IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ソフトウェア(ProLesWeb)の画面の著作権侵害 東京地判平16.6.30(平15ワ15478)

ビジネスソフトウェアの画面の著作権侵害が問題となった事例

事案の概要

Yは,Xが開発・販売するソフトウェア(ProLesWeb,Xソフトウェア)のOEM提供を受けていたが,OEM契約が終了した平成14年10月5日以降は,Yが開発したソフトウェア(Webcel,Yソフトウェア)の販売を開始した。


XソフトウェアもYソフトウェアもいずれも,Excelで作成されたデータベースをインターネット上に公開したり利用したりすることができるというものである。


Xは,Yソフトウェアにおける4種の画面がXソフトウェアの複製又は翻案したものであるとして,Yソフトウェアの複製,公衆送信,頒布等の差止めと3700万円の損害賠償等を求めた。

ここで取り上げる争点

著作権侵害の有無

裁判所の判断

ソフトウェアの画面の著作権侵害について,まず次のような一般論を述べた。

コンピュータのディスプレイ上に表示される画面については,
[1]所定の目的を達成するために,機能的で使いやすい作業手順は,相互に似通ったものとなり,その選択肢が限られること,ユーザーの利用を容易にするための各画面の構成要素も相互に類似するものとなり,その選択肢が限られること,
[2]各表示画面を構成する部品(例えば,ボタン,プルダウンメニュー,ダイアログ等)
も,既に一般に使用されて,ありふれたものとなっていることが多いこと,
[3]特に,既存のアプリケーションソフトウェア等を利用するような場合には,設計上の
制約を受けざるを得ないこと
などの理由から,表示画面の創作性の有無を判断するに当たっては,これらの諸事情を勘案して,判断する必要がある。


「本体画面」と呼ばれる画面(図参照)についての判断を引用する。


Xソフトウェアの本体画面


Yソフトウェアの本体画面

(ア) 原告本体画面の上段右側には,帳票などのレポート名及びデータベースのテーブル名がツリー状に表示されるが,ウィンドウズ等のコンピュータの画面において,デバイス,フォルダ,ファイル等をその名称によってツリー状に表示することは標準的に行われている表示方法であるから,原告ソフトウェアにおいて作成するレポートやレコードの名称をツリー状に表示することに表現の創作性は認められない。
(イ) 原告本体画面の上段左側には,データベースのデータをエクセルのひな型に書き出すためのボタン,エクセルのひな型をデータベースに読み込むためのボタンなどが表示されているが,頻繁に用いられる機能に独立のボタンを割り当てることは通常行われることであり,アイコンの形状及び配列についても特徴はなく,表現の創作性は認められない。
(ウ) 原告本体画面の中段には,データベースのデータが表形式で表示され,下段には,中段に表示されたデータの項目に対応するように各項目の属性が表示されるが,複数の項目からなるデータを表形式で表示することは普通に行われることであって,表現上の工夫は認められない。また,各項目の属性を表示する点も,原告ソフトウェアがエクセルのひな型のセルとデータベースのデータの項目とを対応させてデータの追加,修正,削除,書出しを行うものであることからすれば,これらの機能を実現する上で必要となる情報を表示しているにすぎず,表示する情報の選択,表示方法等もありふれたものといえる。本体画面中段,下段の表示には,表現の創作性は認められない。
(エ) 原告本体画面の上記(ア)ないし(ウ)の各表示部分の配置についても,画面の縦横の比率などに由来する制約があって選択の余地は限られており,配置において,創作性があると認めることはできない。また,原告本体画面の全体の外観(色彩及び各表示部分の相互の配置を含む。)も,創作的な特徴を有するとは認められない。
(オ) 以上のとおり,原告本体画面の上段のレポートがツリー状に表示される部分,中段のテーブルのデータが表示される部分,下段のテーブルのデータのフィールド属性が表示される部分,上段左側のボタンが表示される部分は,いずれも創作的な表現であるとは認められない。


その他の画面についても同様に,Xソフトウェアの画面は創作的な表現はないとして著作権侵害を否定した。

若干のコメント

この種の事案としてのリーディングケースといえるのは,サイボウズ事件*1ですが,本件も同様に機能的・ビジネスユースのソフトウェアの画面について,創作性がないことを理由に権利侵害を否定しました。


両画面は確かに一見すると共通点も多いのですが,その構成要素と表示方法は,機能に由来するものであって,画面表示そのものが創作的ではないと考えられます。機能的ソフトウェアの画面は,使いやすさを追求するとデザインが類似するという傾向があるため,権利保護は容易ではありません。


コンピュータソフトウェアの画面が意匠権で保護されるようになるとしても,ありふれたデザインの場合には創作非容易性の要件をクリアできず,やはり保護が難しいように思われます。

*1:本ブログでは未掲載 東京地判平14.9.5判時1811-127