、次のように認定された。

YがXに対して本件引渡しをしたこと,その後にXが運営していた旅行商品販売システムは,本件各機能及び本件個別的機能等を有していたほか,画面表示についても配色や表示順の一部等を除いて本件システムと同一であったこと,Yから本件システムの製作業務を受託したBの担当者がX担当者に対して本件システムの納品を報告したと読み取れるメッセージを送信したこと,Xが本件引渡しを受けた平成30年4月から5か月間,ほぼ毎月にわたって,毎月末日頃に,検収後に支払う約束であった報酬と同額の金員をYに対して支払っていることなどの事情が認められ,これらの事情からすれば,Yは,本件各機能を具備した本件システムの製作に係る全工程を終え,その成果物を原告に引き渡し,Xがこれを検収したものと認めるのが相当である。

Xが,本件引渡しを受けて上記報酬の支払を開始した後に,本件システムに存在していたとする瑕疵(バグ等)を一覧表にしてこれをYに対して送付した事実,Yが,検収書をXから受領していない事実,検収後に返還すべき旨が合意されていた手付金をXに対して返還していない事実は,上記認定を妨げるものではない

つまり、検収書を受領していないことや、検収後に返還されることが予定されていた手付金が返還されていないといった事情があっても、毎月報酬を支払っていたことなどから完成(検収)は認められるとした。

よって、Xの本訴請求はすべて棄却され、手付金を含めた既払金を控除した残額について、平成30年4月に検収を終えたことを前提とする履行期に従って支払うよう反訴請求を認めた。

若干のコメント

本件は、よくある「不具合があるが完成したか」が問題となった事例です。

契約締結直後に機能一覧を取りまとめた文書が取り交わされ、それ以降は特に仕様に関する合意文書がなかったことから、仕事の範囲は、当該機能一覧(本事案中では、原型確認)記載の機能を開発することで足りると認定した上で、①引渡し行為があったこと、②機能一覧記載の機能が備わっていたこと、③納品を確認するメッセージが送られていたこと、④分割の代金が引渡し後にしばらく支払われていたことから、引渡し、検収が終わったと認定されました。

Xは、テストが実施されていないことや、ユーザ操作教育が実施されていないことなども主張しましたが、裁判所はこれを受け入れませんでした。また、瑕疵担保責任に基づく契約解除も主張していましたが、瑕疵自体の存在を認めなかったか、不具合に当たるとしても、容易に修補することができる可能性があるから、「仕事の目的物に瑕疵があり,そのために契約をした目的を達することができない」(改正前民法635条本文)には当たらないとして否定しています。