IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

チケットのキャンセル・転売を禁ずる条項の消費者契約法10条該当性 大阪地判令5.7.21(令元ワ9185)

テーマパークのチケットの購入に際して適用されるキャンセル・転売ができないという条項が消費者契約法10条等に該当するか否かが問題となった事例

事案の概要

テーマパークUSJでは、インターネットでチケットを購入する際に適用される利用規約本件利用規約)において、①一定の場合を除いて購入後にキャンセルできない条項(本件条項1)、②チケットの転売を禁止する条項(本件条項2)が定められていた。

消費者契約法に定める適格消費者団体であるX(原告)は、本件条項1が同法10条及び9条1号に、本件条項2が同法10条に該当するとして、USJの運営会社であるY(被告)に対し、同法12条3項に基づく差止請求として、これらの条項の意思表示の停止等を請求した。

本件条項1は、以前は「チケットの種別、理由の如何にかかわらず、購入後のキャンセルは一切できません。」とするものであったところ、XがYに対し上記条項を定めた理由等についての質問事項を記載した書面を送付し、Yが「当社(判決注:被告を指す。)の責めに帰すべき事由がある場合、又は、法令上、消費者に解除権等が認められる場合には、キャンセルに応じることとしている」旨応答し、その後「但し、法令上の解除・無効事由等がお客様に認められる場合はこの限りではありません。」の部分が追加された(本訴提訴時点における本件条項1)。

また、チケットを購入するまでの導線において、

  • 「チケットを探す・購入する」をクリックすると現れる画面において、その中央付近に「ご注意ください!チケットの転売は固く禁止されています。転売チケットはパークで利用できません。」との表示があった
  • 「カートに商品を追加する」の画面の注意事項として、法令上の解除または無効事由等がお客様に認められる場合以外にはキャンセルができない旨表示されるとともに、チケットの転売行為を固く禁止する旨の表示がされて、この表示の横にあるチェックボックスにチェックを入れないと、次の購入者情報画面に進むことができないようになっていた。
  • 購入者情報画面においては、本件利用規約の全文が表示され、スクロールをすべて行って利用規約に同意する旨のチェックボックスをチェックすることではじめて注文内容の確認画面に進むことができるようになっていた。
  • 注文内容確認画面においても、キャンセルができないこと、第三者への転売ができないことの確認についてのチェックが求められ、チェックしないと購入の決定ができないようになっていた。

なお、東京ディズニーリゾートレゴランドハウステンボスでも、チケットのキャンセル、転売が制限されている。

ここで取り上げる争点

本件条項1及び2が、それぞれ消費者契約法10条及び9条1号に該当するか。

消費者契約法10条

消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

法10条は、前段(消費者の権利を制限し、又は義務を加重する条項であること)と、後段(信義則に反して消費者の利益を一方に害するものであること)という2つの要件に分解される。

同法9条

次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの当該超える部分

二 以下略

裁判所の判断

(1)本件条項1の法10条該当性について

Xは、10条前段について、①チケット購入契約は準委任契約又はそれに類する契約に該当するとして、任意解除権(民法656条、651条1項)が適用ないし類推適用されるにもかかわらず、キャンセル不可とすることは、法10条前段に該当するものである、②仮に非典型契約だったとしても一般的な慣習等と比較して消費者に不利に変更されているから法10条前段に該当すると主張していた。

裁判所は、まず、チケット購入契約の性質について無名契約であるとした。

上記のチケット購入契約は、顧客が、YのWEBチケットストアにおいて、特定の日等を指定した上で、当該入場日等において有効となるチケットの代金を支払ってこれを購入し、これに対して、Yが、チケット購入者が購入したチケットの内容に応じて、当該入場日等に、テーマ等に沿ったアトラクションや建造物等の設置等により創った非日常的な空間としてのUSJに入場させ、パレードやショーの上演や、アトラクション等を稼働して利用させ、テーマ等に沿った接遇をするなどするものであり、このようなYから提供を受けるサービスの内容等に鑑みると、チケット購入契約は、民法に規定のない無名契約であるということができる。

そして、上記のチケット購入契約の内容等に照らすと、チケット購入契約においては、Yが、当該入場日等に入場等についての対応が可能なチケット数を設定し、当該チケットを顧客に販売して、これに対して顧客が対価として定められた代金を支払うという点においては、売買契約に類似する側面を有するものといえる一方、チケット代金の対価の対象としては、上記のとおり、Yの運営する非日常的な空間として創られたUSJに入場させ、アトラクション等を稼働して利用させるなどするものであることから、多分に役務提供契約としての側面を有するものということができる。

