著作権法47条の3(旧47条の2)の解釈が論点となった事例。
事案の概要
Xは,IC性能測定用のソフトウェアを開発し,これをハードウェア(マイコンテストボックス)に組み込んで,三菱電機に納入していた。本件プログラムは,マイコンテストボックスに組み込まれたプログラムである。
Yも三菱電機にYプログラムを搭載したマイコンテストボックスを納入していたところ,XがYに対し,著作権侵害を理由に約3500万円の損害賠償を求めた。
裁判所の判断
本件プログラムの著作物性と,Yによる複製・翻案の有無についても争われてはいるが,裁判所は,詳細な検討をしつつも,これを認めている(判決文の大部分をこの争点によって占められているが,ここでは割愛)。
Yは,三菱電機の複製権,翻案権に基づいて複製,翻案したという主張をしていたため(これは,著作権法47条の3に基づく複製権,翻案権のライセンスを受けていたという主張か?),裁判所は47条の3(当時は47条の2)についての解釈を示した。
三菱電機は、基本契約に基づき、Xからハードウエアであるマイコンテストボックス及びこれに搭載されたソフトウエアを購入した者であるから、プログラムの著作物の複製物の所有者に該当し、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案(これにより創作した二次的著作物の複製を含む。)をすることができる(著作権法47条の2第1項)。
しかし、著作権法47条の2第1項は、プログラムの複製物の所有者にある程度の自由を与えないとコンピュータが作動しなくなるおそれがあることから、自らプログラムを使用するに必要と認められる限度での複製や翻案を認めたものであって、同項にいう「自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要な限度」とは、バックアップ用複製、コンピュータを利用する過程において必然的に生ずる複製、記憶媒体の変換のための複製、自己の使用目的に合わせるための複製等に限られており、当該プログラムを素材として利用して、別個のプログラムを作成することまでは含まれないものと解される。
以上によれば、三菱電機は、メインテナンス等の本件プログラムを利用する過程において必要な限度において、本件プログラムを複製、翻案する権限を有しているに止まり、1個のICを測定する機能を有する本件プログラムを素材として利用して、2個のICを同時に測定する新しいプログラムを作成する権限(複製権)を有していたとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。(なお、三菱電機の【C】は、Xに対し、測定規格値の書いてある部分のファイルについては、規格値を変更し、システム制御プログラムとリンクしてROMにプログラムを焼き付けてマイコンテストボックスに装着して使用することもあると述べており、三菱電機が有する権限は、著作権法47条の2第1項の趣旨に鑑みて、この限度に止まるというべきである。)。
その結果,Yによる著作権侵害を認め,約156万円の損害賠償が認められた。
若干のコメント
ソフトウェア法務を扱っていると,しばしば登場するのが著作権法47条の3です。平成21年著作権法改正前は47条の2でしたが,ひとつずれました。
(1項)プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案(これにより創作した二次的著作物の複製を含む。)をすることができる。ただし、当該利用に係る複製物の使用につき、第113条第2項の規定が適用される場合は、この限りでない。
(2項略)
これは,プログラムの複製物を有していれば,著作権者でなくとも,一定の限度で複製・翻案ができるという規定です。
これにより,例えば,著作権者が破産したり,連絡がつかなくなった場合,あるいは第三者に著作権が譲渡されたりした場合でも,最低限の利用行為は確保できるといえますが,問題は「自ら・・利用するために必要と認められる限度」とはどこまでを指すのかが曖昧であり,システム開発を委託したユーザ側において,著作権が留保されている部分について,どこまで勝手に直せるのか,という疑念が生じています*1。
この点についてLexis Nexisの著作権法コンメンタール808頁(森亮二・小倉秀夫執筆)においては,次のように述べられています*2。
プログラムをその著作者の意図するとおりに利用するのに必要と認められるものに限らず,その複製物の所有者が意図するとおりに利用するのに必要と認められるものについて本条が適用されるというべきである。
(略)
具体的には,下記のような場合は,プログラムの著作物を電子計算機上で利用するためにその複製・翻案が必要な場合に当たるとされている。
1 電子計算機において使用するために,ソースコードをオブジェクトコードに変換する場合
2 プログラムの稼働に当たって適宜CPUからデータを読み込むことができる場所にプログラムデータを記録する場合
3 プログラムの複製物の滅失,既存(ママ)に備えてバックアップコピーを作成する場合
4 プログラムの不具合を修正する場合
5 自己の利用目的に合わせてプログラムの機能を追加,削除または変更する場合
6 使用機械や使用OSに合わせるためにプログラムを修正する場合
このうち,5については,これが認められると,結局,システム開発を委託したユーザは,著作権の譲渡を受けなくとも,47条の3に基づいて,自分のために必要な機能を後から追加できるようになりそうです。
他方で,上山浩「トンデモ”IT契約”に騙されるな」83頁以下では,プログラム保守作業を通じて新しい機能を追加したり,画面レイアウトを変更して使い勝手を良くしたりすることは,47条の3に基づいて行える範囲に含まれない(だからユーザは著作権の譲渡を受けるべし)と述べられています。
本判決も,どちらかというと後者の見解に近く,47条の3についての利用権は狭く解されているようにみえます。いずれにせよ,47条の3を頼りに改変,追加をすることは危険であり,開発委託時の取り決めが重要でしょう。