IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ネットオークション取引における瑕疵 東京地判平16.4.15判時1909-55

インターネットオークションを通じて購入した中古自動車に損傷があったことから,売主が買主に対して,瑕疵担保責任に基づいて損害賠償を求めた事例。

事案の概要

Xは,インターネットオークション上で,アルファロメオ164を64,000円でYから,落札した(開始価格8,000円)。売主であるYの情報によれば,バンパー等に擦り傷があるなどの表示はあったが,「機関は良好」とされていた。


ところが,落札後に搬送されてきた車両には,ガソリンタンクのガソリン漏れや,ドアノブの破損により,外からドアが開かないといった損傷が8種あったため,Xは,これらが瑕疵に当たるとして,Yに対し,修理費等,約77万円の損害賠償を求めた(本件は,一審は簡裁に提起されたが,請求が棄却されたことから,Xが控訴した。)。

ここで取り上げる争点

Xが指摘する損傷は,民法570条の「瑕疵」にあたるか。

裁判所の判断

まず,「瑕疵」の意義について,

民法五七〇条の「瑕疵」とは、売買の目的物が通常備えているべき性能などを備えていないことをいうが、本件のような中古自動車の売買においては、それまでの使用に伴い、当該自動車に損傷などが生じていることが多く、これを修復して売却する場合はともかく、これを修復しないで売却する場合には、その修理費用を買主が負担することを見込んで売買代金が決定されるのが一般的であるから、このような場合には、買主が修理代金を負担することが見込まれる範囲の損傷などは、これを当該自動車の瑕疵というのは相当でない。

として,XY間の売買におけるやりとりで,Xが「ちょこちょこいじりながら乗っていきます。」などと伝えていたことなどから,Xが落札価格を超える相当の出費を覚悟していたことを認めた。

したがって、本件車両に民法五七〇条の「瑕疵」があるというためには、前記した予想ないし予定を超えた損傷が存する場合であることを要する

として,多くの不具合については「瑕疵」とは認めなかった。しかし,

本件車両は、低年式の中古車であって、損傷箇所が存在するとはいえ、本件サイトにはその走行自体が不可能であるとか、危険を伴うといった記載はなく、却って、走行それ自体には問題がないかのような記載がされていたのである。その見地から本件損傷<1>についてみると、本件車両のガソリンタンクのガソリン漏れは、その程度が相当のものであったと認められ(控訴人本人)、この認定を妨げるに足りる証拠はないところ、そのようなガソリン漏れが生じている自動車では、引火の危険性などからして安全な走行それ自体が困難であることは明らかであるから、そのような状態は、本件車両の落札価額の低廉さ、本件サイトの記載を考慮しても、前記した予想ないし予定を超える損傷であったといわなければならない。

と,ガソリンタンクの損傷については,「瑕疵」にあたることを認めた上で,その修理代金「3万円」を損害賠償として認めた。

若干のコメント

たとえ,年式の古いアルファロメオ164で,わずか64000円でオークションで落札したとしても,ガソリンタンクの損傷によるガソリン漏れは,自動車の基本性能を損なうものであるから,瑕疵として売主に担保責任を認める,というものでした。Yが走行には問題がない,と伝えていたことが大きく評価されたといえるでしょう。


また,ドアが車内から開かないという不具合については,売主が事前に伝えていなかったにも関わらず,瑕疵とは認められていません。このあたりの線引きは,取引価格や,取引時の売主・買主間のやり取りによって,どのあたりの損傷を覚悟していたといえるか,というところでの個別判断になるでしょう。


この事例では,ネットオークションでよくみられる「ノークレーム,ノーリターンでお願いします。」という記載はなかったようです。仮に,本件において,このような文言が存在していた場合に,Yが免責されるかどうかも問題になったでしょう。この文言の法的性質は,瑕疵担保責任を負わないという売買契約の特約であると考えられますが,売主が不具合の損害を知りながら,故意に告げなかった場合には,この文言の効力が生じません。また,事業者と消費者の取引であれば,そもそも,消費者契約法8条により,この記載そのものが無効と解釈されるでしょう。


ヤフーオークションの法律相談室では,「ノークレーム・ノーリターン」表記について,

1.「ノークレーム・ノーリターン」の限度は?

出品側の説明や写真のみで商品を判断しなくてはならないネットオークション。そのため「ノークレーム・ノーリターン」が有効なのは、あらかじめ出品者からきちんと説明があったと判断できる場合のみ。

つまり、説明にないシミやキズがあった商品に関しては「ノークレーム・ノーリターン」は無効です。

などとしています。

http://auction.yahoo.co.jp/legal/001/answer/