IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ビジネスモデル図の著作物性 東京地判平23.4.10(平22ワ31663号)

ビジネスモデルを説明する図と,説明文言の著作物性が争われた事件。

事案の概要

俗にいう「マルチ商法」「ネットワークビジネス」と呼ばれる特定商取引に関する法律33条1項所定の連鎖販売取引のモデルを示した図,その説明文言(下記の図)について,著作権の第一発行年月日登録をしていたXが,同業のYに対し,その図面を使用していたとして,900万円の損害賠償を求めた。



(判決文別紙より抜粋して転載)

ここで取り上げる争点

上記図,文言の著作物性

裁判所の判断

まず,その図の意味するところの報酬計算の算出基準等については,アイデアであって,著作権法によって保護されるべき対象ではないとしたうえで,著作物性について次のように述べて,創作性を否定した。

[1]部分(注:組織図様の図形)のうち,複数の構成員から成る組織の構成を図式化するのに各構成員を円で表現し,構成員相互の結び付きを直線で図示している点は,ごくありふれた表現形式であって(略),それ自体何ら個性ある表現とはいえない。また,1人の構成員の下に必ず2人の構成員が割り振られる本件システムの内容を前提とする限り,その内容を図式化して表現しようとすれば,自ずと[1]部分のように1つの頂点を基に順次2本ずつ枝分かれしていく二分木(バイナリーツリー)のような表現形式を採らざるを得ないのであって,この点においても[1]部分は何ら個性ある表現とは認められない。

[2]部分(注:中央の破線)は,「自分自身を示す頂点の円を起点にピラミッド状のグループ大小を左右に分けて形成」することを視覚的に表現するために,組織全体を左右2つのグループに分けるように頂点の円から真下に破線を引いたものであるが,これも通常用いられるごくありふれた表現形式である。

[3]部分(注:三角形状の図形)は,[1]部分及び[2]部分の存在を前提に本件ビジネスプランの内容である「左右の大小のグループのうち…小さい方のグループが報酬計算の算出基準となる」ことを図式化して表現したものであるが,その内容を図式化して表現するために,大小2つのグループのうち世代が共通する部分を略三角形の形状をした図形で囲むことは,やはりありふれた表現形式であって,何ら個性ある表現とは認められない。


続いて,

左右小数の方で計算し支払いを決める。

という文についても,あっさりと創作性を否定し,Yの図面との同一性,類似性を検討するまでもなく,Xの請求を棄却した。

若干のコメント

著作権法を学び,いくつかの事例に接した専門家であれば,この図や文言に創作性が認められることはないだろうということは理解できるのですが,コンサルティング,ソフトウェア開発業者から,「仕様書」「提案書」などに著作権は生じるのか,どの程度再利用できるのか,という質問は意外に多いです。


本件は,「IT判例」に分類されるべきものではないですが,上記のようなポンチ絵や,そのキャプションについての著作物性が否定された事例ということで,上記のような質問に対する参考になるでしょう。


なお,本件は,Xが第一発行年月日登録をしていたにもかかわらず,創作性を否定されています。周知のように,特許などと違い,著作権は,登録によって生じるものではなく,創作によって生じます。著作権の第一発行年月日登録制度は発行日を公示するという効果(推定される)はあるものの,創作性について審査がされるわけではないため,登録されたからとしても,その対象が著作物であることが保証されるものではないことに注意が必要です。