以上より、準委任契約ではないとしつつ、任意解除権の趣旨について次のように述べた。

準委任契約ないし委任契約において任意解除権(民法656条、651条1項)が認められている趣旨は、これらの契約が当事者間の人的信頼関係に基づく点に求められ、かかる人的信頼関係が一旦破壊された場合には、かかる契約関係を維持させることが相当でないことにあり、一般的に認められる契約の拘束力の例外としての機能を有するものであるところ、上記でみたチケット購入契約においては、USJの顧客の関心事はUSJを運営する法人が誰かではなくUSJで体験等できることが何かであるなど、USJへの入場等を希望する不特定多数の顧客とYとの間には人的信頼関係に基づく契約関係の締結及びその履行という側面を認めることはできないもので、これに基づき当事者間に任意解除権を認めた同条の趣旨があてはまるような契約類型と捉えることもまたできない。

このように述べて、①(準委任契約における任意解除権の制限)を否定し、②(一般的な慣習)についても次のように述べて否定した。

法10条にいう任意規定に一般的な法理等も含まれると理解したとしても、Xの主張は、かかる一般的な慣習等の内容を具体的に主張するものではなく、かえって、USJと同じく大型娯楽施設である上記1⑺アからウまでのテーマパークにおいても顧客からの任意のキャンセルを認める条項は定められておらず、テーマパークとその入場者との間のチケット購入契約において購入者からのキャンセルを認める契約慣行等が存在しているとは認められず、上記の一般的な慣習や沿革を含む一般的な取扱いが存在していると認めることはできないから、Xの主張は採用できない。

これにより、法10条該当性を否定することは可能だが、後段についても裁判所は次のように述べた。

本件条項1が定められた趣旨及び目的を考察すると、本件条項1は、任意かつ自由なキャンセルを認めると、一部のチケットの高額な転売を目的とする者が、大量にチケットを購入した上で、これをYの販売価格よりも高額で転売し、転売ができなかったチケットはキャンセルするというような手法等を取ることによって、本来Yが販売する正規のチケット価格で入場等することができるはずであった顧客が、かかる高額のチケットを購入せざるを得なくなる事態を避けるためのもので、チケット価格の高額化を防ぐ目的を有するものといえ(かかる目的を有することについて当事者間に争いはない。)、このような趣旨及び目的は合理性のあるものということができる。

そして、このようなチケット価格の高額化の防止によって、顧客がUSJに来場する意欲を減退させることを防ごうとするYのみならず、消費者である顧客も、チケットの転売者から高額化したチケットを入手しなくとも、正規の販売価格でチケットを入手してUSJに入場等することができ、それによる利益を得ているものと評価することができるから、顧客とYの双方において、上記手法等によるチケット価格の高額化による不利益を免れているといえ、このような本件条項1は、Yのみを一方的に利するものであるとは認められない

加えて、上記の転売及びキャンセルを組み合わせた手法によるチケットの高額転売については、Yにおいても労力とコストをかけてそれらに対する監視等の措置を実際に執っており、現時点においてもなお本件チケットがインターネット上において正規の販売価格よりも高額で取引される例が見受けられることからすると、現時点でも本件条項1を維持する必要性は否定できない。

また、その他、チケット購入までの導線等も含めて誤購入が生じやすいものとはいえない、などと認定し、Xの主張を退けた。

(2)本件条項1の法9条1号該当性について

Xは、本件条項1は、解除してもチケット代の返還を受けられないものであるから違約金を徴収するものと同じであるとして「解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」であると主張していたが、裁判所は、そのような解釈は文理上無理があるとして退けた。

(3)本件条項2の法10条該当性について

Xは、本件条項2は、本来自由に行えるはずの債権譲渡を制限するものであるから、法10条前段に該当するなどと主張していた。

Yとの間でチケットの購入契約を締結して本件チケットを購入した者は、購入したチケットの内容に応じて、上記2⑴のとおり、Yから、非日常的な空間として創られたUSJに入場させ、アトラクション等を稼働して利用させるなどの役務の提供を受けることができるものであるが、他方で、上記1⑵エのとおり、チケットの購入者には、手荷物検査、分煙、撮影、危険物等の物品の持込み禁止等のUSJの園内における各種制約等も遵守することが求められ、仮にチケットの転売が許容されたとしても、チケットを譲り受けた者は、チケットの購入者が遵守を求められていたこのような制約等も承継して遵守することが求められると解されるのであり、このような側面をみると、チケットの転売には、債権譲渡に還元できない要素があり、Yとチケット購入者との間の複合的な権利義務関係としての法的地位の移転を伴うものとして、契約上の地位の移転とみるべきである。

したがって、本件チケットの転売が債権譲渡であることを前提に、本件条項2が原則自由とされている債権譲渡を制限するものとして、任意規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限するものである旨のXの上記主張は採用できない。

