IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

職務著作の成否 東京地判平22.12.22

会社Xに入社する前後にYによって作成されたプログラムの著作権の帰属が争われた事例。

事案の概要

NTTデータに在籍中であったYが,知人の会社Xに頼まれて,医療機関向けプログラムA1を開発した。さらにそのあと,事業が発展したことから,YはNTTデータを退職してXの取締役に就任し,在任中に,A1の改良・拡張プログラムであるA2などを開発した。


その後,Xと,Xの取締役を退任したYとの間で,A1,A2の著作権の帰属が争われた(確認訴訟)。

ここで取り上げる争点

いずれも職務著作(著作権法15条2項)に関するもので,

  • A1について,YがXの「業務に従事する者」といえるか
  • A2について,「別段の定め」があるか

争点に対する裁判所の判断

A1について。


A1を開発した当時は,YはXとの間に雇用関係はないことは明らかだった。その上で,著作権法15条における「法人等の業務に従事する者」の解釈を示した最高裁判例であるRGBアドベンチャー事件(最判平15.4.11)の以下の部分を引用し,

「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきものと解する

  • 最初の報酬は5万円の商品券であったなど,プログラム作成のきっかけは個人的な友人関係を基礎とするもの
  • XがYに対して示したのは要望を記載した書面や,他社のコンセプト程度の書面に過ぎない
  • YがXの取締役に就任する以前は,3度にわたって業務委託契約が締結され,その都度業務内容が検討され,報酬額が決定されていた

などの事実を認定したうえで,指揮監督関係はなかったとし,YはA1の開発当時「業務に従事する者」ではなかったとした。→職務著作規定によってYが著作者となることを否定


A2について。


A2は,YがXの取締役在任中に開発したものであるから,職務著作が成立する積極要件はすべて満たしていた。そこで,著作権法15条2項の「その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り」における「別段の定め」があったかどうかが争点となった。


この点に関し,Yは,Xの取締役(Yの友人)とのメールにおいて,「条件については100%OKです。」などとするやり取りがあったと主張したが,Xの社内では,あくまでYの要望が伝えられたのみで,調整が必要であることが確認されているにとどまっていることから,著作権の帰属に関する明確な合意が成立しているとは認められなかった。


また,プログラムの表示画面にYの名を示す「(c)2004-2005 Y」という表示がなされていつつ,それをXが放置していたことについても,これと並列してXの著作権表示もなされていたことから,XがYの著作権帰属を承認していたとも認められなかった。


結局,取締役就任前に開発したA1については,Xの著作権を認めず,就任後に開発したA2について,Xの著作権を認めた。

若干のコメント

プログラムの開発を個人に委託する際,明確な契約を締結しないまま進めることは多い。大手のベンダでは,こうしたトラブルの防止等の目的から,新規の委託先の審査が厳しく,原則として個人への委託は行わない傾向にある。


本件では,個人として開発したプログラムについて,職務著作の成立を認めなかったが,常にそうなるわけでもないので注意が必要だ。固定額の報酬が支払われていて,会社側が用意した設備,機器を利用しているなどの事実があれば,雇用契約関係がなくとも「業務に従事する者」と認められる可能性はある(この点は,労働法の分野における労働者性の判断よりは広く認められる)。


いずれにせよ,個人的な信頼関係から仕事を委託する場合であっても,報酬,成果の帰属などの基本的な事項は書面によって合意しておくことがこうした紛争回避には重要である。