IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

職務著作の成否2 知財高判平23.3.15(平20ネ11502号)

退職従業員から,情報システムの著作権の帰属確認を求めた事案。

事案の概要

塗料会社YからYの子会社Aに昭和60年に出向して船舶情報管理システム(本件システム)の開発を担当したXが,平成5年に退職した後,平成19年にYに対し,(1)本件システムの著作権が帰属することの確認と,(2)本件システムに対するXの開発寄与分の割合の確認を求めた。


原審(大阪地判平20.7.22)では,(1)の訴えについて,職務著作(著作権法15条2項)の適用を認めて訴えを棄却し,(2)の訴えについては,不適法だとして却下した。原審ではXに代理人はついていなかったようだが,Xが控訴した(控訴審では代理人弁護士がついた)。


控訴審では,主位的には,Xが単独で著作権を有することの確認を求め,予備的に共同著作であることの確認を求めた(原審の(2)の請求も維持されている。)。

ここで取り上げる争点

本件システムの著作者は誰か。

裁判所の判断

結局のところ,判断が微妙な事案ということはなく,ほとんど一方的に,

本件システムの開発が,Xが在籍中の出向元であるYの指示により開始され,Yの完全子会社であるA及びBがその意向を受けて法人として本件システムの開発を発意しているのであるから,両者において当該開発業務に従事するXが,その職務上作成した本件システムのプログラムの著作者は,その作成時における契約や勤務規則等の別段の定めがない限り,法人であるA又はBとなるものと認められ(著作権法15条2項),上記別段の定めについての主張立証はないのであるから,結局,本件システムのプログラムの著作者は,A又はBあるいはその双方であると認めるべきである。

との結論となった。


ただ,知財高裁は,Xの主張として,Yは本件システムについて一切の命令もなく,Xに任せきりであったから,「法人等の発意」(職務著作が認められるための要件の一つ)が欠けると主張したことに対し,

しかし,前示のとおり,本件システムの開発がYの指示により開始され,Yの完全子会社であるA及びBがその意向を受けて同システムの開発を発意している以上,その後の開発過程において,YやA又はBからプログラム作成についての具体的な指示等がなされなかったとしても,また,X主張の確認が継続していなかったとしても,当該各法人による発意の存在が左右されるものではない(略)。したがって,Xの上記主張を採用することはできない。

と,丁寧に退けている。


本件は,退職後何年も経過した後に訴えが提起されたものであるから,そもそもYは,「現在は別の船舶情報管理システムを使用しており,Xが開発したプログラムは今はどこにも存在しない」という趣旨の主張をしている。Xはこれに対し,「現在のシステムは,本件システムを移植したものであって,実質的に同一のものであるから,Xの著作物である。」と主張していた。


この点に関しても,平成5年にXが退職した後,平成9年に新たなシステムが別の事業者によって開発され,それがさらに平成22年に廃棄されて現在のシステムが使用されていることに照らし,現在のシステムと本件システムが「同一又は実質的に同一といえないことは明らか」とされている。


最後に,開発寄与分の割合の確認を求める訴えについては,

Xが本件システムに対する開発寄与分がどれほどの割合かの確認を求める訴えについて判断するに,この割合自体が現在の権利又は法律関係となるものではなく,単なる事実関係の範疇に属するものであり,その事実関係から直截に現在の権利又は法律関係が導かれ,紛争を抜本的に解決するような事実関係ということもできないので,この訴えは,確認の利益を欠くものといわなければならない。

と,一審と同様の理由により却下した。

若干のコメント

本件は,職務著作の成否が問題となった事案ではあるが,出向先で出向元のためのプログラム開発を行ったものであるから,過去に職務著作の成否について取り上げた事案(東京地判平22.12.22)と比べても,ほぼ職務著作が成立することに争う余地がない事案だったといえる。


また,損害賠償その他の金銭請求がなかったのは,あまりにも時間が経過し,請求権が時効により消滅していたためであろう。