また、Xは、チケットの転売を契約上の地位の移転と捉えても、当該契約の相手方は誰でも構わない状態債務のようなものであるとして、相手方である被告の承諾は不要である旨の主張をするが、契約上の地位を移転するためにはその契約の相手方の承諾が必要とされているところ(民法539条の2)、本件チケットの転売を自由に認めると、上記3⑶アのとおりチケット価格が高額化するなどの弊害が生じるおそれがあり、誰がどのような目的で転売をし、転売を受けるのかについてはYも合理的な利害ないし関心を有しているということができることからすれば、本件チケットの転売である契約上の地位の移転について、上記規定と異なる解釈を採るべき理由はなく、Yの承諾は不要である旨のXの上記主張も採用できない。

さらに、10条後段該当性についても、次のように述べて信義則に反するとは認めなかった(改行位置等を適宜修正している。)。

しかしながら、他方で、

①上記3⑶アのとおり、本件条項2が定められた趣旨及び目的は、高額で転売する目的でのチケットの入手及び販売という手法等を封じることで、チケット価格の高額化を防ぐことにあり、このような趣旨及び目的は合理性のあるものということができ、これによって、Yのみならず、消費者である顧客においてもチケット価格の高額化による不利益を免れるという利益を得ており、本件条項2はYのみを一方的に利するものとは認められないものでもあること、実際に、現時点においても本件チケットがインターネット上において高額で取引されている例も見受けられ、かかる状況下においては、上記の目的を達成するために本件条項2を維持する必要性は否定できないこと、

②また、上記3⑶イのとおり、チケット購入後の購入者らの事情変更等は専ら顧客側の事情によるものであるほか、誤購入に関しても、Yは、入場日等の確認を再度顧客に促すなどして顧客による誤購入がないよう注意喚起をしており、顧客による誤購入への一定の配慮がされていると評価できること、

③さらに、上記3⑶ウのとおり、最終的なチケットの購入に至るまでの各画面において、複数回にわたって本件各条項の内容が繰り返し表示されるなどしており、顧客においても、本件各条項の内容について十分な認識を持ったうえで、チケット購入契約を締結しているということができ、顧客と被告との間に本件各条項についての理解の差があるとは認められないこと、

④加えて、上記3⑶エのとおり、顧客の予定変更等に伴う日程の変更についても、一部のものを除きスタジオ・パスについては、経済的負担なく長期間といえる期間内での入場日の変更が可能とされており、上記⑵の不利益にも相当程度の対処がされているとみることができることなどの各事情に照らせば、本件条項2は、信義則に反する程度に当事者間の衡平を害するものということはできず、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものということはできない。

さらには、Xは、東京オリンピックパラリンピックのように公式チケットリセールサービスを開設することで再販売を可能にすることができたと主張していたが、常に消費者に生じる不利益が少ない手段を講じる義務まではないことなどを挙げて否定した。

若干のコメント

各種チケットの転売は社会問題となっており、2019年には、いわゆるチケット不正転売禁止法が施行されています。

チケットの転売は、消費者のみならず、運営者にとっても悩みのタネになっていることから、本件条項のような転売禁止条項を設けているケースが多いですが、一方で、都合が悪くなった場合などに、キャンセルや転売が制限されていると、消費者に不利益が生じうることから、こうした条項の有効性が問題とされました。

しかし、本文中に詳細に引用したように、本件では、こうした条項は、無名契約であることから民法のルールに比べて消費者の権利を制限したり、義務を加重するものではないとされ、実質的にも目的が合理的であると認められていることなどが認められ、消費者契約法10条等に違反するものではないとされました。

逆に言えば、サービスの内容によっては、キャンセル・転売を禁止することが、正当化されないケースもあり得るといえるでしょう。

【補足1】本件の原告のサイトによれば、控訴され、本ブログ作成時点(2024.9.16)においてもまだ係属中のようです*1控訴審判決もまた、当ブログで取り上げてみたいと思います。

【補足2】ウェブ上で閲覧可能な評釈として、岡田愛教授の判批があります。岡田教授は、本件条項1、2は差止めが認められるべきだと述べています。

【補足3】本判決について、消費者契約法39条1項*2に基づいて、消費者庁が公表しています。

*1:

USJ のチケット利用規約のキャンセル・転売条項の差止めを求める控訴審第5回裁判が行われました。 | 適格消費者団体 特定非営利活動法人 消費者支援機構関西

*2:39条(判決等に関する情報の公表)1項 内閣総理大臣は、消費者の被害の防止及び救済に資するため、適格消費者団体から第二十三条第四項第四号から第九号まで及び第十一号の規定による報告を受けたときは、インターネットの利用その他適切な方法により、速やかに、差止請求に係る判決(略)又は裁判外の和解の概要、当該適格消費者団体の名称及び当該差止請求に係る相手方の氏名又は名称その他内閣府令で定める事項を公表するものとする。